剣の力
「捜索、テールナーのドンド&瞬間移動、ドンドのところへ」
移動先には、あぐらをかいている赤い皮膚をしたおとぎ話の赤鬼をそのまま出したような魔物がいた。
「俺に何かようか?」
「うーんと、エルフを殺したの君だよねぇ〜」
「ああ、断罪者の野郎か」
「うん、で、私たちにおとなしく捕まる気はないかな?」
「あると言うとでも?」
「クルトくーん、コイツ剣の練習台になりたいらしいから思いっきりやっちゃって〜。」
ドンドは立ち上がり、戦闘体制に入る。
しゃーない。やるか。
「あっそうそう。決めゼリフねえ〜!ほら、ダニール団では私が開戦合図しちゃったから」
うるさいっ!あーでも約束だもんなぁ。
「エルフ殺しの罪でお前を断罪するっ!剣よ、我の魔法をその身にまとわせ、断罪に協力したまえ」
うん、めっちゃ厨二っぽいな。顔が赤くなるのを感じる。ま、「カッコいい」と「厨二っぽい」は紙一重だ。
「炎」
剣に魔法を送る。すると、剣がゴオゴオと燃えた。
そのままドンドの元へダッシュする。剣を振り下ろす。が、手応えはない。
重くてあんまり上手いことつかえないな。
「もうちょっと軽くなって。」
小声で剣にお願いする。片手で持てる程度に軽くなった。もう一度ドンドに向かって走り、剣を振り下ろす。今度はしっかりと当たった。
だが、斬れない。なんで?
炎の魔法ダメージも入ってないみたいだ。剣が入らないと魔法も効かないのか。
「鋭利」
ドンドの鋭利を剣で吸う。
そういえば魔力を吸って強くなるって言ってたよな。剣に思いっきり魔力を込めてみる。炎が大きくなる。
よし、行ける。
ドンドに剣を振り下ろす。コレで三度目だ。
今度は手応えがあった。綺麗にスッと剣が入り込み、ドンドの赤い皮膚を切り裂く。腕が落ちる。ドンドが緑の血を流して倒れた。
ぎゃああああああというドンドの発狂。聞いてられないので睡眠をかけた。
「いやーそれにしても一度目と二度目の攻撃を見た時は正直大丈夫かと心配したけど、三度目の威力はすごかったねぇ。」
「うんうん、途中で注いでくれたご主人の魔力ゴッツかったもんなー。普通の人間の3倍くらいの魔力一気に注ぎ込まれたら流石のワイもちょっと戸惑ってもたわ。」
え。えええええええ?
「剣が喋りましたね。」
「喋ったね」
「喋ったよな」
「お、結構戸惑っとるみたいやな。剣って大量の魔力があれば喋ることも可能っちゃ可能やねん。」
マジか。というかどこから声出てんだ。口はない、よな。
「ご主人の魔力が多すぎて、剣の強化に注いでも有り余ってもてな。んで、余った魔力を使って喋ってみたっちゅうわけ。ど、驚いたやろ」
「驚いた」
「もうちょっと魔力注いでくれたら人型に化けることもできるんやけどなぁ〜。そっちの方が喋りやすいと思うんやけどなぁ〜。」
剣が俺を見つめる(剣に目はないので、見つめたように見えたというだけだが)。
「分かった分かった。」
俺は剣に魔力を注いでやる。
「やっぱりご主人の魔力すごいわ。」
剣が溶けるように形を変え、人型に変化する。
赤髪の、ちょっとチャラそうな20代前半男性。見た目からはそんなイメージだ。
「おー、どや。ワイ結構カッコいいか。」
「悪くはない」
「悪くないてなんや」
見た目は、第一人称ワイって感じじゃないのにな〜
「その関西弁やめたらイケメンっぽくなるんじゃ?」
ミネルが俺の横から言う。この世界でも「関西弁」で通るんだ。
「ん?こんな感じですか?どう、イケメンっぽいですか?」
「それ敬語。標準語を使ってみて」
「大体なんやねん標準語て。ワイらからしたらこっちが標準語でそっちが関東弁やっちゅうねん。と言うか標準語って敬語とちゃうん?あっ、せや。お前ら関東人に言うたいんやけど、知らんけどは絶対これっていう根拠とかはないけど確かこうやったような……っていう時に使うんや。『明日の天気ってなに?明日雨やったんちゃうかな?しらんけど。』こうや。それを何?普通に知らん時に使ってもうたら誤用になるで!それから……ブツブツブツ」
へー、知らんけどってそう使うんだ。
「そういえば名前ってあるんでしょうか?」
「ん?ワイに名前はないで。せや、名前つけてーな。」
名前かぁ。呪剣、関西弁の呪剣……カンジュとか?カサジケ?カンサジュー?カンケン、エイケン、スウケン……
「カンジュでど?」
色々組み合わせを考えてみたが、途中でめんどくさくなって結局最初のにした。
ちゃんと考えてみると、関西弁の呪剣→カンジュって、もうちょっとマシなのはなかったのかって思うけど、まあいいでしょう。
