なんだかえっちな食事
この雑居ビルの地下に、女の子と一緒にカットフルーツが食べられる店があると聞いてやってきた。
まさしく僕の需要にドンピシャだった。美女に食べさせるものはあくまで『カットフルーツ』じゃないと駄目なのだ。剥いただけのバナナとか、そんな安直すぎるものは論外。その点、この店は分かっている。
空のタッパーを持参して、僕は意気揚々と入り口のドアを開けた。リンカちゃんという、長い黒髪が素敵なモデルみたいな子がついてくれるらしい。大当たりだ。
お触りは勿論、それ以上の接触は一切禁止。本当にただカットフルーツを食べてもらうだけの店だ。
「じゃあ早速持ってきますね」
背を向けたリンカちゃんに、僕は慌ててカバンの中から大事なものを取り出した。
「あ、ちょっと待ってください。フルーツはこのタッパーに入れて持ってきてもらえませんか」
「…………分かりました」
腑に落ちていなさそうな美女。別に分からないままでいい。高級な器に盛りつけられるより、ああいう普段使いのタッパーに入れて持ってくるほうが家庭的でエロく見えるという理由。それだけだ。
約束通り、リンカちゃんは注文したカットパインやカットメロンを僕のタッパーに入れて持って来てくれた。食べるのに使ってもらうのは勿論、銀のフォークだ。ここは譲れない。
タッパーがテーブルの真ん中に置かれたが、一向にフォークを手に取らない僕を見てリンカちゃんは更に不審に思ったようだ。
「スズキさんは食べないんですか?」
この店は美女とカットフルーツを食べ合いっこできるオプションなどもあるらしいが、僕にそんなものは必要なかった。僕にとって美女とカットフルーツとは芸術の域に属するものであり、そこに立ち入るような不躾な真似などしたくなかったのだ。
「僕は一切食べないので。リンカちゃん、タッパーを手に持って、僕の目の前で見せつけるように、しかし過剰演出になりすぎないようカットフルーツを食べ続けてください。時間は90分コースを希望します」
「えっ、えっ? わ、分かりました。やってみます……」
大真面目に腕組みをする僕の目の前で、さらに困惑しているリンカちゃんの挑戦が始まった。
神妙な手つきで銀のフォークを手にとるリンカちゃん。彼女の白い肌には銀がよく映える。
最初に目をつけたのは、扇形にカットされたパインだった。優しくフォークで刺し、口元まで持っていって…………。パインの形に沿って柔らかな唇を沿わせ……。食べる。口の周りについた甘い汁を、これまた軟そうな舌で絡め取っている。ああ最高だ。やはり僕は食べる瞬間が好きらしい。
「じゃあ、メロン、行きますね」
その声には未だに緊張が滲んでいる。パインよりも若干汁気が多いため、食べる瞬間に汁をすする音も一緒に聴けると期待する。
フォークで捕まえたメロンを口元まで運んで、今度はリンカちゃんの口がメロンを優しく捕らえる。その時、案の定メロンの汁気が口から伝い落ちそうになる。
「あっ!」
リンカちゃんは咄嗟に汁を大きくすすって事なきを得た。射精にも勝る快感が僕の全身を貫いていた。
「そう! そうそうそうそれですよ! 素晴らしいねリンカちゃん!」
「えっ、えっ?」
もはや泣きそうになっているが、僕の興奮は止まらない。
「その口に入れる瞬間の『ジュルルル』って唾液と一緒に汁をすする音。控えめに言って最高です。メロンをあと10切れ分追加注文するので、ぜひそれは積極的にやってください」
「分かりました……」
リンカちゃんが一瞬タイマーの方を見たのを僕は見逃さなかった。イレギュラーな客に捕まって、一刻も早く解放されたいのだろう。だが今は僕が買った時間。僕の言うとおりにしてもらう。
やがて汁気たっぷりのメロンにも飽きてきた。ああいうのはたまにやるからいいのだと気づいた。代わって真四角なカットマンゴーを口にしてもらう。緊張とプレッシャーで湿り気を含んだ唇。そして小さなお口で大きいマンゴーを頑張って捕らえる様は、エロティックの頂点に君臨する。
「舌を出して、僕に見せつけるようにマンゴーを舐め回して」
「はい…………」
現場監督さながらの僕の指示に、リンカちゃんは苺ミルクのように綺麗な舌をつかって、健気に応えてくれている。
「あの、まだ、ですか……」
「まだ」
「はい…………」
そのまま10分ほど焦らしてからOKの合図を出した。
「待って。できるだけ口を開けすぎないようにして食べて。その方がエロいから」
彼女は見事に要求に応えてみせた。
「素晴らしい! 素晴らしい素晴らしい素晴らしい! 君は絶対ナンバーワンになる女の子だ」
だが次のカットパインを加えたまま僕に迫ってきたので、一気に冷めた。口移しか。
「あ、そういうのいらないんで」
総合評価としては、大満足の90分間であった。フルーツ代含めて5〜6万くらいだったろうか。そこら辺はよく覚えていない。マイタッパーを洗って、今月中にはまた来ようと思う。
「ほーんと男って馬鹿ね」と女性に思わせたら勝ちです。