メムニル
私は、生まれた時から他属性:状態属性を持っていた。家族や周りの人からチヤホヤされて、楽しかった。
ああ、私は特別なんだ。他の人より優れているんだ。
そう思うと、とても気持ちよかった。だからと言って、調子に乗ったわけじゃない。ちゃんとお母さんの言う通りにしたし、この力を使って悪さをした事もなかった。
将来の夢は断罪者だった。私の特別な力を使って悪い人たちをやっつけるんだ。小さな頃からそう言っていた。
なのに。その悪い人たちの仲間になるなんて。
忘れもしない、16歳の時の3月4日。帰って来たら、知らない男の人たちがいたんだ。
「ただいま〜」
「……」
様子がおかしかった。いつもならすぐにおかえり〜と返事が来るのに。
「お母さん?」
ゆっくりと家に上がる。電気が付いていなかった。
ドアを開けると、お母さんが倒れていた。
「お母さん!?大丈夫?」
お母さんの元へ行く。すると、ゴンッという鈍い音がした。遅れて痛みが来て、私はそのまま意識を失った。
それから私が起きて1番に見たのは知らない男の顔だった。
「あなたたち、誰?なんでここにいるの?」
この人たちがお母さんを?お母さんは無事なのだろうか。私たちをどうするつもりなのだろうか。
「俺はノブレールで、こっちがダニール。なんでここにいるかっていえば、お前を仲間に引き込むためだ。」
「仲間に?」
「うん、俺たちは強盗団。その仲間に入ってもらえないかなって。ちなみに俺もノブレールも他属性持ち。もう1人くらい他属性持ちがほしいなと思って探しに来たら、君を見つけたんだ。どう?入らない?」
「入るわけない」
「そっかぁ、じゃあ君のお母さんの命はないね。」
「え?」
ダニールと名乗った男は部屋の外にいたお母さんを運んできた。
「実は、さっきまで君のお母さんに爆弾を埋め込んでいたんだ。ああ、心配しないで。人体に害はないし、このボタンを押さない限りは爆発しないから。ただね、このボタンを押したら1秒のタイムロスもなくどかーんだよ?お母さんの命は俺らが握ってるんだ。そのことをよーく考えてもう一度入るか入らないか決めてね。」
いやだ。入るもんか。悪い奴らの仲間になんかならない。大体本当に埋め込まれてるのかどうかもわからないじゃないか。
でも、もし本当だったら?私が断ったせいで、目の前でお母さんが……
吐き気。急いで近くのゴミ箱を手にし、嗚咽する。痛みにも似た苦味がやってくる。
今ここで麻痺を使って身動きを取れないようにしたらどうだろうか。でも、もし失敗したら?きっと私が何の力を持っているのかなど、全てを把握している。それにこの人たちも他属性を持っていると言っていた。もしかしたらこの人たちは私よりも強いかもしれない。なら、ここは素直に、
「……ります。」
「ん?」
「私は、お母さんのためにあなたたちの仲間に入ります。そしたらお母さんを助けてくれるんですよね?」
「うん、もちろん。ただ、多分名前が広まると思うから、もうこの街には来れないね。お母さんにも会えない。君が君として生きることは不可能かな」
「そんな……」
なんで?なんで私がこんな目に遭わないといけないの?涙が溢れてくる。
なんだろう。私が悪いのかな?
私が状態属性なんか持ったらいけなかったのかな?
生意気に断罪者なんか目指したらいけなかったのかな?
私なんて、生まれてこなければよかったのかな?
「うあぁァァァァァァァァッ!」
こんなに絶望というものを感じたこと無かった。望みが絶たれる。そんなもんじゃなかった。全てを失ったような。そんな気がした。
どれくらい経っただろうか。もう涙も流し尽くし、感情が少しだけ落ち着いて来た。顔を上げる。
「ッ!?」
目の前の男− ダニールとノブレールは興奮していた。私の絶望を見て喜んでいた。
ああ、コイツらはやばい。本物の「悪」なんだ。
「で、どうすんだ?」
ノブレールがボタンに手をかける。
私は力無く首を振ることしかできない。
「じゃあ、俺たちと一緒に強盗してくれるかな?」
怖かった。ただ、ここから逃げ出したかった。消えてなくなりたかった。もう、なんでもいい。私に未来なんてないんだ。
涙は流れてこなかった。ただ込み上げてくるのは力無い笑いだった。
私は強盗団としてダニールたちの仲間となった。
強盗をした時も、誤って人を殺してしまった時も、それを見てダニールたちが興奮しているのを見た時も、何にも感じなかった。隅に追いやった人間の心が痛む気がしたが、それは無視をした。もう、私は私ではなくなっていた。私は機械と化していた。