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忘れない言葉  作者: 青木りよこ
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二十年前の謎 1

この二十年誰にも言えなかったことがある。


あの夏を私は何度も思い出していた。

引き出しから取り出して古い雑誌を眺めるみたいに。


小学校に入って初めての夏休みだった。

私は毎日出勤前の母に車で送られ、開店前のショッピングモールのバス停に降ろされた。

開店したら中に入って涼みなさいと言われていた。

うちは母子家庭でお金がなく、エアコンを一日点けっぱなしにするわけにいかず、だからといってアパートの二階で私一人で過ごすのに窓を開けっぱなしにしておくこともできず、母が考えたのが近所のショッピングモールで過ごすというものだった。

私は毎日二百円玉二つだけを入れた財布を持たされ、炎天下の中ショッピングモールの開店時間までバスに乗らないのにバス停の椅子に座っていた。

開店すると一番にフードコートに行き無料のお水を飲んだ。

そしてトイレに行って、本屋に行っておもちゃ屋さんに行って、文房具屋さんを見て、食器を見て、入らないのにレストラン街をうろうろしていた。

そうやって午前を潰し、食料品売り場に行き、ゆっくりと時間をかけてお昼ご飯を選んだ。

二百円では大したものは買えないので、毎日菓子パンかおにぎりになったけど、自分で好きなものを買えるのは楽しかった。

お水は飲み放題だからジュースは買っちゃだめよと言われていたので、飲み物は買わなかった。

午後からは映画館のポスターを眺めたり、百円ショップを見に行ったりした。

ゲームセンターには行かないようにと言われていたので近づかなかった。

六時には母が迎えに来てくれたので食料品売り場で買い物をして帰った。

当時の私は母が迎えに来てくれないなど考えたこともなかったけど、私は毎日迎えに来た母の姿を見てほっとしていた。

その安堵を今でもよく覚えている。


土曜日になると母も仕事が休みなので、一緒に朝からショッピングモールに行き、一人では入らない子供服のお店に入ったり、母が自分の洋服を見たりしていたのでその周りをウロチョロしていた、私達は何も買わなかったけれど、いつもとても楽しかった。

お水は飲み放題だったので二人で何度も飲みに行った。

お昼はファミレスで二人でピザとドリアを半分こして食べた。

夕方まで店中を見て回った。

帰りに王将で餃子とチャーハンを食べて、家に着くとエアコンを入れて二人でお風呂に入ってすぐに寝た。

一日の過ごし方としては同じなのに二人だと何でも楽しかった。


夏休みの暮らしに慣れた頃、困ったことが起こった。

いつものように母とバス停のベンチで別れたのだが、いつものようにお店が開かない。

時間になっても開かないので、自動ドアの前にいってみると本日定休日の文字が目に飛び込んできた。

私はその時文字通り固まってしまった。

恐らく人生で初めて本当にどうしようと思っていた。

私は喉が酷く乾いていた。

そしてその日は朝からとても暑かった。

私はこうしてはいけないとここに来る途中にコンビニがあったことを思い出し、そこを目指し歩くことにした。

私は歩いた。

歩いて歩いて、それでも中々目的地に辿りつかず、私は意識を手放した。


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