異世界者
「ニーシュさん、なんか仕事あります?」
「はい。ありますよ。えーとね、そこらに歩いてる魔物斬りまくったヤツがいるんですよぉ」
「なーにー?」
「やっちまったなぁ!」
し、しまった。語尾があまりにもアレに似てたからつい反射で。それにしてもメムニルがこのノリに乗るとは。
ミネルとカンジュとニーシュはポカンとしている。やめろ、スベッたみたいじゃないか。横を見るとメムニルがハッとした様子で頬を赤らめている。この子、実は前世では結構ノリがいい元気っ子タイプか?
「あ、あはは。気にしないでください。」
「えーと、こほん。それで、ソイツの名前が……何だっけ?ああ、サトウケンジです。変な名前ですよね」
サトウケンジが俺の頭の中で佐藤研二に変換される。サトウは佐藤で間違いないだろう。研二は友達にこの漢字のケンジがいたから頭の中で勝手にこの漢字になってしまった。
えー、ボクは健二だと思ったけど
そこは賢治だろう。それどころか宮沢と書いてサトウと読む可能性も……
ないわ!いいから黙っとけ。と言うか2号よ、そのキャラを吾輩は猫である風にしてんのであれば夏目漱石だぞ。
……!そ、そんなことはない。断じて夏目漱石殿と混ざったわけではない。断じてだ!
お、おう。
「それによく分からない言語を話すんですよ。何してるんだって聞くとケロッとした様子で何かを喋るんですけど何を言ってるか分からなくて。多分サトウにもこちらの言葉は通じてないでしょうし。と思ったら路地裏で襲われてた女の子を助けたり、意味が分かりません。とりあえず拘束しようとしたんですけど、信じられないほど強くって。」
ニーシュもお手上げの様子だった。
俺には佐藤の考えは何となく読めた。多分なんらかの形で異世界に飛ばされ、言語も分からない。ただゲームとかアニメでは大体襲われている女の子を助けるからそれ通りにする。チート能力があったから魔物を倒すのもアニメやゲームに従ってのことだろう。これで英雄かと思いきや訳のわからない言語で怒られ、拘束されかける。
──不幸すぎんだろ。同情するわ
「これは……ちょっと同情しちゃいますね」
メムニルも俺と同じようなことを言う。
「この場合って罪になるのか?」
「?何で迷ってんのか知らんけど引っかかることがあるんやったら聞いてみたら」
と、言われたので俺の考えをニーシュに話す。ゲームとかアニメで異世界転生ものがあってそこのセオリーがうんぬんもめんどくさいが一から説明した。
「はぁ、まあ何となく……掴めたような掴めないような」
ニーシュが困ったように頭を掻く。
「とりあえず、クルト様の話で行くと、サトウは悪気がない可能性が高いということですか」
「まあそうですね」
「それなら、私の権力でなんとかできます」
権力強し!
「ですが、クルト様に言い忘れていたことがあって、人も斬ったんですよね。サトウ。魔族ならまあそのストーリーが出来上がるかもしれませんが人間まで……」
うーん。人も斬ったか。
「とりあえず依頼は受けます。いいよね」
「うん」
「はい!」
「ええでー」
「あ、そういえば信じられないほど強いって言ってましたけどどんな風に?ステータスとかはありますか」
「それがメリス国で起こったことなので詳しいことは分からないんですよね。すみません」
メリス国は……確かここの隣国だっけ?
「大丈夫です。捜索で探してみます」
俺達は外に出ると早速捜索をかけてみた。今日のところはとりあえずステータスを見るだけだ。
「捜索、サトウケンジ続けて瞬間移動」
見知らぬ町に出た。人が多すぎて誰がサトウケンジか分からない。
「サトウケンジってどこだ?」
「あ、アレじゃない?ほら光ってるじゃん」
ミネルの指の差した人物の背中は確かに光っていた。
「うん、きっとアレだ」
「見つけたよ〜!カンジュ、メムニルついてきてる?」
「何とか。それにしてもすごい人混みですね」
「ワイ人いっぱいおるの苦手や。小型化するからご主人運んでーな」
「自分で歩いて。都合のいい時だけ剣化はさせない」
「えぇ〜」
そんなことを言っていると、サトウにやっと追いついた。
「カンジュ、天眼」
「はいよ。うーんと、はー?ひーふーへぇ?ほぉ」
「見れた?」
「ああ、まあな。ワイが覚えとるうちに違うところに移動してくれ」
「ん。移動するから手を持って!瞬間移動、家へ」
家へ戻るとすぐさま地面に何かを書き出した。
佐藤謙司 16歳 男
魔力 無限/生命力 1200
・基本属性
火魔法
木魔法
・他属性
聖・闇属性
状態属性
・称号
異世界者
・特別能力
魔力無限
不運
元の世界との繋がり
・言語
日本語
ステータスはすごかった。そして謎が多かった。
転生者でも転移者でもなくなぜ異世界者?特別能力の元の世界との繋がりって何だ?あと不運が気になる
ミネルはこれを見てはぁ、とため息をついている。
「わかったよ。何でこっちに来ちゃったか。神だ。神のせいだ。たまーにいるんだよ。名簿だけ確認して実際に面会とか通さずにサクッと異世界に飛ばしちゃう神が。多分そのタイプの神に、転生させるはずの人と間違われて異世界にいきなり飛ばされたんだと思う。でもそれなら、神の名簿には元の世界に生きていることになる。これが「元の世界との繋がり」だね。神……堕神の私が頑張れば何とか元の世界に返せると思うよ。」
はー、それは何とも無責任な神ですこと。
「じゃあ今回は話し合いで決められそう?」
「うーん、いやでも……多分クルトくんとメムニルとサトウで私と戦うことになると思う」
『は?』
「いやあ、神ならスッと返せるんだけどね。堕神は神の権利が剥奪されてるから。神の権利を強引に取り戻してるわけだから意識を保てなくなるほどの負担がかかるのよ。理性吹っ飛んで返すために頑張ってる最中に君たちを殺しにかかると思う」
いやいやいやいやいや!それはないでしょミネル!!
「まっ、だいじょぶだいじょぶ。3人にかかれば私なんて一瞬だよ」
不安だ……