十年前の謎 2
「おーい、いるのはわかってんだぞ。さっさと開けろよー。涼子、実花。開けろって、おい、いんのわかってんだぞー。とっとと開けろよー」
何でここがわかったんだろう。
関西まで逃げて来たのに。
もう日本から出て行くしかないのかな。
ママが仕事に行ってて良かった。
絶対に外には出ない。
雪でも降ったらいいのに。
流石に寒くて帰るでしょ。
根性ないんだから。
「おーい、開けろよー。おい。いい加減にしろよー。涼子、実花」
自分の中にコイツと同じ血が流れているのかと思うとぞっとする。
ママはいいな、こいつと離婚したら他人なんだから。
私はそうはいかない。
「おい、開けろよー。いい加減金返せよー」
どっちがだ。
ずっと働きもしないでママに食わせてもらってたくせに。
一円だってあんたになんか借りてない。
ふざけるな。
「おーい、踏み倒すとかふざけんなよー。おーい、金返せよー」
雪降れ、雨降れ、雷落ちろ、いっそアイツの上にだけ隕石堕ちて来い。
何でいつまでも私とママに付き纏うのよ。
こんな田舎にまで追いかけてくるなんて。
「おーい。いいのかー。涼子、お前の秘密喋ってもいいのかー」
何が秘密だ。
どうせいつものあれでしょ。
「いいのかー。ゆっちゃうぞー。いいのかー」
勝手にしろ。
「みなさーん、ここに、殺人犯が住んでますよー。ここに住んでる佐藤涼子は殺人犯ですよー。ムショ帰りなんですー。ご近所のみなさーん」
何でこいつが逮捕されないんだろう。
どうしてこいつがこうやって呑気に生きていられるんだろう。
働きもしないで妻と娘に暴力ふるって、離婚してもこうやって付き纏って、ご近所に嘘の情報を流しているような人間が今日も明日も誰にも咎められずに生きていられるなんて世の中ホントに間違ってる。
「出て来いよー、殺人犯。俺の親父はお前に殺されたんだぞー。家の金持ち逃げしやがって、とっとと出てこいやー」
ドア蹴って足の骨折れないかな。
それくらいしてくれていいでしょ、神様。
私達こんなに我慢してるんだから。
美味しいもの食べられなくても、田舎暮らしでも、綺麗なお洋服が着られなくても、欲しいもの何にも買えなくても我慢するから、アイツを何とかしてください。
お願い。
「人殺し―、ひとごろしー。賠償金払えよ。踏み倒すんじゃねぇぞ。つーか、さっさと出てこいやー」
うっさい。
何でこいつに罰が当たらないの。
不公平だよ。
どうして真面目に生きている私達が嫌な目にあって、アイツはいつまでも元気なわけ。
口中に口内炎出来ろ。
原因不明の腹痛に襲われろ。
ゾンビ出て来い。
「すみません」
誰だろう?
聞いたことない男の人の声。