第12話:王都のパーティーとツンデレ令嬢
翌朝、俺たちは王都へと向かう馬車に乗り込んだ。
公爵家が用意してくれた豪華な馬車は、内装も素晴らしく、クッションの効いた座席が長時間の移動でも快適だった。窓からは、街を抜けて草原へと続く景色が流れていく。
「王都か...久しぶりだな」
クレアが、窓の外を眺めながら呟いた。彼女は以前、王都の騎士団に所属していたことがあるらしい。
「クレア、王都に住んでたのか?」
「ああ。騎士としての修行を積んでいた頃にな。だが、あまりいい思い出はない」
クレアの表情が、少しだけ曇る。何か辛いことがあったのだろうか。俺は、それ以上聞くのはやめておいた。
「私は、王都は初めてだ」
リリエルが、興味深そうに言う。
「貴族社会というものを、実際に観察できる貴重な機会だ」
相変わらず、研究者らしい視点だ。だが、その目には、少しだけ期待の光が宿っているように見えた。
「わたしも初めて! ドキドキする!」
ミーナは、座席で落ち着きなく動き回っている。尻尾がぱたぱたと揺れていて、興奮が隠せないようだ。
「リーナさんは?」
「私も初めてです! こんな豪華な馬車に乗るのも初めてで...」
リーナは、少し緊張した様子で周囲を見回している。だが、その目は楽しみに満ちていた。
馬車は、順調に進んでいく。途中、いくつかの街や村を通り過ぎた。どこも活気があり、人々が平和に暮らしている様子が見える。
「この国、平和でいいな」
「ああ。だが、それも魔物がいなければの話だ」
クレアが、少し険しい表情で言う。
「魔物は、いつどこから現れるか分からない。だからこそ、俺たちのような冒険者が必要なんだ」
「そうだな」
俺は、クレアの言葉に頷いた。この世界には、まだまだ危険が潜んでいる。だが、それを守るために、俺たちがいる。
数時間後、馬車は王都の城門前に到着した。
「着いたぞ」
クレアが、窓の外を指差す。
そこには、巨大な石造りの城壁と、その中央に聳え立つ門があった。門の上には、王国の紋章が掲げられている。衛兵が、馬車を確認してから門を開けてくれた。
城門をくぐると、目の前に広がったのは、想像以上に豪華な街並みだった。
石畳の道路が整然と続き、両側には立派な建物が立ち並んでいる。商店も、街で見たものとは比べ物にならないほど高級そうだ。人々も、皆きちんとした服装をしていて、洗練された雰囲気を漂わせている。
「すごい...これが王都...」
ミーナが、目を輝かせながら窓に張り付いている。
「本当に、素敵な街ですね...」
リーナも、感嘆の声を上げる。
馬車は、街の中心部へと進んでいく。やがて、一際大きな邸宅の前で止まった。
「ここが、アーベントロート公爵家か...」
俺は、その邸宅を見上げた。
三階建ての豪華な建物で、正面には大きな噴水がある。庭も広く、手入れの行き届いた花壇が美しい。まさに、貴族の館という雰囲気だ。
馬車から降りると、すぐに執事らしき老人が出迎えてくれた。
「レン・タカミ様とご一行ですね。お待ちしておりました」
「よろしくお願いします」
「私は、この館の執事を務めておりますセバスチャンと申します。どうぞ、こちらへ」
セバスチャンに案内されて、俺たちは邸宅の中へと入った。
玄関ホールは、吹き抜けになっていて、天井には豪華なシャンデリアが吊るされている。壁には、歴代の当主と思われる肖像画が並んでいる。大理石の床は、磨き上げられて光を反射している。
「すごい...」
ミーナが、小さな声で呟く。
セバスチャンは、俺たちを広間へと案内した。
そこには、既に多くの貴族たちが集まっていた。男性は皆タキシードやフロックコート、女性は華やかなドレスを纏っている。シャンパングラスを手に、優雅に会話を楽しんでいる様子だ。
俺たちが入ると、貴族たちの視線が一斉にこちらに向いた。
「あれが、街を救った英雄か」
「若いな」
「美女ばかり連れて...羨ましい」
様々な囁きが聞こえてくる。だが、悪意のあるものではなく、むしろ興味津々といった様子だ。
