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鬼門の化物手帖  作者: 福島んのじ
オスガタ様
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オスガタ様 其ノ参

 青々とした稲が均等に並んでいる。日の光を反射してつやつやと輝く田んぼは圧巻だった。


「おわぁ……、すごいですね」


 帝都では中々お目にかかれない自然だ。吸い込む空気すら澄んでいる気がして癒される。


「ここでは毎年大量の米が収穫できるんです。帝都に売り出してたりもするんで、もしかしたら記者さまも見たことがあるかもしれないですね」

「売り出すほどあるってことは、収穫量が村の消費量を超えてるってことですよね。すごい、そんなことできる地域は稀ですよ」

「色んな所を飛び回ってる記者さまにそう言われちゃ鼻が高くなっちまいます」


 田沼はそう茶化すが、この言葉はシゲルの本心だった。本当に、この村は立派だ。

 外から仕入れるものは最低限に、しかし村から売り出すものは多くする。このような商売の基本ができている地域は希少だ。理解はしても実際形にするには、村人の相当な努力と環境運が必要だろう。

 記事を書いた暁には、「オスガタ様」伝説も相まって訪れる人が増えるかもしれない。それで行方不明者が増えてしまっては元も子もないが、田沼の様子や村の自然を見ているとそんな物騒なことなど起きていないように思えてしまう。


「記者さま、ほかに行きたい所や見たい所はありますか?」

「ほか……ほかですか、そうですね……」


 そう言われると悩んでしまう。池をもう一度見るのもいい。この村で一番魅力があふれている場所だ。……いや、村の人々に池の伝説についてどう思っているのかを聞いてみるのもありだな。

 記事を書く上でどうするべきか。様々な選択肢を思い浮かべていると、


「……太宰?」


 今立っている場所からは少し離れた家と家の隙間。そこを歩いていく太宰の姿が見える。

 彼も田んぼの方へ来ていたのか。そういえば、別行動をとると言っていたが行き先までは聞いていなかった。

 行方不明者の調査はどうだろう。進んでいるだろうか。もしかしたら自分に手伝えることがあるかもしれない。

 そう思い、田沼へ向かって頭を下げる。


「お気遣いいただいたのにすみません。でも、あとは個人で村を回ってみようと思います。ご案内いただきありがとうございました。とても助かりました」

「いやいや、そりゃあこちらこそです。また聞きたいことがあればいつでも声かけてください」

「ありがとうございます」


 歯を見せて笑う彼に会釈し、小さく見える太宰の背を追った。




 距離が縮まっては離れ、離れすぎればまた近くなる。

 ……確実に遊んでるな。シゲルは肩で息をしながら眉根を寄せた。

 後ろ姿しか見えない太宰は、大人一人通るのがやっとくらいの場所をすいすい進んでいく。どうしたらあんなにも身軽に動けるのか。たしかに彼は細身だが、如何せん縦に長い。体重もそれなりにあるだろう。


「太宰、ちょっと待ってよ」


 そう頼んでみるが、振り向くことはおろか返事すらしてくれない。

 太宰は歩を進める。シゲルも後を追った。

 近づく。しかし、また離れる。

 夢でも見ている気分だった。


「ちょ、太宰ってば」


 聞こえていないわけではないだろう。わざと無視しているのか。

 離れる。しかし、また近づく。

 ただでさえこの村の道は石が多くて走りづらいのだ。シゲルの編み上げブーツではすぐに転んでしまいそうになる。


「……もぉ、どこまで行くのさ」


 足が重い。汗のせいで額に髪がへばりつく。

 よろよろしながらもどうにか前に進むと、知らないうちに林の中へ入っていた。村の居住区からは離れた所まで来てしまったようだ。辺りを見回すが、太宰の姿はない。

 見失ってしまった。そう思っていると、ぽつんと一人寂しく立っている地蔵が目に入る。赤い涎掛けを身に着けた、よく見る典型的な地蔵だ。頻繁に手入れされているのだろう、蔦が絡まったり、苔が生えたりしている様子はない。

 なんとなく、それに近づいてみる。すると、地蔵の背後で何かが光った。眩しさに目を細めながらその場所を覗き込む。

 視界に映ったそれが何かを理解した途端、あまりの衝撃にシゲルは呼吸することを忘れた。

 地蔵の背後に置かれていた物には見覚えがある。帝都の警察隊が常時腰から下げているそれ。今では一般市民が持つことはできなくなった過去の武器。


 ――軍刀だ。


 太宰の話を思い出す。

 半月前、帝都の警察隊から派遣された五名の者たち。彼らは行方不明になったまま、今も帰って来ていない。

 やめろ、と本能が警告している。それなのに、脳は視覚を通して正確に軍刀の数を把握してしまった。


「……五本」


 口に出したことで、漠然としていた恐怖が現実となって押し寄せる。

 体温が一気に下がったその瞬間、シゲルの背後から複数の足音がした。



◇◇◇◇◇



 燻臭(いぶくさ)さを辿って、目当ての場所まで歩を進める。太宰のすみれ色の瞳が見つめる先、そこには雑に燃やされた残骸たちが小さな山を築き上げていた。野焼きをしていた者はすでに立ち去ったようで、その場で佇んでいるのは彼一人である。


「よいしょっと」


 太宰はしゃがみ込むやいなや、抵抗感など一切なく燃えカスの山に手を突っ込む。数秒間ほどまさぐり、丸い形をした固い物を取り出した。息を吹きかけ灰を払う。すると、「帝」という刻印が浮かび上がった。


「これは……当たりですかねぇ」


 そう呟いて、彼は姿池へと向かって歩き出した。

この度は本作「鬼門の化物手帖」読んで下さり誠にありがとうございます!

面白かった、次も読もうかな、と思ってくださった方、ぜひブックマークや評価をお願いします。

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