一応第2王子の婚約者ですが、物語はもう終わりのようです。
「エルティング王国第2王子、アルノード・ロイ=エルティングはセラフィーナ・ロレンツィ辺境伯令嬢との婚約を破棄する!」
私の婚約者であるはずの第2王子、アルノードは学園主催のパーティの真っ只中で私へ声を叩きつけた。因みに傍らには服や髪や印象が全体的にふわふわな女子が抱きついている。誰?
勿論会場はアルノードの宣言で凍りつき、視線は私達へ降り注がれる。…もう、帰りたい。だが、このカチコチの空気の中を退散するのは難しそうな為、頭を抱えたいのを抑えて淑女然として質問する。
「…理由をお聞きしても、よろしいかしら?」
「決まっている。王子の婚約者という立場に胡座をかいて弁えた行動を行わず、その上くだらぬ嫉妬に身を焦がしてユミアをいじめ抜いたからだ!」
「ユミア…ああ、妙に王子の周りをうろちょ……彷徨いていたという平民の方ですか。よく耳にしていた名前ですね」
「口を慎め!貴様の節穴にはたかが平民としか見えていないのだろうが、ユミアは紛れもなく聖女だ!さあ、ユミア。皆に力を見せておくれ」
「はい、アルノード様!」
そうしてアルノード・ロイ=エルティングにくっついていたふわふわ、失礼。ユミアさんという方が祈る仕草を行うと、会場の空間をぼんやり漂っていた光の玉__精霊が強く輝きだし、様々な彩りを見せ始めた。
「どうだ、これが聖女の力!祈りによって精霊がより強い力を発揮できるようになったのだ。野蛮人の貴様には想像もつくまい!」
「野蛮人?初耳なのですが」
「ふん、とぼけても無駄だ。戦闘、生産、生活……あらゆることに精霊の力を借りることは常識であり当然の技能。しかし貴様達は一族ともろくに精霊の力を借りることができず、屋敷では井戸や松明を使っている原始的な生活なのは既に調べがついている。辺鄙な場所で捜査出来ないだろうとタカをくくって貴族の振りを続けるつもりだったのだろうが、残念だったな?」
「……はあ、なるほど」
「さあ、セラフィーナ。貴様には退場してもらおう。地下牢で己の罪をたっぷり反省するが良い!」
そう宣言されるやいなや第2王子付きの騎士達が私を取り囲み、自分たちの歩みに巻き込む形で連行しようとしてくる。手っ取り早く掴んで移動させないのは、下手人扱いとはいえ自分から女性に触れるのは良くないと考えているからだろうか?通り抜けようとすれば勝手に開いてしまいそうな包囲網ではあるが、こちらは別に抵抗するつもりは無いので大人しく移動することにした。
歩く途中でふと、この騒動を引き起こした人達へ視線を向けてみる。そこには愛する自分だけの聖女様を抱き締めて御満悦な第2王子と、私だけに向けて勝ち誇った顔を見せるユミアさんとやらが見えた。
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「……ふう」
こうして地下牢に投獄されたが、ほっと私は息をつく。ゴツゴツした石畳に囲まれた暗く湿っぽい場所ではあるが、怪物退治の英雄ですら一瞬で石になりかねない視線達を向けられるあの空間よりは100倍マシな為だ。それにこの空間に一生いる訳では無いと確信しているので、未知の体験として不思議とワクワクともしていた。
「お嬢様、お待たせ致しまし……。いえ、全く待っていませんでしたね」
ワクワクが高じて1人しりとり、更には石畳の阿弥陀まで楽しく行っていたところで迎えの声がかけられた。あっ、これはさすがに恥ずかしい。恥ずかしいが、ここで逃避を始めようとしても恥の上塗りとなってしまうため、観念して姿勢を正すことにした。
「いいえ、ちゃんと待っていたわよ。それで、どうなったの?」