「レン殿!」
大きな声が響き、一人の初老の男性が近づいてきた。立派な口髭を蓄え、威厳のある雰囲気を纏っている。間違いなく、この館の主だろう。
「アーベントロート公爵です。よくぞお越しくださった」
「お招きいただき、ありがとうございます」
俺は、丁寧に一礼した。
「いやいや、こちらこそ。街を何度も救ってくださった英雄に、ぜひお会いしたかったのです」
公爵は、満面の笑みで俺の手を握った。
「そして、こちらの美しい方々は?」
「私の仲間です。クレア、リリエル、ミーナ、そしてリーナさんです」
俺が紹介すると、四人はそれぞれ礼をした。
「これはまた、素晴らしい。美女ばかりですな」
公爵は、満足そうに頷いた。
「さあ、どうぞ。食事も飲み物も、お好きなだけお楽しみください」
「ありがとうございます」
公爵は、他の来賓の対応があるのか、俺たちに一礼してから去っていった。
「さて、どうするか...」
俺が周囲を見回していると、突然、冷たい声が聞こえてきた。
「ご機嫌よう」
振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。
金髪を縦ロールに結い上げ、青い瞳で俺たちを見下ろしている。年齢は十七、八歳くらいだろうか。青いドレスを纏い、その立ち姿は優雅そのものだ。だが、その表情には、どこか高慢な雰囲気が漂っている。
「私は、シャルロット・フォン・アーベントロート。この館の娘です」
少女——シャルロットは、そう名乗った。
「初めまして。レン・タカミです」
「ええ、存じておりますわ。あなたが、噂のレンなのですね」
シャルロットは、俺を値踏みするような目で見つめた。
「フン、平民風情が英雄だなんて。世も末ですわね」
その言葉に、クレアが眉をひそめた。
「おい、失礼だぞ」
「あら、失礼? 事実を述べただけですわよ」
シャルロットは、涼しい顔で答える。
「貴族でもない、家柄もない、ただの平民が英雄扱いされるなんて。本当に、この国の基準は低くなりましたわね」
その傲慢な態度に、ミーナが怯えたように俺の後ろに隠れる。
「こわい...」
リリエルは、冷静にシャルロットを観察している。
「興味深い性格だ」
リーナは、困ったように笑顔を作っている。
「あの...シャルロット様...」
だが、俺は冷静だった。こういうタイプの人間は、前世でも何度か会ったことがある。高圧的な態度の裏には、大抵何かコンプレックスや孤独が隠されている。
「お嬢様は、随分と高いところにいらっしゃるようで」
俺がそう言うと、シャルロットの表情が一瞬凍りついた。
「...何ですって?」
「いえ、何も。ただ、そんなに高いところにいたら、周りが見えなくて危ないですよ、と思っただけです」
「...!」
シャルロットの頬が、ほんの少しだけ赤くなった。図星を突かれたのだろう。
「な、何を言っているのかしら。私は、貴族として当然の態度を取っているだけですわ」
「そうですか。それなら結構です」
俺は、それ以上何も言わずに、軽く会釈してその場を離れた。
クレアたちも、俺に続く。
「あの令嬢...感じ悪いな」
クレアが、小声で呟く。
「まあ、色々あるんだろう」
「お前、優しいな」
「そうか?」
俺たちは、広間の端にあるテーブルへと移動した。そこには、様々な料理が並べられている。
「すごい料理...」
ミーナが、目を輝かせる。
「お腹空いてたから、嬉しい!」
「食べ過ぎるなよ」
「うん!」
俺たちは、料理を取りながら、パーティーを楽しんだ。
だが、時々シャルロットの姿が目に入る。彼女は、広間の隅で一人佇んでいた。他の貴族たちは、彼女に話しかける様子もない。むしろ、避けているようにすら見える。
「あの子、いつも一人なのよね」
近くにいた貴族の婦人たちが、小声で話している。
「プライドが高すぎるのよ。誰とも打ち解けようとしないし」
「可哀想に。父親は優しいのに、娘はああなのね」
