剣が欲しい
「剣が欲しい」
「へ?」
そう、俺は憧れていた。戦闘で大きな剣に火をまとわせ、敵をザシュッと倒してゆく……そして、後ろの仲間が杖を持ち、呪文を唱えると、魔法陣が描かれて魔法が発射される……そんなカッコいいのを。
しかし、ゴリラ……グリルだっけ?(←ゴロルです)とやらの大男が「死ねぇ!」と叫びながら手のひらを突き出して来るのを見た時、やはり手のひらでは格好がつかないと思った。
「この世界には、かっこよさが足りない!ほら、分かるだろ?手のひらで戦うより、剣があった方がぜっっったいカッコいいじゃん!ついでに剣に火とかまとわせたらもっと良い!」
「しかし、剣は魔力が少ないなどで魔法の威力が弱い人が力を補うために持つものですよ。それに剣は重いです。両手が使えなくなります。そうなると最大の攻撃手段である手が塞がってしまいます。」
「いや、剣に魔法をまとわせれば、物理攻撃と魔法攻撃をできる。そこは良いかも。」
おお、ミネルがこっち側についてくれるか?
「ただ魔法に耐えられる剣があればの話だね。」
「え、なにそれ。もしかしてこの世界の剣ってめちゃくちゃヤワイの?」
「はい。めちゃくちゃヤワイです。ここでは剣の用途は少ないんです。ほとんどが剣なんかを使わない。だから、剣に全てをかける職人も、剣作りを依頼する人も中々いないんです。」
「じゃ、せめて杖は?」
「杖〜?あのねぇ、クルトくん。電波時計があるのにわざわざ水時計を使う人がどこにいる?この世界には杖なんてないの。手のひらで魔法攻撃をできるものを、なぜわざわざ杖でする。」
うぅ。杖という概念はそもそもこの世界にないのか。
「お願いっ!剣が欲しい。見るだけでも見ようよー。」
「でもここら辺で武器屋なんてありましたっけ。」
「そーゆー時の捜索と瞬間移動じゃない!」
ということで、捜索で検索した結果、武器屋を見つけたのでそこへ瞬間移動してみた。
「ボロいね。」
「ボロいですね」
「ボロッ!」
「まあ仕方ないですよ。武器屋になんて行く人いませんから。」
それもそうか。
「しつれーしまーす、剣ってありますか?」
「剣?お前たち、剣が欲しいのかい?」
「はい」
武器屋のおじさんの顔に笑みが浮かぶ。
周りを見渡すと、剣がいくつかぶら下がっていた。でも、正直そこまでカッコいい印象を受けないというかなぁ。
「おお、あるよ。剣ならたくさん。さあ、どんなのがお望みだい?」
「あの、剣に魔法を纏わす事ってできますか?」
「剣に魔法を?ハハハッ!またそれはすごいことを考えたもんだ。そんなことワシも考えたことなかった。」
見た目でいけば40代後半ほどで、第一人称「ワシ」のイメージはなかったが、まあおかしくもなかった。
「良いだろう。お前たちにはワシの剣を使う資格がある。ついてこい」
言われた通りおじさんについていくと、そこには様々な剣があった。それも、最初に見たのとは違い、チョーーゼツにカッコいい。
「さっきとはなんか違う感じがしますね。」
「おっ、お前さん、見る目あるねえ。さっきのはボツ作だよ。そして、ワシが見込んだ奴にはワシの本作を売る。ここの剣なら魔法くらいではびくともせん。」
カッケーーッ!
