嘘つき狼少年、魔獣を呼びよせる。美少女に会う
爺さんはまだ俺を見送るポーズのままだが、辺りには魔獣の血生臭い死体が転がっていた。さっきまで土の隠された緑生い茂る清らかな大地だったはずが、小一時間でさながらラストダンジョン手前と言った感じの、殺伐とした泥と血の海だ。
爺さんを酷使して得た情報を整理する。
一つ、出現する魔獣はどうやらこの地帯に生息しているモノに限るらしい。これは爺さんにここら一体の魔物について聞いた後、隣の地方の魔物についても聞いて検証した。隣の地方に居るような魔物は出現させる事が出来ない。爺さんが『居るわけない』と思っている存在は出てこないのだろう。
一つ、直接的な言葉での改変には耐性のようなものがあって、単に「魔獣が現れた!」と言っても次第に効力が弱くなっていった。三回目から数が減り、十回目辺りでとうとう何も現れなくなったのだ。耐性があるという考察が正しいかは分からないが、今回はそうなった。
一つ、俺が異邦の地から来た伝説の戦士だという言葉を投げかけてみても、俺のステータスが増強されるようなことは無かった。やはり、俺の見てくれや雰囲気から『それはありえない』と判断されてしまうと改変は起きない。
ちなみに。俺はココに現れる魔獣の行動パターンを分析し、途中から爺さんの狩りに加わった。勿論最初はダメージなど1しか入らなかったが、爺さんが一体倒した直後レベルが11まで上がり、そこからは二桁ダメージ。初期装備の剣を使って魔獣討伐を手伝った事で俺のレベルは最終的に19まで上がり、HPは223。
魔獣十匹くらいの討伐を手伝っただけでこのレベルの上がり具合と言う訳だから、あの魔物はどう考えても最初期のフィールドに自然湧きするものではない気がする。
まぁ、ここらへんは考えても仕方ない。とりあえず都に進む事にする。
最後に爺さんに一度頭を下げて、「都に向かいます」とだけ言って背を向けた。
振り返っても山小屋が見えなくなった頃。俺は静かだった森がザワめいている事に気付き、身を強張らせる。草木を掻き分けて走り回る動物の足音、歯を剥いて喉を鳴らす猛獣の気配がした。モンスターか……!
レベルは結構上がっているが……大丈夫か? 爺さんの木こりを手伝った報酬として都まで連れて行ってもらうのが正規ルート、安全な道筋だったりしたのだろうか。
ともあれ、一人で戦うしかない。
俺は剣を抜く。戦い方はさっき魔獣とやって大体掴んだ。スキルや魔法は、体得に使うアビリティポイントを温存する方針のため使えない。つまり、純粋な肉弾戦のみの戦いになる。
掛かってこい!!!
右方向から草木を踏みにじる足音、視線を向けるとそこに居たのは先ほど討伐した狼型の魔獣だった。しめた! こいつなら余裕でやれる!
俺は噛みつきに合わせて剣を振り抜き、上顎と下顎の中心、口の中へと刃を振るう。
「グルルルルッ!!!」
「ま!! マジでぇ!!????」
しかし、狼は俺の振った剣を咥え込み、俺の上半身に前脚を押し付けた。体勢を崩した俺は背中から地面に倒れ、剣を咥えた狼が仰向けになった俺にのしかかる。
力を込めてもびくともしない。というか! さっきまで戦ってた奴よりデカくねぇ!??
プレイヤーである俺がレベルを上げ過ぎた事でフィールドランク、この地域の魔物自体のレベルが上がったのか!? 狼が喰い込ませた前脚の爪が服を切り裂いて俺の胸部に突き刺さる。飽くまでゲームなので痛みはかなり抑えられているが、それでも現実味を出すために不快感はある。前脚の太さが俺の太ももくらいあるし、体長は三メートルを超している。
化け物だ。
焦る。どうする? ここでゲームオーバーになったら最初からだ。オートセーブは起き上がった時の一回しか見てないッ!!
この一時間のレベル上げが水の泡になるのは嫌だ!!
そう思った矢先。俺の唯一の武器が嫌な音を立てはじめた。剣は軋みと共に甲高い悲鳴をあげ、真っ二つに折れた。
狼は刃の刃先側をそこらへんに放る。そして、俺の首に噛みつこうと牙を見せた。
「死ぬぅううううううううう!!!」
情けなく叫んだ瞬間だった。
視界が光に埋まる。
どこからともなく飛来した魔法が、俺の上に馬乗りになっていた魔獣を一瞬で消し去った。
「そこの方!! 大丈夫ですかっ?」
顔を上げると目の前に金髪の美少女が居た。