捻くれ千切ればそれもまた個性
「え?」
のっけから脳内が困惑に染まる。そんな質問アリ? これ、潜在的な犯罪指向の人間を割り出す政府の実験とかじゃないよね?
「質問の答えをお聞かせください」
ステ決定の問答はランダムだと公式が発表している。にしてもこれは……レアケース? おちつけ。相手は女神だ。善良な心の持ち主にこそ、正義の力を授けてくれるはず……なんてな。
俺は口角を上げ、期待に胸を躍らせつつもニヤけながら叫ぶ。
「騙される方が悪いに決まってる!!!!」
女神は少しだけ目を見開き、動揺からか瞳孔が収縮する。
そして落ち着きなおして「わかりました」と呟き、次の問いを投げる。
「貴方の目の前に、腹を空かした狼と、親とはぐれた仔牛が居ます。貴方の手には狼を簡単に殺せる武器があり、仔牛を助ける事が出来ます。どうしますか?」
やけに具体的な質問だな。さっきの質問を敢えて悪い方に応えたのは勿論理由がある。クリア者が居ないエンドを目指すなら、一旦は万人が到達する選択肢を避けるべきと思ったからだ。
このゲームは飽くまでRPG。無理だと思ったらキャラクリからもう一度やれば良いんだ。
だからとりあえずは好奇心に従う。……同じこと考えてる人いるだろうけどさ。
女神の質問があと何個あるか分からないが、出来ればその全てで捻くれた答えを選びたい。
「助けません」
女神は「え?」と呟いた。眉を若干ハの字にしながら視線を床に這わせた後、右手の拳を左手の平にぽんと置く。何かを思いついたようだ。
「動物を殺生するのは心が痛いので、見て見ぬふりをすると言う事ですね?」
「違いますよ。狼は、腹を空かせた家族の為に狩りをしてるかもしれません。その仔牛の命で大勢の狼が助かる可能性もありますし、仔牛を助けるために狼を追い払うのは偽善でしょう」
女神は俺の言葉に可愛らしく眉を寄せた後、自分の手のひらをじっと見つめた。
手のひらにメモでもあるのだろうか?
彼女は小さく頷き、更に質問を投げる。
「魔族の男が山間の村を訪れました。その目的は?」
イエスノーの問いですら無くなったな。
この女神の問いはリアルタイムに変化を続ける高性能AIが行っていて、前例に従っても同じ結果になるとは限らないらしい。だからこそ最後まで少数派の答えを徹底し、誰も手にしていないタレントを受け取りたい。
「魔族の男は一人でその村に?」
質問に質問で返すマナー違反かもしれないが、相手はAIだ。マナーなど知るか。
女神は俺の言葉に視線を泳がせて首をかしげると、「えっと、では一人と言う事で」と言う。
「一人ですね……なるほど」
彼女は俺が考えている様子を不審そうに眺めていた。
「……その村が男の故郷だったから、とか?」
「故郷……えっと……? 詳しく聞かせて下さい」
女神は俺の方を見たまま一度瞬きする。
「魔族には魔獣には無い知性があるでしょう? ならば、人間を殺すつもりなら仲間を引き連れてくるはずです。わざわざ一人で訪れたのは、人々に危害を加える目的が無いからだと思います。……だから、観光目的と悩みましたが、人の村を観光というのも変ですし、ならそもそもその村は魔族の村だろうと」
どうだ? ちょっと屁理屈こねてみた。とはいえ、完全な無理筋でもないだろう。
女神は首を更に傾げたまま、「な、なるほど」と呟いた。そして、困惑の表情を浮かべたまま次の問いを投げる。
「貴方の父親と母親が貴方を家の外に出し鍵を閉めました。理由は?」
これまたクソ答えるのが難しい質問だな!!!
高性能AI様はこんな答えからタレントとステータスを決めんのか?
「学校に行く時間だったからです」
女神は悔しそうに目を細めて眉を寄せる。
「先ほどの問いに情報を追加します。狼の遠吠えが聞こえる村の深夜二時、寝ている貴方を叩き起こして貴方の両親は家の外に貴方を出しました。理由は?」
悪辣な質問だな。両親に嫌われているからとか、そう言う答えを求めてるのか?
ここも当然素直にはいきたくない。
「俺が村最強の戦士だからです。魔獣の狼を討伐して、村の皆が遠吠えに怯える夜を過ごさなくても済むように」
女神は頬を膨らませながら俺を睨んだ後、更に問いを投げる。
「貴方は唯の人間で、魔獣に勝つ力もありません! さぁ! この場合は!??」
「んー。さっき狼と仔牛の話がありましたよね? 俺は狼を殺せる武器があったにも関わらず見逃した。だから、恩を感じた狼が颯爽と現れて、俺を背に乗せ助けてくれました!」
「それぞれの質問は独立しています!!! 先ほどの問いの事は忘れて!」
「えー。じゃあ、そうですね……。獅子は我が子を谷に落とす的な? 両親は俺を最強の戦士に育てたかったんです。だから危険な深夜の外にわざわざ……」
俺が笑みと共にとぼけると、女神はとうとう目を瞑って「もういいです!」と言った。
「次の質問です。……世界に人間よりも上位の存在が居たら、自分はその存在に敵対していると思いますか? それとも逆らわずに過ごしていると思いますか?」
「初めは逆らわず、機を見て取り入ります」
「……具体的に」
「信用を勝ち取り、その存在に自分の価値を認めさせるのです。上位の存在であるならば、我々が犬や猫を家族と呼ぶように、下位の存在である人間を大事に扱う者も居るはず。俺は人の権利を拡大するべく、そういった存在と信頼関係を気づいた後、交渉を始めます」
女神は顔を顰めた。
「貴方の回答を分析するのは非常に困難を極めます。……ちょっと待ってください。えっと」
「案外ポンコツAIですね」
「ぽ……! ポンコツAIではありません!! 女神様です!!」
「これは失礼しました」
さて、どんなタレントが来る?