俺は目を輝かせる。
「どれがオススメですか?」
「うーん、魔法をまとわせたいんなら、コイツかコイツだなぁ。」
おじさんは二本の剣を持って来る。
「まずこれだ。これは、魔法を吸収するんだ。魔法攻撃をされた場合、その攻撃をこれで受け止める。そうしたらその魔法を吸ってこの剣はさらに強くなる。ここにボタンがあってな、こっちを押して魔力や魔法を注入すると吸収して剣の強度とかが上がるようになってる。そしてこっちを押して魔法を吸わせると吸った魔法が剣にまとわりついて、まさにお前さんが望んだ形になる。」
「おー!すごいですね」
「だろぅ?」
おじさんがドヤ顔を決める。
「次にこれだ。」
おじさんは2本目の剣には黒い軍手をして触った。
「ただこれはあんまりオススメしない。これは俗に呪剣と呼ばれる剣で、世界に3本しかない」
「えっ、そんなのを紹介してもらっていいんですか?」
「いいんだよ。もう130年近く誰の手にも渡ってないんだ。ずっとここにいるより使ってくれた方が剣も嬉しいだろう。で、この呪剣についてなんだが、これは魔力を吸う。」
「魔力を?」
「そうだ。持ち主の魔力を少しずつ吸っていく。その魔力を使って剣はどんどん強くなる。だが、さっきの剣とは違ってこれは強制的に吸い続けるんだ。剣を手にしたら最後、魔力が尽きるまで吸われていく。そして吸われた魔力は自動回復しない。それにこの剣は3本の剣の中で1番強欲で、他より魔力を吸うスピードが早い。その代わり、持ち主の言うことを何でも聞く。魔法を吸えと言われれば魔法を吸うし、魔法をまとわせろといえばまとわせる。デカくなれと言ったらデカくなるし、盾になれと言えば盾になる。」
「この世で最強の剣だが、同時に持ち主の命を代償に強くなる最恐の剣とも言える。どうだ。お前にこの剣を持つ勇気はあるか?」
俺はゴクリと唾を飲む。
最強で最恐。何ともかっこいいその響きに興奮する。欲しい。だが魔力を代償にか。早死にするのはヤダ。
この剣は他とオーラが違っていた。ただならない感じ。そのオーラがさっきの話が本当だと確信させる。
どうしようか。安全にもう一つの方にしようか。
あ。ああああっ!
ここで気づく。俺が魔力無限であることに。
そうだ!魔力無限じゃん俺。魔力吸われたところで何ともないじゃん!
「買います!その剣、買います。」
「そうか。」
「おいおいおい。」
「ちょーっと待ってください」
後ろで見守っていたミネルとメムニルが声を上げる。
「え、何?命代償にしてまで剣使いたいの?バッカじゃない?」
「うっせえ。これはコイツが決めたことだ。お前らが口出しすることじゃない。しかし、本当にいいんだな?」
「はい。」
おじさんはフゥとため息をつく。
「これにサインしてくれ。サインをしたら、もうこれはお前のもんだ。」
「お代は?」
「金はいらん。正直コレの扱いには困ってたからな。逆にこっちが金を払ってやりたいくらいだ。」
タダでコレをもらえるなんて、本当についてる。
サインをして、剣を手に持つ。ズシっとした重みが来る。と同時に、体の中から何かを取られているような感覚に襲われる。これが魔力を吸われるということか。
「ありがとうございました。」
「それ、ちゃんと使いこなせよ。」
「はい。」
武器屋を出て、瞬間移動で家に帰る。
「どーゆーつもりですかぁ!」
「どーゆーつもりよ!」
家に帰ってすぐ、2人に怒鳴られる。
「魔力を吸い尽くされるって、そんな恐ろしいものをよく買おうとしましたね。」
「まだ気づいてないのか?」
はーっとわざとらしくため息をついてみる。
「俺は、魔力無限だ。」
2人はしばらく固まり、見つめ合う。
「あ、ホントだー。忘れてた。」
「ちょ、えぇ?クルトさんって魔力無限なんですか?」
「えっ、メムニル知らなかったっけ」
俺はステータスを紙に書く。
「ほい。コレが俺のステータス」
「なんですかコレは!チートですかぁ?特別能力が魔力無限と全属性持ちって……。」
反応が面白いので、ついでにミネルのステータスも渡してみた。
「どぅえええ!?基本属性二つ持ち?っていうか魔力多っ!生命力すごっ!私なんかがこんなすごい人たちの中にいて本当にいいんですか???」
「そういえばメムニルのステータスも見せて。」
「あっ、はい。」
一度見たが、もう一度しっかりと見たかった。
氏名:メムニル 22歳 女
・基本属性
木属性
・他属性
状態属性
・称号
転生者
・特別能力
身体能力向上
「この特別能力身体能力向上ってのは何?」
「えーと、身体能力が普通の3倍になってるんです。例えば……」
メムニルは家の外へ出て木に向かってジャンプする。すると、メムニルは木を高く越え、スタっと着地した。と思うと、近くにあった岩に拳を1発入れる。岩にヒビがいき、木っ端微塵になる。
「うぉー……メムニルもメムニルですごい。」
「いえ、クルトさんやミネルさんの方がすごいです!」
メムニルは胸の前で両手を小さく振る。
「さて、クルトくん。剣の力試しをしてみよっか」