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第三話「ルーチェ華麗に応じる──執事決闘、開幕」

庭園の中央。絢爛な薔薇に囲まれた一角で、ルーチェとラインハルトが向かい合う。


二人の間に、ノラムが深いため息をついていた。


「……なるべく、壊さないようにしなさい。屋敷は貴族の顔よ?」


「はいはい、お嬢様の顔を潰すなんてこと僕がすると思いますか?」


「ルーチェ、あなたの顔面をすり潰してあげましょうか?」


冷ややかな言葉を背に、ルーチェは片手を背中に添え、優雅に一礼した。

内心冷や汗をかいていたが。


「では──魅せて差し上げましょう、“執事ルーチェ”の真髄を」


「来い」


ラインハルトの声が落ちると同時に、空気が震えた。 先手はラインハルト。 目にも止まらぬ踏み込み。


長身から繰り出される直線の突きが、ルーチェの顔面を正確に狙う。 ただ、ラインハルトはいつの間にか手に得物を持っている。バタフライナイフだ。


──だが。


ルーチェの身体が、まるで風に揺れるカーテンのように滑らかに避けた。


「……へぇ、徹底してますね。 真正面から来たと思ったらいつの間にかナイフで構えて刺してくるとは。」


すかさずラインハルトの追撃──


「至近距離、頂いた!」


「甘いですねぇ。」


ラインハルトの蹴りがかまいたちのように鋭くルーチェの顎を狙う。


咄嗟に後方へ跳び、体勢を崩さず着地するルーチェ。口元には、余裕の笑み。


「ええ!いいですよ!その距離感……

誤解しないでくださいよ?

……あなたの距離感‘’刺さって‘’きますね。」


「黙れ変態。」


ラインハルトが胸ポケットに手を入れ、 ルーチェは、興味津々で質問する。


「なるほど♪さっきのナイフといい、色々と準備してきたようですね。」


「────そこまでだ。」


ボシュッと小さめの音が聞こえ、ルーチェは咄嗟に超反応で後退する。 ルーチェの足元に砂煙が巻上がった。


「ほう、胸ポケット越しに隠していた拳銃で撃ってきましたね。 ま、胸ポケット越しなのと恐らくサイレンサーを装着しているのでスピードは落ちていたので回避できましたが。」


ラインハルトは静かに動揺していた。

(何なんだこいつ……避け方が、常軌を逸してる……!)


「“変態”の皮を被った化け物……! これが噂のルーチェか……!」


「ちょっと、ルーチェは“変態”の皮を被った“真性の変態”よ。」 ノラムが指摘する。


ラインハルトは、もうなりふり構わずやるしかない、そう決断すると全身に魔力を込める、───だが。


ズドォッ!!!


「っ!?がっっ…かはっ……!」


今度はルーチェが真っ直ぐラインハルトの腹部にボディーブローをぶち込んだ。彼の拳がラインハルトの腹部にめり込む。


突如ルーチェは褒め称える。


「素晴らしい!なんとプロテクターも着込むなんて徹底してますね!好きですよ!そういうの。

今度は強めにぶち込んであげましょう!」


ラインハルトはもはや絶望していた。 先程魔力を込めたのは攻撃する為ではなく、ダメージを防ぎつつ懐に潜り込む為の衝撃吸収魔法だった。

例えるならパッドで全身を覆うようなもの。更にプロテクターを着込んでガードを固めた上で、至近距離でラインハルトがもっとも得意とする雷撃魔法を叩き込む作戦は成功するはずだった。


──が現実は加減されたボディーブローで死にかけてる自分がいる。


「がっ…はぁ…はぁ…貴様…力まで変態か…」


「性癖は肉体を進化させるんですよ、知らなかった?」


ノラムは───

───よそを向いて聞かなかったことにしといた─────

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