涯
ーー地蔵尊の焦げた頭光は
汝の魂を無の深淵に沈める
輪断の真言は闇を裂き
無間鈴の響きは魂を粉砕す
葬刹院の黒堂に集え、信徒よ
汝の心を灰に変え、無を讃ーー
涯てのない暗闇の中、巨大な日輪に向かい、一人の僧が経を読んでいる。
科学の粋を極めた宇宙に滞在するための一室は、太陽が一望できる窓を除きすべて黒い幕で覆われ、蝋燭が僧を取り囲むように置かれている。
これ以上ないほど異質であり、そしてどこか神々しい。
蝋燭に灯るは黒炎、聞こえるは魂を震わせる鈴の音。
オン サラキャ ムリンジ タラク ソワカ
ナマク ムリンジゾウソン ソワカ
「断輪!」
若い男が、展望室の扉を破壊する勢いで蹴り開け、そして僧に銃を向ける。
断輪と呼ばれたその僧はゆっくりと振り向き、立ち上がる。
筋骨逞しい偉丈夫の如きその姿は歴戦の武道家を思わせた。
「大和よ、汝未だ輪廻にあり。その苦しみ、如何ばかりなりや」
重々しく、しかし慈愛に満ちたその声は憐れみすら滲んでいる。
「苦しいさ。死にたくなるほど苦しいし、全部投げ出したくなる。でもな、お前を地獄に送らなきゃ苦しいだけじゃない、この世が全部終わっちまうんだ」
大和という若い青年は銃を握り直す。その目は金色に光り、どこか異質なものを感じさせる。
「断輪、ここならもう逃げ場はないぞ。お前も、俺も」
「哀れなり、輪廻に囚われし者よ」
断輪が手に持った錫杖で床を突き、念珠を握る。
どちらも焼け焦げ、歪んでいた。
「汝例外なり、我が手にて無間地獄往還の旅路に送らん。唵 地獄無輪 娑婆訶」
真紅の袈裟がユラリと揺れ、錫杖の環から陽炎が立ち上る。
「唵 無輪 吽」
「断輪!!」
断輪の真言と大和の発砲は同時だった。
ーーこれは、輪廻と無間を巡る、魂の因果。
始まりは遥かな昔。後に断輪と名乗る一人の若き僧が、百済より倭国に渡ったことに端を発する。




