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山ジイの正体

本筋とはまだ関係ない部分なのですが、先頭に1200文字程度のエピソードを割り込み投稿しました。(25?02/09)

世界観の根底に関わるエピソードですが、一応は読んで頂かなくても後々判明する部分です。

「……メニューにゲーム終了の項目が無いんですけど」


 彼女は俺の言葉に唇を尖らせ「ですから、メタ発言は止めて下さい」と言う。


 ……不親切すぎるって制作会社にクレーム入れてやろうかな。


「……この都の命運が決するまではオートセーブは働きません。今ここで終了すると、また山小屋で目を醒ます所からですよ」


 女神は数秒経ってようやく答えた。なるほどな。セーブデータをこまめにロードして行う安易な分岐条件の特定が出来ない様にしてんのか。にしても一番最初のルート分岐まではセーブ出来ないってどんだけ不親切設計だよ。


 ……いやいや、このゲーム分岐だらけのはずだよな? だとしたら、これから先もそれぞれの分岐が確定したタイミング以外でセーブ出来ないのか?


 俺の表情を見ていたリリアの姿をした女神は微笑みながら言葉を足す。


「ご安心を。セーブの方法はありますよ」

 女神はその言葉の後、片目を閉じて愛らしい笑みを浮かべる。


「では、私は引き続き天から貴方の活躍を見守っています。くれぐれも、リリア姫にゲームだとかセーブといった言葉は言わないで下さいね」


 彼女が瞬きした瞬間、瞳の色が青に戻った。何事も無かったかのように彼女は再び、真剣な表情で平原の魔物に指を向けている。よく見ると左手には魔導書らしきものを抱えていた。


 しょうがねぇな。セーブするために進めなきゃいけないなら、とりあえず進めるか。


 俺はリリアが指している猪の魔物に向けてひっそりと歩いていく。このゲームはエンカウントで閉鎖空間に飛んで戦闘を行うわけではなく、フィールド上でそのまま戦闘を行うタイプ。つまり、こちらに気付いていないうちに背後から攻撃を仕掛けるのが吉だ。


『チュートリアル:剣を抜いて魔物を斬ってみましょう!』


「んな事まで指南しなくていいっての」


 背後まで忍び寄った俺はボヤきながら剣を掲げる。そして、魔物の背中に向けて振り下ろした。痛快な手応えと共に、目の前の魔獣は小さなうめき声を上げて倒れる。


 一撃なのは想定内。レベル上げしちまったからな。


 ――チョトツピッグを倒した! 4経験値獲得!


 しょっぱ!! さっき倒した狼の魔物、イグニスウルフの経験値は7400近くあったのに。千分の一以下かよ!!!


「す、すごいです……! 流石は山ジイのお友達」


 背後から手を叩く声が聞こえた。振り向くと、リリアは驚愕した表情で俺を見ていた。抱えていた魔導書は既に仕舞っている。


 ……というか、これチャンスか?


 リリアは俺の事を相当強い人間だと思っている。その認識を利用しない手はないだろう。


「まぁ、余裕ですよ。イグニスウルフだって一撃ですからね」


 俺がレベル18の時、即ち最後に戦ったイグニスウルフに与えられたダメージは一撃で45くらいだった。だが、この言葉をリリアが信じてくれれば、俺のステータスは大幅に増強される。それこそ、イグニスウルフを本当に一撃で倒せるくらい!!


 彼女は俺の自信満々の言葉に微笑みながら、


「またまたご冗談を! かの獣は魔王軍が放ったランクBの魔物ですよ? そんな事が出来たらそれこそ山ジイと同じくらいの強さと言う事になってしまいます」

 と言った。


 ランクB……。まぁ、普通に考えれば序盤の主人公が倒せる敵じゃないんだろうな。


 失敗したか。やはり、このタレントは発動に半信半疑くらいの信頼度が必要。今の俺の言葉をリリアが二割くらい信じていたとしても、八割嘘だと思われると発動しない。


 ここらへんの詳しい線引きの正確な所は勿論想定でしかないが、今までの手応え的には多分五割くらい本当かもと思わせれば実現する。


 じゃあこれでどうだ?


「山ジイには幼少期の頃から随分世話になりましたからね。長い事あの人に鍛えられていて、お前はまだまだひよっこだ! って良く言われたもんですよ!」


 リリアは俺の言葉をきょとんとした表情で聞いている。まだ足りないか。


「でも、いざあの人の元を少し離れて他の冒険者と旅をしてみたら、俺って結構鍛えられていたみたいで。修行中は山ジイの事を結構胡散臭いと思ってましたが、今となっては本当に感謝してます」


 どうだ? 半信半疑のラインに到達したか?