その会話を聞いて、俺は何となく理解した。
シャルロットは、孤独なのだ。
高いプライドが邪魔をして、誰とも心を開けない。だから、ああやって強がっているのだろう。
パーティーが進み、夜も深まってきた頃、俺は少し外の空気を吸いたくなった。
「ちょっと、庭に行ってくる」
「分かった。気をつけてな」
クレアが、頷いてくれる。
俺は、広間を抜けて庭へと出た。
夜の庭は、静かで落ち着いている。月明かりが、噴水を照らしていて、幻想的な雰囲気だ。
ベンチに座って、空を見上げる。星が、綺麗に輝いている。
「...はぁ」
溜息をつくと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
その時、足音が聞こえた。
「あら...」
振り返ると、そこにはシャルロットが立っていた。
「あなたも、外の空気を?」
「ああ。少し、騒がしかったから」
「...そうね」
シャルロットは、少し迷ってから、俺の隣に座った。
しばらく、沈黙が続いた。
「...あなた、怒っていないの?」
シャルロットが、小さな声で尋ねてきた。
「何が?」
「さっき、失礼なことを言ったわ。平民だとか...」
「ああ。別に怒ってないよ」
「...どうして?」
「お嬢様が、本当にそう思って言ったわけじゃないって分かるから」
シャルロットは、驚いたように俺を見た。
「...何を根拠に?」
「勘だよ。でも、当たってるだろ?」
「...」
シャルロットは、何も言わずに俯いた。
「パーティー、楽しくなかったのか?」
「...楽しいわけないでしょう」
シャルロットは、少し苦しそうに答えた。
「誰も、私と話してくれない。みんな、私を避ける」
「それは...」
「私が、悪いのよ。分かっているわ。プライドが高すぎて、誰とも打ち解けられない」
シャルロットの声が、震える。
「でも...どうすればいいか分からないの。貴族として、どう振る舞えばいいのか。みんなと、どう接すればいいのか」
その言葉を聞いて、俺は理解した。
シャルロットは、本当は誰かと仲良くなりたいのだ。だが、その方法が分からない。だから、高圧的な態度で自分を守っているのだろう。
「無理しなくていいんだよ」
俺は、優しく言った。
「貴族として、とか、そういうの関係なく。ただ、素直に自分の気持ちを伝えればいい」
「...素直に?」
「ああ。難しく考える必要はない」
シャルロットは、俺を見つめた。
その目には、涙が浮かんでいた。
「...どうして、そんなに優しいの?」
「困ってる人を放っておけないだけだよ」
「困ってる...私が?」
「ああ。お嬢様、困ってるだろ?」
「...」
シャルロットは、何も言えなかった。
ただ、静かに涙を流していた。
俺は、何も言わずに、ただ彼女の隣に座っていた。
しばらくして、シャルロットが口を開いた。
「...ありがとう」
「どういたしまして」
「あなた...名前は?」
「レンだよ」
「レン...覚えたわ」
シャルロットは、少しだけ微笑んだ。
その笑顔は、先ほどまでの高圧的な雰囲気とは全く違う、柔らかくて優しいものだった。
「また、話してもいい?」
「もちろん」
「...ありがとう」
シャルロットは、立ち上がって館の中へと戻っていった。
俺も、少し遅れて広間へと戻った。
クレアたちが、心配そうに俺を見ている。
「どうした? 遅かったな」
「ああ、ちょっと庭で考え事をしてた」
「そうか」
その夜、パーティーは盛況のうちに終わった。
俺たちは、公爵家が用意してくれた客室で一泊することになった。
ベッドに横になりながら、俺はシャルロットのことを考えていた。
あの子は、本当は優しい子なのだろう。
ただ、孤独で、誰かに心を開く勇気がないだけだ。
明日も、パーティーは続く。
また、シャルロットと話せるだろうか。
そんなことを考えながら、俺は眠りについた。
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