御礼 2
輪入道が人間の子どもケイを気にかけたのは、正直意外だった。そして子河童が輪入道に根負けした事ももっと驚いた。
最近驚かされることが多いな。ぼくらは確かに小妖怪だけど、人間より遙かに長く生きている。代わり映えのしない毎日を暮らしながら、静かに生きていた。でも人間観察を始めてから驚きの連続だ。こんなに興味を惹かれるのは何故だろう。
そう思いながら、輪入道と子河童、そして人間の子ケイの傍に向かった。ケイはまさかぼくらがこっちに戻ってくれるとは思っていなかったのだろう。
最初はぐしゃぐしゃに泣いていた顔もポカンとした間の抜けた表情に変わって、そのあと慌てて涙を服の袖で拭った。
「えっと、大丈夫?」
輪入道がケイに声をかけた。珍しい、いつもなら、ぼくらの後ろに隠れている輪入道が自ら話しかけるなんて、
「うん、大丈夫。えっと、輪入道だよね。ありがとう」
とケイはお礼を言った。ケイの様子が少し落ち着いたと分かるや子河童は
「おい、人間。この前、俺っち達が言ったこと覚えてるか?」
とガンを飛ばしながらケイに聞いた。
「うん、でも……」
「でも?」
「……この前のお礼、ちゃんとしてなかったから」
子河童はケイの言葉に驚いて、聞き返す。
「お礼?」
「うん。祠にさお供え物したら、君たちに届くかなって思って。それで来てみたら、偶然見かけたからさ」
だから慌てて走ってきちゃったとケイは言った。
「まさか、君たちにもシカトされるとは思わなかったけど」
ケイの悲しそうな口ぶりと聞きなれない言葉に、思わず輪入道が反応した。
「し、しかと?どういう意味なの」
「無視されるとか仲間はずれみたいな意味だよ」
ケイの無視される、仲間はずれという言葉に反応した輪入道が、
「うん、たしかに『しかと』は辛いよね」
と同意した。うんうんと頷く輪入道の様子に、子河童は慌てて
「いやいや、俺っちたちの場合、仕方ないだろう。人間と関わったらまずいんだから!」
とぼくらに言った。でもせっかくここまで来てもらったのになあと思い、ぼくは話題を逸らすため、
「お礼って、何を持ってきてくれたの」
と聞いてみる。その瞬間、子河童は半眼でこちらを睨みぼくに尋ねる。
「みんな、俺っちの話を聞いているのか?」
ケイはぼくが話を聞いてくれて嬉しかったらしい。袋からお礼のお供え物を取り出して言った。
「えっとね、油揚げとかいろいろ持ってきた」
ああ、だからさっきから香ばしい匂いがしていたのか。ぼくのクンクンと鼻で香りを嗅いでいる様子を見て、子河童ははあっとため息をついた。
「おい、聞いてねえな。はあ、これが『しかと』ってやつか。めんどくせえな」