戦闘
『植物の加護』
俺たちがまず唱えた呪文はそれだった。この中で1番厄介なのは状態属性、メムニルだ。訳アリだとしても敵であることには違いない。
「闇玉」
ノブレールが撃ち、それを避ける。
「スピードはあまり速くないね。魔力チップを捧げてない。」
「???魔力チップ?」
「え、もしかしてクルトくん知らないの?魔力チップは……おっ」
ノブレールの闇玉を避ける。
「必要なmpよりも多く魔力を消費すると、スピードとか威力が上がるのよ。ひっ、当たりかけた。」
ひゃあとかヒィとかきゃあとか言ってるけど、ミネルは余裕でかわしていて、全然当たる気配がない。
こんな早い動きできるやつにカルタで勝てるわけ無いよな。百人一首がめちゃ強かった俺が負けるわけだ。
「クソッ、全然あたらねぇ。こんなに撃ってたら魔力が切れちまう。」
「今回の相手は手強そう。俺も手伝うよ。」
ダニールも闇玉を撃ち、数が一気に増えた。しかもダニールはノブレールよりも大きく、速い。
「ダニールは魔力チップを捧げてるね。しかも結構。多分、魔力が結構あるよ。」
あれが魔力チップありとなしの違いか。俺は眺める。そういえば、ミネルしか狙われてなくない?
とりあえずこの厄介そうな女を倒してやる的な考えなのか、この男は強そうだから後でゆっくりと倒そう的考えなのか。まあどちらにせよ、もしこんな考え方をしているのなら、それは大きな間違いである。
「うぎゃ!目が、目がぁ。」
「ム◯カかよ。どうした、何があった?」
「視覚がないの!多分五感喪失。メムニルね。」
ミネルは凄いことに感覚で闇玉を避けていく。が、無理があるのかダニールの玉に当たる。
ダニールとノブレールが勝ち確信の顔をする。うーん、既視感を感じる。ああ、ゴロルとかいうやつも闇玉撃って勝ち確信してたな。しかし、俺は何を隠そう全属性持ちなのだっ!
「聖砲、そしてもう二つ聖砲!」
「聖砲!?」
一つ目の聖砲はミネルの闇玉解除に、2つ目と3つ目はダニールとノブレールの闇属性封じに使った。2人は避けようとするが、結構動きが遅く、一瞬で2人の闇属性は封じられた。
「そろそろ五感喪失の効き目は切れた?」
「うん、オッケー。ありがとう。じゃあ、反撃開始ね。あっ、忘れないでよ、あの言葉」
ミネルがニヤリと笑う。
「はいはい。分かりました」
「強盗、殺人などの罪により、俺たちはお前らを断罪する!」
「ヒュー」
ミネルが横でぱちぱちと拍手を送る。
「じゃあ、魔力チップってのを試してみよっかな。爆炎!」
唱えたのとほぼ同時に爆発が起きる。
うわ、今までのとはまるで威力が違う。
「クルトくん、すごいね。でもあれ生きてる?」
「ど、どうだろ。ちょっと調節が難しいな。」
ダニールたちがいたところにはゴォゴォと炎が燃えている。
「鋭利」
メムニルが茂みから出てくる。どこに行ったかと思えばそんなところに隠れていたのか。
メムニルの鋭利を簡単にかわす。
「麻痺」
植物の加護を発動していた俺は長い間正座した後のような微妙な痺れを受け、顔を歪める。が、動けないといったほどではなかった。
「木縄」
「火盾」
さっきの大爆発を見た後なのに、怯えを全く見せずに攻撃魔法を唱え続ける。まるで……
「まるで、ロボットみたいだね、クルトくん。」
「うん。」
メムニルの威力の弱い攻撃を避ける。
右を見ると、炎はもう消えていた。そちらへ向かう。焼死体を見ることになるかもしれないのは正直嫌だが、生きているかどうかの確認は必要だ。恐る恐る地面にできた大きな穴を滑り、そこに見える人型のものに近寄る。
「ミネル、これ生きてる?」
「うーん、わずかだけど生命反応を感じる。多分当たる寸前に水盾を発動したっぽい。反応が早いね。そのおかげで死なずには済んだけど、瀕死状態。ほっといたらコイツら死ぬ。どーする?どうせ死刑になるんだしほっとく?」
「うーん、でもやっぱり生きてるまま渡した方がいいと思うんだよな。もしかしたら死刑よりもきつい罰があるかもだし。」
「あー、どうせなら死んだ方がマシだ!っていう感じの罰ね。そっか。もしそういうのがあったらそっちを受けさせてやりたいしね。」
ということで、癒しの緑で傷を回復して、木縄で拘束、ついでに麻痺をかけた。
「さて、問題はあの子ね。」
「うん、話を聞こうかな。」
メムニルに近寄ると、鋭利を放ってきた。それをヒョイと避け、木縄で拘束した。
「メムニル、あなたの過去を教えて。」
「……」
「あなたが訳アリってことは何となく勘づいてる。安心して、コイツらはもう捕まえた。あなたに危害を加えるようなことは出来ない。」
「……」
「場合によってはあなたは罪に問われないかもしれないよ」
「……」
メムニルは黙っている。
「ねえ、ホントに訳アリなの?」
「うん。私、元女神だよ?人の心理とかには人一倍敏感なの。ねえ、何か話してよ」
「……ボタン」
「ボタン?」
「ボタンを取って、この2人のどっちかがもってる!」
下を向いて黙っていたメムニルがいきなり慌てたように叫ぶ。
「速く!押されたら、あれを押されたら……」
「クルトくん、ボタンを探して!」
ダニールとノブレールのポケットを探る。
「あった!これ?」
「そう、それ!よかった……本当に良かった」
メムニルが涙を流す。
「ありがとう、ありがとうございます」
「ねえ、話す気にならない?」
メムニルは少し悩んだ後、話し始めた。
https://ncode.syosetu.com/n2665ib/5/で呪文の確認ができます。