見ていて気持ちのいい食事
「なぁみんな、ダンカツ食って帰ろーぜ!」
「いいねいいね」
「さんせー」
この学校の近くに、爆弾カツ丼(略してダンカツ)で有名な定食屋がある。文句のつけようがないボリューム満天のカツ丼だが、毎週水曜日に学生証を提示すれば450円で食べられるというのだから驚きだ。部活帰りの運動部員たちには特に人気がある。
「おばちゃんこんばんはー」
汁やら何やらが染み込んだ木製の床をギシギシ踏みながら、野球部員たちがやってきた。お世辞にも、そこまで広い店内ではない。だがかえってそれがいいと、ここにいる客の誰しもが思っている。
「こんばんは。みんな遅くまで練習お疲れさま。みんなダンカツ?」
「はーーい!」
9人分の男臭い返事が重なった。
部員たちの前に次々と爆弾カツ丼が並べられていく。茶碗2.5杯分の白飯に乗せられた6切れのカツ。黄身と白身が絶妙にマーブルした卵でとじられ、照明に照らされて光を放っている。ほくほくの湯気と共に出汁の香りが漂ってくるものだから、もう我慢できない。
「いただきまぁす!」
カツ丼を手に入れた男たちの空間は、もはや無法地帯だ。普段はくだらないお喋りが絶えない野球部員たちも、今は各々のカツ丼に真剣に向き合っている。玉子の島を切り崩し、微妙に出汁の染みこんだ白米やカツと共に一気にかきこむ。そして、肉の深みと甘い出汁を感じながらゆっくりと咀嚼して味わうのだ。玉子に絡められている玉ねぎも、また別の甘さと旨みを引き出していて良いアクセントになっている。かきこんでも、かきこんでも欲求と箸が止まらない。幸せが止まらない。
やがて野球部全員の口が満たされ、胃が満たされ、さらにその温かみで心が満たされていく。
「ごちそうさまでした!」
ご褒美に美味いものが待っているから、人はいつだって頑張れる。