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満月に狂う君と  作者: 川端睦月
あの夜の真相 —瑞樹side—
20/61

19


「いえ、ちょっと、説明が足りませんでした」


 場の空気を敏感に感じ取った藤田が咳払いをして、続けた。


「大道は、由佳さんのお父さん、つまり対馬教授ですね。……その対馬教授の教室で、助手を務めていたんです。

 それが七年前、あの火災で対馬教授が亡くなると代わって大道が教授に任命されたんです。

元々、凄く出来る人だったんで、いずれは教授にと言われていましたが、流石にあの歳で、というのは異例の事態でして……。色々と噂が流れたんです」

「噂というのは?」

「火事を起こしたのは大道だったとか。大学のお偉いさんに命令されてやったんだとか。教授になったのはその報酬だとか。由佳さんと付き合ったのも出世が目的だったとか。──色々です」

「そうですか。しかし、それは単なる噂にしかすぎませんよね。特に火災の件については、事故だったと証明されているわけですから」

「それはそうですけど……」


 葛西の指摘に、藤田は不満そうだ。


「だけど、大道は教授が亡くなってすぐに由佳さんと別れたんですよ。由佳さんが、一番支えを必要としていた時期に」


 結局、藤田の言いたいところは、そこなのだろう。父親を亡くしたばかりの由佳を捨てた大道の不義理が許せない、ということだ。


「なるほど。糸原さんはどう思われますか?」


 一通り、藤田の主張を聞いた葛西が、糸原に意見を求めた。


 そうですね、と糸原は首を捻った。


「外野から見たら、そう見えたのかもしれませんが……」


 実際の大道の人となりを知らない藤田が、噂話を真実のように話しているのが癪に障った。暗に嫌味っぽい物言いになる。


 藤田は申し訳なさそうに、身体を縮こませた。


「少なくとも、大道は本気で妻のことを好きだったと思いますよ。実際、結婚まで考えていたようですし。

 対馬教授のことだって、とても慕っていて……。だからこそ、教授の元で研究していたわけで。

 教授が亡くなった後、通夜で奴と会いましたが、ひどく憔悴していたのが、今でも印象的です」


 なるほど、と葛西が頷いた。


「大道さんは面白い方ですね。見る人によって、ここまで真逆の印象になるとは……」


 とても興味を惹かれたようだ。


「そうですね。大道はぶっきらぼうだから、誤解されやすいんです。付き合ってみると、人情深くて、温かい奴なんですが」

「それはそれは。……ということは、今でも大道さんとは交流があるのでしょうか?」

「いえ、今は全くないです。大学卒業と同時に進路が別れて。お互い、新しい環境になれるのに手いっぱいで、次第に疎遠になっていきました」

「では、最後に大道さんとお会いしたのは、対馬教授のお通夜で、ということになりますか?」

「ええ、そうですね。もう七年は会ってません」

「それは、奥様も同じですか?」


 それはどういう意味かと思ったが、聞くのはやめた。


「妻も大道と別れた後は会ってないと思います。大道自身がはっきりした性格なので。一かゼロ、人間関係で言うと、好きか嫌いしかないんです。一度嫌いになったら、二度と会わないと思いますよ」


「嫌いになっていれば、ですよね」と葛西は意味深なことを呟いた。


「どういう意味ですか?」


 今度こそ、糸原は確かめた。


「いえ、特には。……それより、大道さんは、笹本さんと面識があったのでしょうか?」


 が、葛西があからさまに話題を変えたので、肩透かしを食う形になった。


 糸原はため息をつき、話を続けた。


「もしかしたら、由佳を通じて面識があったかもしれません。由佳は部長と身内同然の関係でしたから。大道との結婚を考えていたとすれば、紹介している可能性はあると思います」


「そうかもしれませんね」と葛西は同意した。


「もし、そうだとすると、大道さんは今回の事件にも七年前の火災にも関わりがあることになります。大道さんと付き合っていた奥様も何かしら関わりがあるのかもしれません」


 確かに、瑞樹の言う『知らないおじさん』が大道だった場合、その可能性は高いだろう。しかし、確証はない。


「少し、想像が豊か過ぎませんか? 妻が事件に関わっているなんて……」


 呆れて、非難じみた言い方になる。それに瑞樹が「そうだよ」と加勢した。


「由佳ちゃんは違うよっ」


 先程までの瑞樹とは違う、とても強い口調に違和感を感じて、顔を覗き込む。


 瑞樹は、クリクリッとした大きな目をますます大きく見開いて、ギロリと葛西を睨んでいた。あまりに大きく見開き過ぎたのか、目が血走っている。


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