プロローグ〜俺の名前は信長ユキヒロ〜
これから20話はとりあえず頑張って投稿します。
沢山のご意見お願いいたします。
俺は470年前にこの世界を苦しめていた魔王を討ち滅ぼした。
俺は大国ヘラーレ王国で英雄と崇められ、あらゆる名声を獲得した。
富・権力・名声・女、この世のありとあらゆるものを手に入れた。
普通の高校生だった俺はトラックに轢かれ死んだ。そこから異世界に転生された。
自分の天職が勇者だと知ったときには驚きと興奮で3日間は寝ることが出来なかった。
10歳で国王に命じられて冒険に出発し、そこから20年という月日の修行と冒険を経験し、最高の仲間に巡り会えた。
最愛の妻ともその冒険を通じて出会えた。もちろん沢山のピンチもあったし、本当に全滅しそうになって、大人になってから初めておむらしをしたこともあった。
本当に大切な仲間を失ったこともある。何もかもが上手く行ったなんて思っていない。
今でも冒険の中で失った仲間のこと、そして自分が救えなかった沢山の人々のことを思い出す。
ただ、自分が救えた沢山の人々のことも忘れてはいけないと思うし、自分が成し遂げたことには誇りを持っている。
俺はいくら強大な力を手に入れようが、魔王を倒すまで、とにかく謙虚に努力を積み重ねてきた。
仲間も大切にしていた。魔王を倒した後でも俺の周りには沢山の慕ってくれる仲間がいた。
しかし俺は魔王を倒した後、目標を見失っていた。魔王が滅んだこの世界で俺より強い存在なんていなかった。
これ以上強くならなくても、倒せない相手がいない。俺は戦闘の訓練をサボり始めた。
あらゆる人が俺に近寄ってきた。俺は最初からずっと支えてくれた仲間を大事にすることを忘れた。
あらゆる女が俺に言い寄ってきた。俺は最愛の妻を裏切り、あらゆる女を抱いた。
俺は絶大な権力と名声を手に入れた。
自分より弱くとも、その佇まいに、その博識に、そのカリスマ性に畏敬の念を抱いていたはずの国王をその座から降ろした。
自分の言いなりとなる都合のいい王族を次の国王にし、ヘラーレ王国の実権を握った。
栄華を極めた俺は今なおいる貧しい人々の苦しみを忘れた。
人類を害する存在は全て俺が率いる軍が滅ぼした。戦うことが必要じゃなくなった世界で俺は自分の情熱を向ける方向を間違えてしまった。自分が手に入れた富・権力・名声をあらゆる人々に見せつけることに喜びを感じていった。
はっきり言おう、俺は調子に乗った。ものすごく調子に乗った。ヘラーレ王国はメチャクチャになった。
内戦が起き、国力は弱まり、四方八方から隣国が軍を率いて進行してきた。
全盛期の俺なら首都ぐらいなら一人で守れたかもしれないが、俺はとんでもなく弱くなった。
それでも世界最強クラスではあったが、自分ひとり逃げることが精一杯だった。
内戦を起こした軍や、隣国の軍を率いていたのは、俺のかつての仲間達や国外追放した王だった。
いつの間にか俺には味方がいなくなっていた。
俺の富や権力に惹かれただけの人びとはヘラーレ王国の形勢が悪いと判断したやいなや即座に俺を裏切った。
世界中の人々が俺の命を狙ってきた。
俺は逃げた。誰もいないところを探してひたすら逃げた。
いつしか誰もいない森林にあった洞窟の中にたどり着いて、住むようになった。
俺は手に入れたはずの富・権力・名声・女の全てを失った。
「なぜだなぜだなぜだなぜだなぜぇぇぇぇ」
俺は叫んだ。誰もいない真夜中の森林で叫んだ。
誰もそばにいてくれないし、誰も助けてはくれない。
俺は全てを失って、やっと大切にすべき存在を自分で手放してしまったことに気がついた。
俺は泣いた。森林の柔らかな土の上に仰向けに倒れて泣いた。
俺は馬鹿だ。俺が生きる意味は彼らだ。
共に大切な日々を重ねていった彼らと、何気ない日々を日常を過ごすことだ。
しかし、それに気づくのが遅すぎた。もう取り返しのつかないところまで来てしまった。
時を戻す魔法があれば良いのに、そんなガキみたいなことを本気で願った。
そこで暮らすこと450年。人族の平均寿命が80歳といわれるこの世界で、俺のことを覚えてる人はいなくなった。俺は死ねなかった。何度も何度も自分を伝説の聖剣で刺し殺そうとした。沢山の血が流れた。でも死ねなかった。俺は何もかもを失ったあの日、不死身の能力を得てしまった。
神からの天罰というやつだろうか。森の動物に襲わせてみても、炎の中に飛び込んでも、水の中で気絶しても、空の上から飛び降りてみても、ずっと食事を取らなくても死ねなくなった。
俺にとってこの450年は永遠のようだった。永遠に続く地獄だった。
最初の50年は様々な手段で自殺を図った。その結果、完全に死ねないことが分かった。
それからの400年は森の中の洞窟でずー〜っと寝ているだけ。
人間にも動物にも遭遇することもなかった。
俺は何のために生きているのか。なぜこの世界に生かされているのか。
いっそのこと不死身になる前に殺してもらえばよかった。
今、俺は何のために生きているのだろうか。
俺にとって生きる意味だった仲間たちは全員死んだのだろう。
この世界に神がいたとするならば、俺には何か成すべきことが残っているから死なせてもらえないのだろうか。
今の俺は罪悪感やトラウマで人間に近づくことが怖かった。
だからこそ、450年の間、人間の世界に近づくことはしなかった。
しかし、もしかしたら俺を殺せる存在が人間の世界にはいるかもしれない。
俺が裏切ってしまった仲間たちの子孫を助けることで、少しでも罪滅ぼしが出来るかもしれない。
今、この世界がどうなっているかは分からない。未だに人間が怖い。
しかし、俺は行かなくてはならないのだろう。
神が俺にそうしろと言っているような気がするのだ。
俺は400年ぶりに立ち上がり、洞窟から抜け出した。
これは、俺のくだらない人生を終わらせるための旅だ。
はたしてユキヒロはどこへ向かうのか?