「分析が一旦終わりました。言っておきますけど、今の時点で貴方に授ける事が出来るタレントの候補はかなり、かなり狭いですよ!!! 滅茶苦茶に強い戦闘系のタレントは一個も候補にないですよ! 癖の強くて扱いずらいものしか残ってないですからね!!」
女神は前傾姿勢で俺に指を向ける。まだタレントの決定は済んでないのか。
「そういうこと、プレイヤーに伝えていいもんなんですか?」
「プレイヤーではなく【迷い人】と言って下さい。貴方は今から異世界に転移するのですよ!!」
なんてAIなんだ。世界観を損ねないようにするばかりか、プレイヤーの俺に向かってメタ発言を訂正だと? ……生意気な。
「……はい、次の質問行きますよ。生まれ変わったら馬と鳥、どちらになりたいですか?」
彼女は右手の上に馬を、左手の上に鳥のホログラムを出現させた。
表情は語っている。『二択問題なら素直に答える他ありませんよね?』と。
「その二択なら競走馬になりたいですね。G1たくさん取れるような」
「え、ええっ? 競走馬!? えっと……ちょっと待ってください……」
大方ステータスの偏りを決める問いだろうな。鳥なら素軽さ、馬なら力か?
「競走馬って事は馬でいいんですよね?」
「深い衝撃とか昼と夜を分つ時、みたいな感じの名前で」
「え? ええ???? なんの事ですかそれぇ……!? なぞなぞ……? えっと?」
女神様は頭を抱えて眉を寄せ、必死に頭を回転させている。きっと今ネットを検索しまわって俺の言った言葉の意味を探っているはずだ。
「なるほど、そういう名前の競走馬が居るんですね……。ふふん。じゃ、じゃあ、狼とライオンではどっちですか?」
彼女はやけに勝ち誇った表情で指を立てる。何か算段があるらしいな。
「頭の中で検索エンジンでも待機させているんですか?」
「うるさい! さっさと答えて下さい! 今度はどんな捻り方をしてきても一瞬で把握してみせますから!」
にしても狼とライオンって事は多分、賢さと力? まぁさっき馬を選んだわけだし、ステの割り当てを質問で考えてるのか? 捻った答えも想定内って感じの顔だしココは……。
「んー。……ライオンで」
「ライオン!??」
女神様よ、普通に答えたのに何故驚く。
「てっきり水を吐き続ける石造のライオンとか、口に手を入れて心の清らかさを診断するライオンとかで来ると思ってました!」
それってマーライオンと真実の口か?
俺は女神をあきれ果てた表情で見つめる。
「いや、それどっちも生物じゃないですし、生まれ変わって水を吐き続ける人生も、赤の他人の手のひらをベロベロ舐め続ける人生もいやですよ」
「私がおかしいみたいな顔止めて下さいっ! ……わかりました、ライオンですね……!」
「はい」
「次の質問っ!! ……えっと……寒い地域と熱い地域、どっちが苦手ですか?」
この質問は少数派な答え方難しいな。具体的すぎる。どうしたもんか。さっき普通に答えたのは意外性を加点するためであって、ココでまた普通に答えたら凡人ポイントが上がっちまう。
「熱い地域って、熱帯ですか? 乾燥帯ですか?」
再び質問に質問を返した俺に、女神は顔を赤くした。
「質問に質問で返さないで下さい!! 熱帯です! 蒸し蒸しして蚊がたくさんいる地域! 夜とか眠れませんよ! エアコンとか無いです! ジャングルです!」
「まぁ、食料の確保とか火の確保を考えると熱帯一択ですね。答えとしては、寒い地域の方が苦手、でお願いします」
「……へ? ど、どういう事です? 寒いって言っても、北海道くらいのもんですよ? 暖房設備も充実してますし、あったかい毛布もあるとします! それでも熱帯ですか?」
なんでそこまでして俺の答えを覆そうとするんだよ。
「条件変わりすぎですって。裸一貫で過ごすならって想定で答えたんですけど」
「なんですかそれ?!! そんな事言ってませんけど!!」
「サバイバルするならで想定したんですよ」
「さ、サバイバルするなら……?」
「だって、今から俺ほとんど何も持たずに異世界に転移するんですよね? だったら自然とそういう方向で考えちゃいますよ」
「それは……そうかもしれませんけどぉ!」
高性能AI、もとい女神様が大変困惑してらっしゃる。
そうだよな。診断と決定が仕事なのに、こんな意味不明な回答をされたら困るに決まってる。
Siriだって良く言うじゃん? すみません、よくわかりませんでしたって。AIは曖昧な言葉に弱いんだよ。……多分だけど。
てか、AIの癖に表情や立ち振る舞いはマジで人間と見分けがつかないな。
これはゲーム内のハーレムにも期待が募る。現実と区別がつかない美少女と結ばれるって事だよな? 最高過ぎる。
って、いかんいかん。俺の目的はあくまで前人未踏のエンドを踏む事……。
「あのぉ……」
「どうしました?」
「診断は終わったんですけど……もしかしたらこれ」
「なんでも大丈夫ですよ」
俺は不慣れな笑みを浮かべて女神を見る。彼女は診断結果の映ったタブレットと俺の顔を交互に見ながら、「もうどうにでもなれ!」と叫んで俺を突き飛ばした。いや、タブレットって世界観に反してません? なんで女神様が電子機器を持ってんだよ。
直後、俺の背後に大きな穴が開き、落下する。自然に口の端が上がる。
さぁ、ゲームスタートだ。