「ん、カンジュ。良い名前とは言わんけど悪くもないな。ワイはカンジュや。で、今日から戦闘時以外はこの姿で一緒に居らせてもらうわ。」
えー。。。このノリあんまり得意じゃないんだけどなぁ。
まあ仕方ないか。
「じゃあとりあえず名前を。私は……」
「おっと待て。お前がメムニルでそっちがミネルや。ちゃうか?」
「正解です!」
「なんでー?」
「実はご主人から魔力もらうついでに記憶も覗いたんや。ご主人の記憶はみーんなここに入っとる。」
コツコツと額を叩く。
「多分君らより君らのこと詳しいで」
と、一通りカンジュと話したところでドンドの死体をニーシュの元へ運ぶことになった。
「瞬間移動ニーシュのところへ」
「あ、クルトさん。それはドンドですか?って、なんで腕が綺麗に落ちてるんですか!?」
腕を斬ったらいけなかっただろうか。
「すみませんっ!まさかここまで綺麗に斬れちゃうとは思わなくって、その……思いっきり」
「いや、それはいいんです。そういうことじゃなくて、テールナーの赤い皮膚はとても硬いですから、斬れるのがおかしいんです!」
カンジュがフッフッフ、とお手本のようなドヤ顔をする。
「全く、クルトさんが剣を買う事は小耳に挟みましたが、一体どんな剣を買ったんです?」
「こんな剣です」
ここでカンジュをお披露目する。
「え?剣?」
「せやで。正真正銘の剣やで。やけどな、ただの剣ちゃうねん。呪剣やでぇ!世界に3本のな。」
手を腰に持っていき、仁王立ちをする。
「呪剣って、持ち主の魔力を吸うというあの呪剣ですか?」
「せや。その呪剣や。ご主人の膨大な魔力を吸って、人型になって喋れるほどになったねん。ちなみにカンジュっちゅう名前をもらったから、カンジュって呼んでな」
「そうか。クルトさんは魔力無限だから呪剣とはとても相性がいいんですね。あっ、ドンド断罪の報酬です。」
25万。この仕事は本当に儲かる。
掲示板に、「ドンド断罪完了!」という文字が貼られる。
「テールナーの皮膚を斬るなんてスゲーよな。これもあのSSらしいぞ。」
「SSってAランクが新しく仲間に加わったんじゃなかったっけ?」
「じゃあSSAだな。」
え、何。もしかして俺ら、話題になっちゃってたり???
「ねえねえ、クルトくん。私たち結構有名っぽいよ」
「目線がすごいですね。」
なんで今まで気づかなかったのだろう。そうだ。俺らが倒していた奴らは、Aランク断罪者さえも歯が立たなかった。そんなのを簡単に倒したなんてすごいことじゃないか。
「そのうち伝説の断罪者とか言われたりして」
「調子に乗ったらあかんで、ご主人。調子に乗って痛い目におうとるのは山ほど見てきたからな」
ちょっとした優越感を胸にホールを出る。
「なあご主人、もうちょい魔力くれへん?」
「カンジュ、お前ちょっと強欲すぎるぞ。」
「いやー、剣が魔力さえあれば喋れるってのは知っとったんやけど、それから先は未知やから、もっと魔力もらったらどうなるんやろ〜って思って。それにどうせご主人魔力無限やろ?ほな渋ることないやんか」
それもそうか。
俺は魔力を思いっきり注ぐ。
カンジュの赤髪がユサユサと揺れ、周りにはただならないオーラが漂った。
あ。魔力がそそげなくなった。上限かな?
「プハーッ!魔力注ぎすぎっ!心の臓破裂するかおもた。まあ心臓ないんやけど。」
「カンジュが魔力注げっていったんだろ。どうだ。変化は?」
「あ、ステータスが出来たわ。って、どぅええええええええ!!??」
カンジュは地面にステータスを書いていく。
カンジュ(呪剣) ???才 無性別
魔力 10億6000万/生命力 不明
・基本属性
無
・他属性
無
・特別能力
魔法吸収
持ち主との一体化可能
天眼
生き返りの秘術
未来予知
メムニルとミネルが固まる。
え、なになに。凄さが分からんのだが。
「メムニル、説明してくれ。凄さが分からん」
「え、えーと、まずですね。一つ目の魔法吸収は魔法を吸収できるやつですね。2つ目の持ち主との一体化可能は、その通りクルトさんとカンジュさんが一体化できるという能力です。」
カンジュと俺が一体化か。また試そ。
「天眼は一眼見ただけで相手のステータスがわかる能力です。生き返りの秘術は死後1時間以内なら死者を生き返らせることができます。未来予知は未来を予知できます。」
へー。ん?え?
「えええええええええええええ!?なんだそれぇぇぇぇぇぇ!?」
無敵じゃんか。下手したら俺より強いんじゃね?
全くカンジュがすごいのか、呪剣がすごいのか、魔力無限がすごいのか。