 リリアは俺の言葉を全て聞き終えた後、口に手を当てて上品に「ふふっ」と噴き出した。


「あはは。何ですかその話は? ……山ジイは去年まで長らく、王都軍の最高顧問を務められていた方ですよ? えっと、貴方は一番弟子のラインハルトの事を知らないんですよね?」


 心臓の鼓動が大きくなる。


 ヤバイ。適当に言い過ぎた。リリアは完全に俺の言葉が嘘だと確信している。


 つまり……これから先、俺のタレントを使ってリリアを騙して改変を起こそうとしても、彼女の抱く俺への不信感によってその難易度はめちゃくちゃに高くなる……。


 リリアは俺の方を見つめる。その瞳には不信感が宿っている。

 さっきまでは山ジイの知り合いであるという事を信じ切っていたが……。


 今ここで理解した。このタレントの注意事項。

 好意や敵意には反映されない。


 つまり、俺が改変したのは飽くまで出来事であって、絶対的な認識ではない。その後の行動で対象が俺に不信感を抱けば、過去改変が起きた出来事を伝えた俺の言動自体を“嘘”だと思われる。


 メタ的な観点で見れば、俺は確かに“山ジイの知り合い”であり、“リリアのタレントの事を彼から伝えられた”という改変が起きている。


 しかし、リリアはその“神の視点のみぞ知る事実”ではなく“俺の発言”を元に思考する。


……そうなれば俺を信用し続けるはずもない。要するに、リリアの認識を変えた時点で事実もそのように改変されるが、リリアの認識は後から再び覆り得る。そしてその場合でも、俺の虚言が原因でないのなら、事実は改変されたままだ。


 このタレント、唯のチート能力じゃないな……!!! 一癖も二癖もある能力だ……。


 無暗やたらには使えない……! 特に、攻略対象(ハーレムの一員)となり得る相手(女の子)には。

 今もリリアは俺に不審の目を向けている。無いか!? 何か、一発で彼女の信頼を取り戻す発言カイヘンは……。


「リリア様山ジイの本名はご存じですか?」

 俺は内心汗だくの状態で、外側は澄ました表情のまま淡々と問う。彼女は瞬きの後、「本名?」と呟く。


「彼の偽名については、誰もが知っている通りです」

「さっきから何を……」


「何故俺は貴方に疑われ、信頼を落とすような嘘を重ねているように見えていると思います。ですがそれは一重に、貴方様を守るためです」


 彼女は警戒心を宿したまま、少しだけ目を細める。


「……不可解です。山ジイの名は私ですら知りません。彼は……深い事情があってその名を隠しているのだと、聞き及んでいます」


 彼女は視線を地面に一瞥した後、俺をみた。


「山ジイの本名とやらを教えて下さい。今から、彼本人にそのことについて確認します」

「いいでしょう」


 失敗したら再走リセットになるかもしれないが、しょうがない。


「彼の本名はアルフ。アルフ・ヴィンツァーヘンです。俺の名前はリク・ヴィンツァーヘン。彼の養子であり、王国軍とは別に彼に私生活の中で鍛えられた弟子です」


 ここまでの出まかせを良く言えたものだと、自分でも思う。

 どうだ? 信じたか? いや、信じ切らなくても良い!


 彼女は俺の言葉に戸惑った様子のまま、「確認します」と呟いた。


「ホーミングピジョン」

 彼女が小さく唱えると、小さな水色の鳩が現れる。彼女は鳩に向かって経緯を伝え、山ジイに返答を要求して鳩を飛ばした。


 水色の鳩は恐ろしい速度で山の方へと飛んでいく。

 彼女は毅然とした表情で俺を見ながら、魔導書を開く。


「嘘はまかり通りません。……山ジイの言葉が届くまでの間が、私を殺る最後のチャンスですよ。私の伝言を聞けば、彼は必ずここに来ます。貴方という不審な人物から、私を守るために」


 彼女は随分自分の身の安全を危惧しているようだ。その身分柄、命を狙われる覚悟があるのだろう。だが、もしも俺を本当に疑っているのならば、もっと俺を突っぱねるべき。それが出来ないのはリリア姫の善性のせいか、もしくは、俺をまだ疑い切れていないから。


 それが半信半疑未満なら、さっきの俺の虚言が真実にすげ替わる隙はある。


 ……さぁ、どうなる?


 俺のタレントが発動していれば、山ジイの本名は今頃アルフ・ヴィンツァーヘンへと変わっている。最初からそうだったことになる。そして同時に俺は、王国軍の最高顧問に幼少期から鍛えられた冒険者と言う事になっている。


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