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帰郷 1

〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇 


 俺っちは、どうしたらいいんだろう。


 目の前の光景を前に、ただただ悔しさと怒りがこみ上げてくる。

 

 どうして、人間はこんなことをするんだ!


〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇  〇


 次にケイと出会うまで、俺っちたちは人間観察をしながら過ごしていたときだった。急に故郷から俺っちに一報が入ったのだ。


 「すぐに帰られたし」


 帰ってこいと言われても、俺っちは故郷が少し苦手だった。自分が誕生した地だから、思い入れも愛着もある。でも周囲の妖怪達を相手にするのは面倒だった。おかしいな、もっと面倒な狐と輪入道の面倒事は、別に嫌でも何でもないのに。


 でも仕方ない、こんな文をよこすなんて重要な用事に違いない。文を読んでしかめっ面をしているおれっちに向かって、狐が


「子河童も大変だね。急に帰ってこいなんて。いつ頃戻れそう?」


 と尋ねた。おそらくケイとの約束を気にしているんだろう。


「俺っちも分からん。もしかしたら、約束の日までに戻ってこれないかもな」


 きゅうり食べたかったなあと思いつつ、はあっとため息を吐く。その様子に輪入道が、


「ケイ、残念がるだろうね」

「まあ、こればっかりは仕方ないさ。じゃ、行ってくる。あいつによろしく言っといてくれ」

「分かった、いってらっしゃい」

「気をつけてね、子河童」


 俺っちの故郷は、狐たちと暮らしている妖怪の里より遙か北に存在する。何故俺っちが故郷を離れたのかは、説明するのも面倒な事情がある。


 というより、あんまりあの時の事情を覚えていない。俺っちの種族が故郷を離れるか離れないかで大揉めし、一番年若い俺っちが居たたまれなかったのだ。


 その時、たまたま俺っちの故郷を訪れていた師匠が俺っちを預かると言ったのだ。


 俺っちを心配した師匠がしばらくうちに来なさいと言ったのを覚えている。考えてみれば、師匠のおせっか…、いや面倒見の良さはこっちが心配になるくらいだ。


 なんだかんだ故郷の妖怪たちに思うことがあるが、それでも故郷の自然豊かな環境が俺っちは好きだった。水がとても澄んでいて、空気もおいしい。風もさわさわと流れていて、気持ちがいい。北の方に位置するので、一年を通して寒い日が多いが、寒さを楽しむのも一つの醍醐味だ。


 八月の真っ只中、故郷は避暑に適している。師匠の土地も悪くはないが、空気がジメジメしていて、たまにからっとした故郷の風が恋しくなるのだ。


 久しぶりに故郷へ帰るな、故郷はきっと変わってないんだろうな。


 俺っちは、そう思いを馳せていた。

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