第1話:異世界転生と女神の祝福
深夜三時。
東京のオフィスビルの一室で、俺——レン・タカミは一人、パソコンのモニターと睨めっこしていた。
画面に映るのは、無機質なプログラムコードの羅列。そして、画面の隅に表示された残酷な文字。
『納期まであと12時間』
「...マジできつい」
俺は疲労困憊した声で呟き、デスクに置いた缶コーヒーに手を伸ばした。既に冷め切っていて、味なんてほとんど分からない。それでもカフェインが欲しくて、無理やり喉に流し込む。
二十七歳。ITベンチャー企業の中堅エンジニア兼プロジェクトマネージャー。
聞こえはいいが、要するに何でも屋だ。コードも書くし、部下の管理もする。クライアントとの打ち合わせにも出る。そして、納期が迫れば、こうして深夜まで一人で残業する。
「異世界転生とか...ないかな...」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
最近、暇を見つけては読んでいた小説投稿サイトの影響だろう。過労死したサラリーマンが異世界に転生して、チート能力で無双して、美女たちに囲まれてハーレムを作る——そんな夢物語。
「俺も...そんな人生、送りたかったな...」
自嘲気味に笑う。
だが、現実は厳しい。納期は待ってくれないし、クライアントは容赦ない。上司は無茶な要求をしてくるし、部下は頼りない。そして、彼女なんていない。いや、作る暇もない。
「...はぁ」
大きく溜息をついて、再びモニターに向かおうとした、その時だった。
突然、胸の奥から鋭い痛みが走った。
「...っ!?」
思わず胸を押さえる。痛い。痛みが、どんどん強くなる。
「なんだ...これ...」
視界が揺れる。息が、うまく吸えない。
心臓が、おかしい。
「え...まさか...」
まさか、俺、死ぬのか?
冗談だろ。まだ二十七歳だぞ。これから...これから...
「助け...」
声を出そうとしたが、誰もいない。深夜三時のオフィスに、俺以外、誰も。
身体が、デスクに倒れ込む。モニターが視界の端で光っている。
『納期まであと12時間』
ああ、納期...間に合わなかったな...
そんなどうでもいいことを考えながら、俺の意識は、ゆっくりと闇に飲み込まれていった。
「...ん」
どれくらい時間が経ったのだろう。
ふと、意識が浮上する。
最初に感じたのは、不思議な浮遊感だった。身体が、どこにも触れていない。まるで、空中に浮いているような。
そして、次に気づいたのは、光だった。
真っ白な光。
目を開ける。そこは、一面真っ白な空間だった。
床も、壁も、天井も——いや、それすらもない。ただ、無限に広がる白。
「...ここは?」
声を出す。ちゃんと声が出る。
それで、俺は気づいた。
死んだはずなのに、意識がある。身体も、ちゃんと動く。
「俺...死んだんじゃ...」
混乱する頭で周囲を見渡すと、ふと、視界の先に"何か"があることに気づいた。
いや、"誰か"だ。
人影。
それも、どこか神秘的な、美しい人影。
「目が覚めたのね」
その人影——女性が、優しい声で語りかけてきた。
俺は思わず、その場で固まった。
なぜなら、その女性が、あまりにも美しかったからだ。
プラチナブロンドの長い髪。透き通るような白い肌。そして、深い青の瞳。身に纏うのは、純白のドレス。まるで、絵画の中から抜け出してきたような、現実離れした美貌。
「え...えっと...」
思わず言葉に詰まる。
女性はクスクスと笑い、俺の前までゆっくりと歩いてきた。
「驚くのも無理はないわね。突然、こんな場所に連れてこられたのだから」
「あ、あの...あなたは...?」
「私は女神よ」
女神。
その単語を聞いた瞬間、俺の脳裏に、最近読んでいた小説の光景が蘇った。
異世界転生もの。主人公が死んで、女神に会って、異世界に転生する——あの、お約束の展開。
「まさか...マジで...?」
「ええ、そのまさかよ」
女神は優しく微笑んだ。
「あなた、レン・タカミ。二十七歳。過労で心臓発作を起こして、亡くなったわ」
「...やっぱり、死んだんだ」
現実を突きつけられて、妙に冷静になる。
ああ、そうか。俺、死んだのか。
過労死。
なんとも、情けない死に方だ。
「可哀想に...まだ若いのに」
女神は、本当に悲しそうな表情を浮かべた。
「あなたの人生、見させてもらったわ。真面目に働いて、誰かのために尽くして...でも、報われなかった」
「...まあ、そんなもんですよね」
俺は肩を竦める。
「でもね、レン」
女神は、俺の目をじっと見つめた。
「あなたには、もう一度、チャンスをあげたいの」
「...チャンス?」
「ええ。異世界に転生するチャンスよ」
その瞬間、俺の心臓が——いや、もう心臓はないのか——とにかく、胸が高鳴った。
「異世界...転生...!」
