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鬼門の化物手帖  作者: 福島んのじ
オスガタ様
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オスガタ様 其ノ弐

 家に招いてくれた男性の名は田沼(たぬま)といった。小麦色の肌に白い歯が眩しく、筋肉質であるためか実年齢である四十八歳よりも若く見える。

 現在は彼がこの村の長を務めているらしく、知りたいことがあれば何でも聞いてくれ、と己の胸を叩いた。

 村の中では大きい方に入る屋敷に通され、薄い座布団を渡される。シゲルたちはお礼を言って受け取った。向かいに田沼があぐらをかいて座る。


「なにから話すかなぁ。話したいことはいっぺぇあんだがなぁ……こういう状況になると難しいもんだ」

「あはは、そうですよね。でも大丈夫ですよ、話しやすいところから話してくだされば」

「お? そうですか? 申し訳ないですね」


 独特な訛りを矯正し、わかりやすく話そうとしてくれる彼には好感が持てた。田沼は少し悩んでから口を開く。


「さっきも言いましたが、この村が今でも存在し続けられるのは『オスガタ様』のおかげなんです。あの方がおられるから、おれたちは生きていける」

「その『オスガタ様』という方の話を詳しくお聞きしても?」

「もちろん」


 田沼は待ってました、とばかりに大きくうなずいた。


「『オスガタ様』ってのは、元々修行僧だったんです。干ばつでこの村に水が一滴もなかった時代、自らを生贄として水が豊富な場所にしてくださった。お上の人たちよりよっぽど足向けて寝れねぇや。そんでそれ以来、姿池の水が底をつくことはなく、きれいな状態をずっと保ってるんです。記者さまも見たでしょう? あの水を」

「はい、鏡のように自分が映り込むので驚きました。なんの手入れもなく、あそこまできれいな水質が保てるものなんですね」

「それもこれも、『オスガタ様』のおかげってわけですよ」


 太宰はもらった麦茶を一口飲んでから、ほぉ、と小さく感心したような声を出す。


「ものすごい善人がいたもんですねぇ。あたしには到底できそうにない」

「私も……生贄になるのは嫌だなぁ」

「ははは! 五十年は前の話です! 今とは感覚が違いますよ! しかも助手の兄さんはまだずいぶんと若いじゃないですか、理解できずとも無理はないでしょう」


 田沼はそう言って豪快に笑った。シゲルもそれに合わせて口角を上げる。

 「オスガタ様」という伝説については大体わかった。だが、どこにでもあるような伝説すぎて、記事としてはいまいち面白みに欠けてしまう。

 それに、と太宰の方へ目を向ける。

 彼が知りたいことに関しては何一つわからなかった。田沼自身、この村で行方不明者が続出していることは把握しているだろうに、一言もその話題に触れていない。ここまで華麗に避けられるとさすがに故意を疑ってしまう。

 「こっくりさん」の時もずいぶんお世話になったのだ、できるだけ太宰の手伝いもしてやりたい。さてどうしたものか、と頭をひねっている時のことだった。


「そうだ! 記者さま、この村では池の水を使った田んぼが自慢なんです。案内しますから見に行きましょう」

「いいんですか? それではお言葉に甘えて」


 田沼はシゲルの返答を聞くと、軽い足取りで大戸口へ向かう。それに倣ってシゲルも薄い座布団から腰を上げた。すると、


「先生。すみませんが、あたしは今回別行動とさせてください」


 太宰は耳元に口を寄せてきたかと思えばそう申し出る。断る理由もないため、うなずいて了承の意を示した。


「行方不明者のこと、何かわかりそう?」

「ええ、まぁ、ぼちぼちといったとこですかね」

「ならよかった」


 声を潜めて話すと、彼は少しくすぐったそうに身じろぎする。


「……ん? 助手の兄さんは一緒に来ないんです?」

「はい、彼なりに気になるところがあるらしくて。今回は別行動です」

「そうなんですねぇ。助手といっても年中一緒なわけじゃねぇのか」


 大戸口を出た後、シゲルとは反対方向に足を向けた太宰を見て田沼が問いかける。これから行方不明者のことを調べに行くのだ、なんて言えないため、それらしい言葉で濁しておくことにした。


「――あ、太宰」


 離れていく彼の大きな背に向かって名を呼ぶ。くるりと素直に振り向いてくれた。


「いってらっしゃい、気をつけてね」


 誰かの無事を祈る言葉。彼が「こっくりさん」と対峙した時には言えなかったものだ。今回は伝えられたことに満足する。

 しかし、呆然とする太宰の顔を見て、その気持ちは急速にしぼんでいった。


「え、え? 私、もしかして変なこと言った?」

「……いや、すいません。慣れないこと言われたもんで、ちょっと呆けちまいました。これだから歳は取りたくないですねぇ」

「……私より若いくせしてなに言ってんのさ」

「あれ? いくつだか言いましたっけ?」

「言われてないけど……肌のつやとか、首の皺とか、どう見たって私より若いでしょ」

「そうですか? でもあたしは好きですよ、先生の目元の小皺」

「うるさいよ」


 太宰はけたけたと笑う。それによって、彼の重そうなたれ目がより垂れた。


「それじゃ、言いつけ通り気をつけて行ってきますよ。先生もお気をつけて」

「了解」


 そう言って、二人は別方向に足を踏み出した。

この度は本作「鬼門の化物手帖」読んで下さり誠にありがとうございます!

面白かった、次も読もうかな、と思ってくださった方、ぜひブックマークや評価をお願いします。

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