サトウケンジ(帰宅後)
僕はクルトさんとミネルさんとメムニルさんにお世話になり、無事帰ることができた。僕がいなくなって大騒ぎになったりはしていない。どうやら異世界に送られる寸前に戻してくれたらしい。本当にありがたい。
翌日。
「砂糖〜」
「佐藤だ!」
「はいはい、サトウのご◯ん」
「それは一昨日言った」
「え〜、だってサトウがつく商品名他に思いつかないし」
「探さんでいい!」
いつも通りの毎日。けれど異世界に飛ばされて、一回死んだという異常すぎる体験で、命が大切だと、当たり前は当たり前じゃないのだと、時間は限られているのだと、道徳の振り返りシートに書いた綺麗事じゃなく、本当にそう思えた。
帰り道。
心菜が前を歩いていた。
声をかけようと一歩踏み出すが、もう一歩が出ない。
いつまでもこんなことをしておいていいのだろうか。高一ももう半年もない。次のクラス替えでは心菜と違うクラスになるかも知れない。そうなれば声がかけづらくなる。いや、それどころかこのままだと高校が終わってしまう。
毎日おんなじようなことをやる。それだけじゃ何も変わらない。何も変わらないまま青春が終わってしまっていいのか?時間は限られている。後悔してからじゃ遅い。異世界に飛ばされたことでそれを感じたんじゃないのか?
夏の生暖かい風が吹く。
僕は迷いながら、緊張しながら、それでももう一歩を踏み出してみる。