「そう。あなたが好きだった、あの小説みたいにね」
女神はイタズラっぽく笑う。
「本当に...いいんですか?」
「ええ。そして、特別にチート能力もあげるわ」
「チート能力!?」
思わず声が大きくなる。
女神は俺の反応を見て、楽しそうにクスクス笑った。
「あなた、素直で可愛いわね」
「い、いや、だって...!」
だって、これは俺の夢だったんだ。
異世界転生。チート能力。そして——
「ハーレムとか...作れますか?」
「ふふ、もちろんよ」
女神はウインクした。
「あなたなら、きっと素敵なハーレムを作れるわ」
「マジですか!?」
「ええ。だから、特別に——」
女神は両手を広げた。
「盛り盛りで、チート能力をあげちゃうわね♪」
その瞬間、俺の身体が光に包まれた。
暖かい光。それは、まるで母親に抱かれているような、優しい感覚だった。
そして、頭の中に、次々と"何か"が流れ込んでくる。
【万能魔法】
【ステータス無限成長】
【アイテムボックス】
【万能言語理解】
【鑑定眼】
【創造魔法】
【不死身の身体】
【カリスマ】
「これ...全部!?」
「ええ、全部よ」
女神は満足げに微笑む。
「さあ、行きなさい。新しい世界で、思いっきり楽しんできて」
「あ、ありがとうございます、女神様!」
俺は思わず頭を下げた。
女神は優しく微笑み、最後にこう言った。
「それと、レン」
「はい?」
「いっぱい幸せになりなさい♪」
女神がウインクする。
その瞬間、光が一層強くなり、俺の身体が浮き上がった。
「うわっ!?」
視界が、真っ白に染まる。
そして——
次に目を開けた時、俺は草原の上に寝転んでいた。
「...っ」
身体を起こす。
最初に目に入ったのは、青い空だった。
どこまでも澄んだ、美しい青空。そして、白い雲がゆっくりと流れている。
「ここが...異世界...」
周囲を見渡す。
一面の草原。遠くには森が見える。そして、さらに遠くには、街らしき城壁も見えた。
風が吹く。草の匂い。花の香り。鳥の鳴き声。
全てが、新鮮だった。
「マジで...異世界に来たんだ...」
実感が湧いてくる。
俺は、異世界に転生した。
「よっしゃああああ!!」
思わず叫んでいた。
嬉しい。嬉しすぎる。
前世の激務から解放された。そして、チート能力まで貰った。これから、自由な人生が待っている。
「異世界最高ー!!」
草原の真ん中で、俺は両手を広げて叫んだ。
周りに誰もいないから、恥ずかしくない。
しばらく、はしゃいだ後、ふと自分の身体を確認する。
「あれ...若返ってる?」
手を見る。シワがない。張りがある。
近くに水溜まりを見つけて、覗き込む。
水面に映る俺の顔——二十歳くらいだろうか。前世より明らかに若い。そして、黒髪に、深い青の瞳。
「...イケメンになってる!?」
思わず二度見する。
いや、前世も悪い顔じゃなかったけど、これは...かなりのイケメンだ。中性的な美形だが、男らしさもある。
「チート能力、恐るべし...」
そして、服装も変わっている。
前世のスーツではなく、異世界風の服。黒を基調としたシンプルな服だが、動きやすそうだ。
「さて...」
俺は立ち上がり、周囲を見渡す。
「とりあえず、街に行くか」
遠くに見える城壁。あそこが、この世界の街だろう。
歩き出そうとした、その時だった。
「ステータス、確認できるかな?」
そう呟いた瞬間、脳内にウィンドウが浮かび上がった。
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【ステータス】
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名前: レン・タカミ
年齢: 20歳(外見)
種族: 人間
レベル: 50
職業: 勇者
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【基本ステータス】
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HP: 9999/9999
MP: 9999/9999
力: 999
防御: 999
魔力: 999
敏捷: 999
運: 999
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【スキル】
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・万能魔法 Lv.MAX
・ステータス無限成長 Lv.MAX
・アイテムボックス Lv.MAX
・万能言語理解 Lv.MAX
・鑑定眼 Lv.MAX
・創造魔法 Lv.MAX
・不死身の身体 Lv.MAX
・カリスマ Lv.MAX
・剣術 Lv.MAX
・体術 Lv.MAX
・料理 Lv.MAX
・その他多数...
