女神降臨
「チート能力返して。ああ、ここは人目があるね。ちょっと移動しよう。」
ミネルが指を鳴らすと、山に移動した。
「チート能力を返すって……ちょっと、どういうことですか?」
「どういうことも何も、チート能力返してっていう意味。いやぁ、あの後君にチート能力授けたことバレちゃってさぁ。」
うん、まあバレるでしょうね。
「で、それが世界のバランスを壊す行為だって重大犯罪になっちゃって〜、今すぐチート能力返してもらってこい。さもないとお前を女神解雇とする!みたいなこと言われたのよ。さすがの私も女神の仕事を人質に取られちゃぁ逆らえなくってね。だからチート能力返して。」
そんな無責任な。忙しいからテキトーにチートを生み出したのはそっちじゃないか。
俺の頭の中がミネルへの文句で満たされる。
最初は半分諦め気味に言ったことだし、この世界に来たばっかりならチート能力くらい渡してもいいと思ったかもしれない。けれど、Sランク断罪者になり、ニーシュにめちゃめちゃ期待された今、「チート能力返したんでやっぱり断罪者できませーん」はない。
「いやです。チート能力は返せません。」
迷惑だろう。ミネルからしたらワガママかもしれない。というかワガママだろう。だけど、俺からしたらミネルも十分ワガママだ。
「えー、クルトくんなら返してくれるかもと思ったのになぁ。んじゃあ仕方ないか。私、話合いの方が好きなんだけど。力ずくで返してもらうよっ!」
ミネルは手のひらをパンッと小気味良い音を立てて合わせる。
「神の束縛」
ミネルの背後から光が溢れ出す。光の手が俺を襲う。
「闇域」
俺を襲う光の手が闇域内に入った途端に消滅する。闇域から逃げた1本の手が近くの木に当たった。その木は栄養を吸い取られて枯れていった。
背中がゾォ〜とする。もしあの手に当たっていたらどうなっていたのだろうか。チート能力だけ吸われたのだろうか。それとも命もろとも吸われたのだろうか。
「うーん、闇域か。この世界に来てすぐ魔法を使いこなすとはねぇ。じゃあ、神の言葉。」
今度はなんだ。俺は闇域に重ねて植物の加護を発動させる。
ミネルが手のひらをこちらに突き出す。来るっ……
「じゃー、チート能力返して」
え?いや、渡さないっt
その瞬間、俺の脳が揺れた。意識が飛びそうになる。頭にモヤがかかったような不思議な感じがする。
「は、い。ミ、ネル、様。」
思ってもいないことが口から出る。足が勝手に前へと進む。
あー、なるほど。相手を自分の言葉通りにできる魔法か。
俺はふわふわとした頭で勝手に進んでいく足を止めようとする。足が一瞬止まった後、また進み出した。
どうする?どうする?足を一瞬止めて、また進ませる。これを繰り返して1秒でも時間を稼ぐ。
「うん、そうそう。もうちょっとこっちおいで。」
ミネルが笑顔で手招きをする。その瞬間、俺の頭にかかっていたモヤが晴れる。意識がはっきりとし、足が止まる。
いまだ!俺はミネルから瞬間移動で逃げようとする。
「瞬間移動!ニーシュの所へ」
「あっ、コラ!逃げないの!決闘場」
逃げられない。瞬間移動が使えない。
「へへ、決闘場からは逃げようとしても逃げられないわよ。私は戦いの途中で逃げる奴はキライだから、この魔法気に入ってるの。」
ミネルが得意げに話す。
「それにしても、神の言葉の効き目がたった2分で切れるなんて。植物の加護かな?んじゃもう一回、神の言葉。チート能力返して。って、わぁ!」
もう一度植物の加護を使い、神の言葉を使われる寸前に爆炎を放った。また俺の頭にモヤがかかり、足が勝手に進み出す。ミネルが爆炎の中にのまれた。どうだ?勝てたか?
少しの希望を持つ。が、爆炎から無傷で出てきたミネルを見た瞬間、その希望は消えていった。
「すごい攻撃だね。さすが。だけど、君の攻撃は神である私には効かないのよ。」
ミネルは舌をかわいくチョロっと出してゴメンネと言う。
ミネルの言い方からすると、きっと植物の加護をしてる時は神の言葉は2分しか続かない。つまり、2分後に効果は切れ、俺は一瞬自由となる。だけど、自由になったところで何をすれば良い?逃げる?逃げられない。攻撃する?効かない。神にも効く攻撃があればいいのに。
無ければ作れば良い。
そんな言葉を思い出す。そうだ。創造で神にも効く攻撃、作れるのか?
神破り 威力4
これを使うと、3分間神の特別攻撃が効かない。そして、神にも攻撃が通る。
作れる!だけど、威力4だから、×1000で4000も生命力がいるのか。生命力を上限以上に増やせる方法……あっ、あれがあるじゃん。
2分が経ち、俺は自由になる。すかさず植物の加護を唱え、そして、闇玉を唱えた。
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
あちこちに唱えまくる。周りの木に当たり、闇玉が生命力を吸う。
「ん?何やってるの?木に攻撃したって何にもならないよ?」
よし、ミネルはまだこちらの作戦に気付いてないらしい。
「じゃ、爆炎、凍結、木縄!」
ミネルが連続で攻撃魔法を発動させる。まずは爆炎には水盾、凍結と木縄には火玉を使って相殺した。
続いて鋭利、氷雨、睡眠。防いでいくが、ちょっと魔法のスピードが上がっている気がする。
生命力 3000/2000
生命力 3500/2000
早く4000になってくれ!
生命力 3900/200
ミネルの鋭利が俺の腹に刺さる。
生命力 3700/2000
生命力 3900/2000
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
「闇玉」
追加でもう5発打つ。
生命力 4000/2000
来た!そう思って創造を使おうとするが、よく考えたら4000ちょうどになった時に使ったら生命力が0になる。4500まで待つか。
生命力 4100/2000
生命力 4300/2000
生命力 4500/2000
「創造、神破りを作りたい!」
神破り 威力4 消費mp5000
これを使うと、3分間神の特別攻撃が効かない。そして、神にも攻撃が通る
「神破り」
「だから、私には効かないって。」
ミネルが光で包み込まれる。
「爆炎、ついでに氷雨」
ミネルは自分には攻撃が効かないと思っているため、避けない。爆炎と氷雨がミネルに直撃し、爆発音がする。
煙と炎が消え、倒れているミネルの姿が見える。ミネルがゆっくりと立ち上がろうとする。が、また倒れ込む。
「ハハ、すごいね。ホントに君は。3万もある私の生命力をこんなに削るなんて。」
生命力3万!?さすが神。
「いいよ。私の負け。チート能力は返してもらわなくてオッケー。」
俺は全身から力が抜け、へたり込む。よかった〜。でも、
「女神の仕事はどうするんですか?」
「辞めるよ。代わりにこの世界でクルト君といる。君も神と一緒って心強いでしょ?」
ミネルがウインクをする。
こうして、俺の仲間第一号は女神となった。
https://ncode.syosetu.com/n2665ib/5/ で呪文の確認ができます。