妖怪の存在 1
疲れていたおいらは、いつの間にか眠ってしまったらしい。うとうとと意識を起こそうとしているとき、部屋の外から
「失礼、部屋に入ってもいいかな」
と声をかけられた。さっきの狐と子河童とは、違う声だ。
「は、はい。大丈夫です」
おいらは、慌てて返事をして、車輪を起こそうとした。すると先ほど部屋に来た狐と子河童は別に、天狗の妖怪が入ってきた。この妖怪が狐たちが言う『師匠』なのだろうか。
「ああ、そのままでいいよ」
天狗の妖怪が、体勢を変えようとしたおいらにそう言った。初対面でそれは失礼な気がするが、ここは素直に聞こう。少し休んだけど、まだ疲れが残っていたからだ。
天狗の妖怪がおいらの傍に腰を落とした。天狗の妖怪の後ろには、狐と子河童がちょこんと座った。
「あの、おいらをここに連れてきてくれたのは、あなたですか」
と天狗の妖怪に尋ねる。天狗の妖怪は、静かに頷くと
「ええ。妖怪の里に何かが飛んできた。と連絡が入ってね。ちょうど、私の棲む敷地内だったから、長老達、この里を治める妖怪達に確認してほしいと頼まれたんだ」
長老達という言葉にびくりと反応してしまった。おいらの反応に妖怪達は気づいたみたいだが、追求しない。
「さて、少し君のことを教えてもらえないかな」
天狗の妖怪は、おいらの様子を窺いながら尋ねた。流石においらを助けてくれた妖怪達に何も言わないのは、まずいだろう。そう思って、ゆっくりと話し始めた。
「おいらは、妖怪『輪入道』。近江の近くにある妖怪の里に棲んでいたんだ」
「それは随分と遠い場所からやって来たね。どうして、この里へやって来たんだい」
と落ち着いた声で天狗が言った。当然の質問だが、おいらは返答に困ってしまった。
「えっ、と……、おいら、里を追い出されて、気づいたら、ここに」
自分で状況を説明すると、これが現実なのだと自覚させられる。
ああ、おいら。輪入道として、もうあの里に戻れないんだ。
あの里はおいらにとって、決して居心地のいい場所とは言えない。
でもあの里で妖怪『輪入道』として、存在を得た。
妖怪『輪入道』を否定されたら、おいらは一体何の妖怪なんだ。