そんな嫌がらせしませんわ
「ガラーセ! お前がこのイーガにしてきた非道の数々、許しがたい!」
「ガラーセさま!
一言謝っていただければ、私は!」
頭から湯気を吹かんばかりに興奮している王子ガリーと、その腕に胸を押しつけるようにひっついているイーガを見て、ガラーセは首を傾げた。
「はて? 非道とは?
そちらの、なんと仰いましたかしら、ご令嬢は、わたくし初対面だと思うのですが」
「とぼけるか!
先日の夜会で、イーガのドレスにワインを掛けたこと、忘れたとは言わせんぞ!」
ますます激昂するガリーに、ガラーセは
「忘れたのではなく、していないのですわ。
そんな無駄なこと、わたくしがするわけがございません」
「無駄だと!?」
「無駄でございましょう。
夜会で供されるワインは、主催の家が厳選したもの。
それをドレスに飲ませるなど、無駄以外の何者でもございませんでしょう?」
「貴様、イーガのドレスよりワインの方が大事と抜かすか!?」
「ドレスを汚したいなら、ワインなど使わないと申しております。
ええ、このように」
ガラーセが指を鳴らすと、イーガのドレスの胸元から脇腹にかけて真っ赤な線が現れた。
線の周りには、血飛沫のように赤い汚れが点々とついていて、まるで刃物で胸を切り裂かれたかのように見える。
「な!?」
「いかがです?
わざわざワインなどかけなくとも、これでドレスは台無しですわ。
簡単な幻影魔法ですから、呪文無効化すれば元どおりです。
わたくしなら、このようにやります」
「貴様、なんてことを!
今すぐ元に戻せ!」
「ワインはわたくしではないとご理解いただけましたかしら?
ごめんなさいね、不躾な言いがかりに、つい力が入ってしまいましたの。
今すぐディスペルするのは、今のわたくしの魔力では難しいわ。
先ほど謝ればいいと仰っていましたし、今謝ったからこれでよろしいですわね。
そうそう、ディスペル以外で消そうとすると魔法が暴走するかもしれませんので、お勧めはしませんわよ」
魔法を打ち消すディスペルは、元の魔法に籠められた魔力を上回る魔力を乗せなければならない。
強大な魔力を誇るガラーセの“つい力が入った”魔法を打ち消せる者がどれほどいるのか。
ディスペルしようとして失敗したガリーは、浄化を掛けてみた。
その途端、ドレスが、というより身に着けたもの全てが消えた。
「きゃああああああああ!!」
悲鳴を上げてうずくまるイーガ。
ガリーは、上着を脱いでイーガに掛けたが、その上着も消えてしまった。
「なんだ、これは!?」
「ディスペル以外はお勧めしないと申し上げたでしょう。
幻影魔法が暴走して、身に纏っているものを透明化しているのです。
身に纏うものに触れたものも透明化するでしょうから、被害を増やさないためにも早く退室された方がよろしいかと」
「この状態のイーガを歩かせろというのか!
もういい、俺が運ぶ!」
イーガを抱え上げたガリーの身に着けたものも全て透明になった。
袖がイーガの服に触れたためだが、そのせいで絵面がとんでもないことになってしまっている。
運ぶのに夢中なガリーは、自分の姿に気付くことなく走り去っていった。
以後、2人の姿を見た者はいない。