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【称号】
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・異世界転生者
・女神の寵愛を受けし者
・勇者
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「...は?」
思わず呆然とする。
全部カンスト。
いや、ステータスが999って、どういうことだ?
レベル50で、既にこれか。
「女神様、盛りすぎでは...?」
でも、文句はない。
むしろ、最高だ。
「よし、この力を試してみるか」
俺は森の方へ向かって歩き出した。
森に入ると、すぐに"それ"と遭遇した。
「...スライム?」
目の前にいるのは、青いゼリー状の生物。
ぷるぷると震えながら、俺の方へ近づいてくる。
大きさは、バスケットボールくらい。
可愛い...と思ったのも束の間、スライムが俺に向かって跳びかかってきた。
「おっと」
反射的に横に避ける。
身体が、信じられないくらい軽い。前世とは比べ物にならない。
スライムが地面に落ちて、再び俺を見上げる。
「...襲ってくるのか」
どうやら、敵意があるらしい。
「じゃあ、試しに魔法を使ってみるか」
俺は右手を前に突き出した。
「えっと...ファイアボール!」
詠唱する。
すると、次の瞬間——
右手の前に、巨大な火球が出現した。
「うおっ!?」
自分でも驚く。
火球は、直径一メートルはあろうかという大きさ。そして、凄まじい熱量。
「でかすぎだろ!?」
慌てて、スライムに向けて放つ。
火球は、スライムに直撃——
いや、直撃どころか、スライムを一瞬で蒸発させた。
さらに、その後ろにいた木も、一緒に燃え上がる。
「...おい」
俺は呆然と、燃える木を見つめた。
「強すぎない...?」
いや、分かってた。ステータスが999なんだから、強いに決まってる。
でも、ここまでとは。
「詠唱なしでも行けるかな?」
今度は、詠唱せずにイメージだけで魔法を発動してみる。
手のひらに、小さな火球が浮かぶ。
「お、できた」
これなら、コントロールしやすい。
俺は、その小さな火球を消して、歩き出した。
しばらく森を歩いていると、またスライムに遭遇した。
今度は三体。
「よし、今度は手加減して」
右手を前に。
「ファイア」
小さな火球を三つ、同時に生成。
それぞれ、スライムに向けて放つ。
火球はスライムに命中し、三体とも一瞬で倒れた。
「...やっぱり強い」
スライムが消えた後、小さな青い石が残った。
「これが...魔石?」
【鑑定眼】を使ってみる。
━━━━━━━━━━━━
【アイテム】
━━━━━━━━━━━━
名前: スライムの魔石
ランク: F
価値: 10ゴールド
説明: スライムの核。
魔力が込められている。
売却可能。
━━━━━━━━━━━━
「へえ、売れるのか」
俺は魔石を拾い上げる。
「アイテムボックス」
そう呟くと、魔石が光に包まれて消えた。
同時に、脳内に収納された表示が出る。
「便利すぎる...」
これなら、荷物を持ち歩く必要がない。
俺は、さらに森を進んだ。
そして、次々とスライムを倒していく。
気づけば、三十体以上は倒していた。
「さすがに飽きてきたな...」
そろそろ、街に向かうか。
森を抜けて、再び草原に出る。
遠くに見える城壁が、少し近づいた気がする。
「よし、行くか」
俺は、街に向かって歩き出した。
草原を歩きながら、俺は改めて思った。
異世界、最高だ。
前世の激務から解放され、チート能力を手に入れた。
そして、これから待っているのは——
「美女たちとのハーレムライフ...!」
思わずニヤけてしまう。
女神様が言っていた。
「いっぱい幸せになりなさい」と。
「ああ、絶対に幸せになってやる」
俺は、拳を握りしめた。
「異世界転生、最高だぜ!」
青空に向かって叫ぶ。
これから、どんな出会いが待っているのか。
どんな冒険が待っているのか。
そして、どんな美女たちと出会えるのか。
全てが、楽しみで仕方なかった。
「さあ、行くぞ!俺の異世界ハーレムライフ!」
俺は、城壁の見える街——リーフタウンに向かって、走り出した。
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