「婚約破棄は第2王子側に責があるという形で問題なく受理されました。そして、第2王子達は国王様の勅令により離島へ遠征…という名目で学園を離れることとなります」
「そうよねー……」
「ええ。国王様と旦那様は大層御立腹でしたよ。あの第2王子と聖女サマは最後まで気づくことはなかったようでしたが」
正直に言うと、元婚約者は幾つもの勘違いをしていた。
1つ、私と自称聖女様はイジメどころか挨拶すらろくに無かった間柄であること。
自らの人脈を広げる為に将来性のある人達を中心に交流を行うことはあるが、その中にユミアという名前の人物は一欠片も存在していない。
【身分の高い者から先に挨拶する】【貴族寮へ平民が、平民寮へ貴族が入ってはいけない】等の当たり前なルールが学園から説明されたその日からずっと「ここでは身分は関係ない」「皆平等」と貴族達へ鳴いていた平民寮のふわふわならいた気がするが、きっとそれは関係ないだろう。
2つ、私は嫉妬を行う程元婚約者を好きでは無く、政略結婚だと捉えていたこと。
元婚約者は学園での成績は優秀ではあったが、能力以上にプライドが高く、私が彼よりも上の成績になった時には必ず「婚約者の顔を立てることすら出来ないのか。身の程を弁えろ」と生徒から見えないところでなじっていた。
そんな男を好きになる人というのは、余っ程顔と地位が魅力的に見えたか、なじられるのが喜びになるかだろうか。もちろん私はどちらでもない。
3つ、精霊の力は頼りすぎてはいけないものであること。
精霊は私達と同じく生きているものであるので、力を使うと疲弊して力が弱まってしまい、それでも使い過ぎると100年単位で力を発揮できなくなると最近分かってきた。
なので国王様や一部の貴族は秘密裏で精霊に頼りすぎない生活へ移行する為の方法を模索しており、その内の1つとして、屋敷にて全く精霊を使わない生活を試行していたのがロレンツィ辺境伯__私の実家である。つまり元婚約者にとって原始的に見えた生活は、国にとって重要な課題に取り組んでいた結果なのだ。
おまけにもう1つ、聖女の力として披露された精霊達の輝きは別に力が強化されたからでは無いこと。
あれは彼女が精霊達の力をただきらきら光らせる為だけに使ったから起きた現象である。はっきり言って、無意味どころか無駄遣い。
それなのに元婚約者がああ言ったのは、多分あんなに煌びやかな現象が無意味だとはとても思えなかったのと、自分が魅了された女が本物の聖女伝説を元として根拠も無く語ったことを鵜呑みにしたからだろうか。
もしこれらの勘違いをどれか1つでも正しく把握していたら、家同士の間で決められた婚約者へ向けて虚言を吐いた平民を娶る為、一方的な婚約破棄を突きつける。そんな生家へ泥を塗るトンデモ行為など起こさなかっただろうと思いたい。まあ、そんなもしもはもう無くなかったからこそ思ってしまうことではあるが。
「さあ、お嬢様。貴女には辺境伯に相応しい人間となる為、学園へ戻る必要がございます。物珍しい環境での遊びはもう満足したでしょう?」
これから元婚約者は自覚していない汚名を雪ぐ為、聖女を名乗る恋人の力を頼りに離島を開拓することになるのだろう。
何れ精霊の力は借りられなくなり、水1杯や明かり1つの確保にすら苦労し、どこに潜んでいるか分からない外敵へ怯えることになる日々。それは何年後に終わるのか、そもそも終わりがあるものなのか。私には分からないし、知ることはないだろう。何せ精霊を介するもの以外、離島からの連絡手段は用意されていないのだから。
「ええ、そうね。頑張るわ」
なので、王子と聖女の笑劇はもうおしまい。これから始まるのは貴族令嬢によるありふれた学園生活だ。
…………その後。個性溢れる人物達との全然ありふれていない学園生活が何故か始まるのだが、それは解放感に満ちている今の私はまだ知らない。




