子河童の面倒見 1
狐の跡を追いかけた俺っちは、狐が棲んでいる祠の近くで立ち止まった。人間の老婆と若い女がいたからだ。狐は人間たちを静かにじっと見ている。俺っち達が後ろにいることも気づいていないくらい真剣に見つめている。
人間の老婆が、最後にご挨拶をしないとみたいなことを言った瞬間、狐はひどく驚いた様子だった。狐は自ら持っている冊子をぎゅっと持って、固唾を呑んでいる。その後、人間たちは短いやりとりをした後、祠から立ち去った。
狐は人間たちを目で追う。すると、俺っちと視線がかち合った。どうやら俺っち達が居ることに気づいたらしい。
「あれ、子河童と輪入道。こっちに来てたの」
と狐はぽつりと呟いた。狐の言葉を聞いた輪入道は、狐に急いで駆け寄った。無理もない、こんな狐の表情は初めてだったからだ。
「狐、何か調子が悪いの。大丈夫? 」
輪入道の心配そうな声がこちらまで飛んでくる。狐が
「輪入道、どうしたの」
と言っている。なあ狐、気づいてないかもしれないけど、おまえ今泣いてるぞ。泣いてることにも気づかないのか。俺っちは隠し事した狐に白状させることなんて、すっかり頭から吹っ飛んで、狐を元気づけようと話しかける。
「狐、なんか辛いことでもあったのか。なんで泣いているんだよ」
悩みなんて、さっさと言っちまえ。泣き虫なんて、輪入道だけで十分だ。狐は俺っちの指摘で、やっと自分が泣いていることに気づいたらしい。その瞬間、ボロボロと涙が溢れ始めた。
「ううっ、だ、だって。もうお参り来てくれないかもって、だからぼく」
狐にしては珍しく、何を言っているのかよく分からない。とにかくさっき居た人間達が関係しているのは分かった。
「ああ、もう分かった。いくらでも話聞くから。おい、輪入道なんでおまえも泣いているんだ」
気づいたら輪入道も狐と一緒になって、泣いている。いや狐より号泣しているかもしれない。
「だって、狐が泣いているからあ。おいら、なんか、ううっ、悲しくなってきて」
だからって、どうして輪入道も一緒になって泣くんだ。俺っちは本気で頭を抱えたくなった。
駄目だ、これは俺っちだけでは、どうにもならない。誰か助けてくれと思っていたときだった。背後からバサッと、翼の音が聞こえた。