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忘れない言葉  作者: 青木りよこ
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二十年前の謎 3

次の日私はいつものショッピングモールのバス停で仕事に行く母を見送るとその足で昨日のお姉さんのアパートへ向かった。

チャイムを押すとお姉さんが涼しいお部屋に迎え入れてくれた。

私は昨日の漫画の続きを読み、お姉さんはアニメを見ていた。

二十年前だからビデオテープだったと思う。

お兄さんは昨日と同じ姿勢でベッドを背に机に向かい何かを書いていた。

お昼になるとお兄さんは手を洗って、台所で野菜を刻み始めた。

お兄さんが作ってくれたのはオムライスだった。

ふんわりとご飯を包んだ卵にはケチャップで猫の顔が書かれていた。


「わー、すごーい。お兄ちゃん器用だねー」


「そうなの、お兄ちゃん器用なの、ねー」


お姉さんはお兄さんの顔を覗き込んだ。

お兄さんは何も言わずその視線を避け、また元の位置に戻った。

テーブルに並んだオムライスのお皿は二つ。

レタスとトマトとキャベツとツナのサラダも二つ。


「お兄ちゃんは食べないの?」


「お兄ちゃんは朝と夜しか食べないの」


「何で?お腹空かないの?」


「そういう習慣だから気にしないで。食べよ」


「うん、いただきます」


お兄さんがせっかく書いてくれたケチャップで書いた猫が勿体なかったけどケチャップは卵全体に広げて食べた。


「美味しかったー。家のお母さんね、オムライスの卵こんな風にできないからいっつもぐちゃぐちゃになった卵を乗っけて食べるの」


「お姉ちゃんもできないよ。お姉ちゃんなんかゆで卵しかできない。いっつもお兄ちゃんが作ってくれるから、お姉ちゃんお料理できないの」


次の日も、その次の日も母が仕事の日はお姉さんとお兄さんのアパートに通った。

お兄さんは毎日二人分の食事を作ってくれて、自分は食べなかった。

私は涼しい部屋で漫画を読んでゲームをしてお姉さんが見てるアニメを一緒に見て、お昼寝をして、三時になるとおやつを食べさせてもらって楽しく過ごした。

お兄さんの作るものは何でも美味しかった。

私は毎日お昼ご飯が楽しみだった。

特に美味しかったのは炒飯で、お兄さんは大きな中華鍋で作っていた。

大きな黒いお鍋から舞い上がるご飯が面白くって、何度も見ていたくって明日も炒飯がいいと言ったら次の日はカレー炒飯にしてくれた。


あの夏、毎日次の日が来るのが待ち遠しかった。

涼しい部屋で毎日違うお昼ご飯が食べられて、漫画を読んでゲームをして、アニメを見て、話しかけても静かにしてって言われないし、おやつまで食べられる。

まるで夢のような時間だった。

ひょっとしたら夢だったのかもしれない。

でも夢じゃなかったことは私が一番よく知っている。

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