十年前の謎 1
隣に奇妙な三人組が引っ越して来た。
一人は二十代前半と思われる背が高い男性。
もう一人は恐らく二十代後半から三十代前半と思われるショートカットの女性、恐らくそんなに小柄ではないだろうけど、男性の身体が異様に長いので少し小さく見えた。
もう一人も女性だけど年齢はわからない、恐らく十代の終わりから二十代前半といったところだろうか。
背の高い男性がお姫様抱っこして車からアパートの部屋まで運んでいった。
抱えられた女性は白い肌触りのよさそうなルームワンピースを着ていて、長い黒髪以外全てが白かった。
男性が着ている長袖のTシャツもズボンも黒だったので、まるで男性のカッコよさを引き立てるお洒落なファッションアイテムのように見えた。
引っ越しの挨拶には三人の中で一番年長と思われる女性だけが来た。
女性は私と母に通り一遍の挨拶をして、食器洗い用洗剤の詰め合わせを置いて帰っていった。
「若い男の人もいたんだよ」
「そう」
「若い女の子も」
「三人ってこと?」
「そうそう、窓から見てたの」
「三人兄弟?」
「似てなかったよ。男の人はすっごく大きいの。二メートルくらいありそうだった」
「そんなに?」
「うん。あんなでっかい人初めて見た」
「何やってる人なのかしらね」
「さあ。てか、どういう関係だろ、あの三人」
「どっちかがお兄さんの恋人なんじゃないの」
「どっちもかもよ」
「あら」
「それともあの女の子は人間そっくりなお人形?」
「えぇ?」
「だって寝てたんだよね。そんなじっくり見れたわけじゃないんだけど、明らかに寝てたんだよね。目閉じてたもん」
「どっか悪いのかしら?」
「さあ」
「まあよそんちのことだから。誰にだってつつかれたくないことってあるものよ」
「わかってるよ。静かに暮したいよね」
「そうね」
「もう大丈夫だよね」
「うん。大丈夫」
「これからは幸せになれるよね」
「うん。大丈夫」
「もう怖いことないよね」
「ないわよ」
「二人で楽しく暮そうね。お母さん」
「うん。ホントにごめんね。奈緒」
「謝んなくていいよ。兎に角頑張ろ二人で」
「うん」
「大丈夫。そんなに悪いことばっかり続かないよ」
「そうよね。そうよ。そうに決まってる」
「あんなに嫌な目に合ったんだからこれからはいいことばっかりだよ」
「そうよ」
私と母は台所で抱きあった。
私達は一日の終わりを毎日そうやって過ごしていた。
もう不幸なことは何も起こるはずはないと毎日互いに言い聞かせていた。