魔法の練習
まずは……
「火玉」
木に向かって手のひらをかざし、言ってみる。
……………………
まあ、そんな簡単にできるわけないか。
俺は目をつぶり、体を巡る魔力を感じようとする。それを手のひらに集中させて……
「火玉」
うーん、ダメか。
「火玉」
「火玉」
「火玉」
はぁ、こんなに出来ないとちょっと苛立ってくる。
「火玉」
「火玉」
「火玉」
あー、もうやだ!
「火玉!」
半分やけになって叫ぶ。すると、手のひらから火が飛んでいき、木に当たる。
できたあああっ!一瞬俺の胸の中は喜びで満ちる。が、すごい勢いで燃え移って行く木を見て、思う。
なんで俺は森で火の魔法の練習をしようと思ったんだ?
「水!」
急いで唱えてみると、手のひらから大量の水が出て、すぐに火は消えた。
「あぶね。でも、魔法は使えるようになったっぽい。」
辺りを見ると、日が暮れかけていた。もう何時間も練習していたんだろう。天を仰ぎ、喜びをかみしめる。こんなに喜びを感じたのは受験で受かった時以来ではないだろうか。
さて、もうそろそろ帰らなければ。
あれ、そういえば俺の家ってどこだ?
ホテルはあるのだろうか。あったとしても俺は、今金がない。とりあえずニーシュに相談してみようか。
そんなことを考えながら山道を歩いていると、茂みからゴソゴソと音が聞こえてきた。
なんだろうか。俺は歩くのをやめ、耳をすます。
「明日はどこを狙おうか。」
「そうだなぁ、あそこの高級ホテルにしようか。」
あっホテルあるんだ。
「いいな。金がたんまりありそうだ。」
「あそこの警備員は強いって有名だが、きっと俺様にはかなわねぇよ。ガハハハ。」
男が豪快に笑う。これはかなりやばいのではないだろうか。きっとこいつらは強盗だ。しかも男は腕に自信があるっぽい。
俺の胸の中に恐怖がうずまく。逃げた方がいいのか?俺は足にはあんまり自信がないが、逃げ切れるのだろうか。
いや、俺は断罪者になろうとしている者だ。何より称号がチートだ。こんな奴らに怯えて逃げてるようじゃ断罪者になんかなれるもんか。
ゆっくりと立ち上がる。足が震える。
音の聞こえる方へ音を立てないように忍び寄る。茂みの間から光が見える。
ガサッ
「誰だ!誰かそこにいるのか!」
バレた。こうなったら仕方ない。俺は覚悟を決める。
「お前ら、強盗だろっ。俺は断罪者……になろうとしている者だ。断罪してやる。」
あー、言っちゃったから仕方ないけど、なんかめっちゃ恥ずかしい。このセリフ。もっとカッコいい決めゼリフ考えなきゃな。それとも、どんだけカッコいい決めゼリフでも恥ずかしく感じるもんなのかな。
強盗達は焚き火を囲って6人いた。
「あ゛あん?オメェ、なんつった?」
「だから、断罪してやるっつてんだろ!」
2回も言わせんな。恥ずかしいんだから。
「ハハハッ。俺らを断罪するんだって。この世にはとんだバカがいるんだねぇ。」
「全くだ。俺様に歯向かうとは。このゴロル様の手によって死ぬことを喜ばしく思うんだな。」
この男はゴロルというらしい。それにしても自分のことを「ゴロル様」だって。
俺は思わず吹き出してしまう。
「何笑ってんだテメェ?さっさと死ねぇ!」
ゴロルが俺に手のひらをかざし、呪文を唱えた。
https://ncode.syosetu.com/n2665ib/5/ で呪文の確認ができます。