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忘れない言葉  作者: 青木りよこ
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十五年前の謎 1

もう大分古い話で、多分俺が小学校低学年だったと思うんだけど、忘れられないというか、大雨が降るたびに思い出しては母親にしつこく聞いてたんだけど、いつも決まって「そんな人いたっけ」って言われてたから、あの二人は俺が見た幻か夢だったんじゃないかと思っていたんだけど、今日長年のわだかまり、モヤモヤが晴れました。

何と俺の嫁が憶えていました。

そうか、そういや俺ら小学校一緒だったわ。

中学で同じクラスになって仲良くなって付き合い始めたからすっかり忘れてたけど、クラス一緒に一度もならなかっただけで同じ小学校だったわ、うん。


「やっと憶えてる人見つけたよー。もう俺の妄想だったのかと」


「いたよ。私も憶えてるよ」


「そうだよな、いたよな」


「あんな人忘れないでしょ。だって私が見た人間で一番デカかったもん。二メートルくらいありそうだった」


「だよな、そうそう、あの体育館の端っこに座って、毛布ぐるぐる巻きにした人抱えてたお兄ちゃんだよな」


「そうそう、その人。お義母さん何で忘れてんの。あんな目立つ人いなかったでしょ」


「そうなんだよ。まさか子供にだけ見えてた幻じゃないよな?」


「ないでしょ。割としっかり憶えてるわ。何かかっこいい人だったし」


「そうだよな、何か美男子だったよな。こう、正統派の。漫画に出てくる主人公のライバルキャラみたいな、のちに共闘するやつ」


「ちょっと影が有んのよね」


「じゃあ、あのぐるぐる巻きの毛布の中身見た?」


「見た。ちらっと。私結構近くにいたから。女の人だったよ。彼女じゃないの」


「あ、そうなの?」


「多分。ちらっとだけど、小さい顔が見えたもん。赤ちゃんのおくるみみたいに、顔だけ見えてた。あと、小っちゃい足も」


「聖遺物かと思ってた、もしくはミイラ」


「何言ってんだか」


「だってさ、あんなの普通忘れなくない?」


「そうね」


「家の母親忘れてんだぜ。あの日、日曜で父親仕事でいなかったから、二人で行ったんだよ。だけどさ、他に同級生もいたと思うんだけど、誰がいたかもう思い出せないんだよな。たかが何年前?あれ」


「十五年前だと思う。私三年生だったから」


「そっか、三年か」


「そうそう、憶えてる。寝てた」


「はい?」


「女の人よ。お兄さんが膝に乗せてた、あの毛布ぐるぐる巻きの人。多分寝てた」


「そうだったんだ」


「そうそう、この人具合悪いのかなって思ったもん、確か」


「具合悪いから毛布ぐるぐる巻きにしてたの?」


「そうなんじゃないの。だって体育館寒くなかった?」


「寒かったような気がする。あれ、でも夏じゃなかった」


「あー、夏だったかも。そうだ、水貰った」


「はい?」


「水よ。ペットボトルの配られたでしょ。それ貰ったわ。飲まないからって」


「へー」


「あとあんパンも。ほら配ってたじゃない」


「忘れたよ。トイレが混んでたことと、あの毛布ぐるぐる巻きの聖遺物抱えてたお兄ちゃんしか憶えてないよ。あ、なんか小っさい市会議員か何かが来たのは憶えてるけど」


「あー、来たねー。あれ、結構憶えてるもんだね」


「なー。そっか。やっぱいたんだ。あの何か真っ黒なおお兄ちゃんいたんだ」


「そういえば黒づくめだったわね。何かあの時は自分が子供だったから大人に見えてたけど、考えたらまだ二十歳そこそこだったんじゃないの、あのお兄さん」


「あー、多分そうかも」


「大学生の同棲カップル?」


「同棲してなくても彼氏の部屋にいただけじゃないの。そしたら大雨降ってきて」


「もしかしたらもう就職して働いてたかもしんないし」


「職人?」


「さあ、何かでもすっごい巨人に思えたけど、それは私達がまだ小さかったからかもね。でも足メチャクチャ長かったよ。ぺたって足投げ出して座ってたから」


「もう身体のほとんど足だったよな」


「そうかも。顔もメチャクチャ小さかった。声も何かかっこよかった気がする。低くて」


「しかし何であんなぐるぐる巻きに?」


「寒かったからでしょ」


「何かこうピエタみたいだったよな?」


「そうね、まあ男女逆だけど」


「あの二人どこから来たんだろ?」


「さあ、少なくとも家の近所の人じゃないと思う。アパートとかはどんな人住んでたかわかんないけど」


「家も違うと思う。あんなでっかい兄ちゃん歩いてたら目立つし」


「うーん。まあ二度と会うことないわけだけど、誰だったんだろうね?」


「さあ。俺はもう俺の妄想じゃなかったことが証明されて大満足だから、お兄ちゃんの正体は別にいいや」


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