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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇九幕 使と笑う者
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第〇九八話

 エンヤさんの愚痴は彼女の体感一週間分では済まないぐらいにネタが満載だった。


 一旦、晩御飯タイムを理由に間を置いて、ついでに商隊キャラバン面々と合流したオリガさん達の様子を確認して、改めて覚悟を決めて深夜から愚痴を聞いて正解だったわ。


 なんやねん。慰安旅行で多元世界の現地集合現地解散って、しかも行ったら行ったで次元階層間違えて誰も居なかったって、そんな死神の福利厚生の話聞きたくなかったわ。


 あと、私が透明な盾<アンチマジックシールド>に干渉出来たのは、体内の魔素が濃くなり過ぎて魔石並みの影響が及ぼされている所為だとか、折角の死神印の鑑定を持ってるのに使わないんですかって文句言われたけど、言い返す間もなく次の話題に行って置いてけぼり状態。東の空が薄っすらと白み始めた頃に、スッキリした顔のエンヤさんに「次はペンタグリムのモンパレ後に!」なんて言って消えていった。


 しれっと最後に爆弾発言っぽいのをポロっと落として行った気もするけれど、それよりもなによりも、やっと解放された安堵感と激しい睡魔で魂を抜かれた様な倦怠感に襲われ、流石に死神なだけは在るなとボヤけた思考でエンヤさんの消えた場所を見ていた。


 私は眠りを欲して少しでもいいから宿で仮眠しようとふら付きながら戻ったら、今度は早朝の鍛錬に起きてきたオリガさんとばったり鉢合わせ。部屋に居なかった事を散々に問い詰められて、しどろもどろに言い訳して、ついでに小一時間ほど鍛錬に付き合わせられてようやく朝御飯タイム。


 眠気で目をショボショボさせながら硬いパンをかじる。顎の噛み噛み運動も億劫な程に、はっきり言って寝不足もいいところ。移動中の幌馬車で爆睡する事を心に決めた瞬間だった。……筈なのだが。


「いやぁ、オリガさんの不沈戦艦て本当だったんですね! シガートさんが撃沈されたところ初めて見ましたよ!!」


 ……おかしい。私は何故サツキさんの話相手をしている? しかも彼は今、力作業をしている所為か、寝不足の頭に響くぐらい声が大きい。つか、それ本人居ないからいいけど、あまり大きな声で言っちゃ駄目なワードぇ。


 いや、理由は判っている。朝食を終えて速攻で幌馬車の荷台に潜り込もうとしたら、昨日、村の集会所で散々飲み食いしていた筈なのに、そんな事を感じさせない風体で、出発準備を終えた商隊面々が勢揃いしていた。


 一部、飲めない者達で昨晩振舞われた食事を片手に、荷車と幌馬車の夜警をしていたらしい。それよりも、この商隊のみんなは二日酔いなんかモノともしない胃袋の魔物でも飼って居るのかと戦慄した。それも一瞬で、よくよく考えたら朝からオリガさんも普通に活動していたから、彼女と同じく飲む前にポーションでも服用していたのだろうと当たりを付けた。


 そんな簡単な事も思いつけないまま、サツキさんに質問をしてしまったが為に、寝るタイミングを逸してしまい今に至る。や、話せば荷台で寝かせてくれるとは思うんだけど、なんかそうも言ってられない気配。


 何故ならば、マスロープ村の在る場所は峠になっている。


 緩やかな坂道とは言え、商隊の荷車、幌馬車の担当者が車輪にブレーキを掛けて、手の空いている者はロープを襷掛たすきがけにして荷台に引っ掛けてスピードを抑えつつ、掛け声を上げながらゆっくりと坂を下っている。


 一歩間違えば、手を離れた荷車や幌馬車が勢い付いて坂道を走り降りていく可能性もある。むしろ昨日のゴブリン戦より気が抜けない作業だと思う。なので私も少しでも幌馬車の重さを軽減する為、先に何かの動物の皮だ付いたつっかえ棒みたいなブレーキで一所懸命にスピードを制御しているサツキさんの横を歩いている。


 大丈夫だとは思うけれど、万が一ブレーキが壊れたり、荷車、幌馬車に乗ったままで暴走状態になったら如何なるんだろうって疑問が湧いたので尋ねてみた。下手しなくても大事故、大惨事待った無しである。


 サツキさん曰く、そうなっても途中で止まる様に、もしくはスピードを減速される様に坂には一定の距離でバンクが付いているそうな。坂道が段々になってるって言うか、降っていったら少し登ってまた降る、を繰り返すみたいな? そんな具合で坂の終わりまで続いているそうだ。それでも駄目な時は巻き込まれない様に離れて見てるしか無いってさ。


 取り敢えず、激しい眠気を誤魔化す為に迷惑かもしれないけれど、仕事中のサツキさんと会話をしている。


 ネタは昨日のキバオウ戦、その後の顛末。


 ゴブリン戦、キバオウ戦と続けて、終いには後始末の作業の話。私達は疲労名目でさっさと村に戻ったからね、大変申し訳なく本当にご苦労様である。


 マスロープ村の開墾地ではキバオウの解体班、ゴブリンの死体回収班、それと破壊されたであろうボア用の罠を確認する為に森に入った班の三つに分かれて作業をしていたらしい。


 結局、解体されたキバオウは大き過ぎて、商隊としては邪魔な荷物になる為、素材になる牙や毛皮を買い取り、それ以外の残りをマスロープ村へ譲渡、干し肉等に加工されるとの事。量が量なのでこっそりと近隣の村にお裾分けするのだとか。


 それとゴブリンの魔石を抜き取った後、商隊が全て買い取ったそうだ。死体はひとまとめにして焼いてその灰を堆肥に混ぜて暫く寝かせるそうだ。直ぐには使えないらしい。


 そして、ボア用の罠を確認する為に森に入った組。これは怪我をしなかった商隊護衛の冒険者達とマスロープ村の男達による混成。


 ボア用の罠はゴブリンとキバオウによって壊されていて、その場所から更に奥でゴブリン達が越冬に使ったと思われる集落跡地を発見、残存ゴブリンの掃討戦を行ったとの事。この時の怪我人も無しで、やはりキバオウさえ出なければ楽勝だったらしい。


 ただ、この集落の元となった建物が如何やら人の手に依って作られた物だったらしく、ゴブリンが台無しにしていたけれど、巧妙に隠蔽が施されていて、所謂いわゆる、盗賊の拠点として使われていた形跡があったのだとか。ゴブリン達は盗賊が居なくなった後、そこを流用して集落を形成していた様だ。


 集落から索敵を広げて幾つかの獣道を辿った所、その一つがケド村とマスロープ村を結ぶ街道に、昨日商隊がゴブリンを補足した場所に繋がっていたそうだ。


 獣道からははっきりと街道が視認出来て、街道からは獣道が殆ど見えない場所。地の利として、獲物を待ち伏せするのに打って付けの場所だったらしい。


 そう言えば、ゲーノイエ伯爵四男レイナード一行がキルマ男爵の居るノーセロの街に向かう途中で盗賊に襲われたって話があったけれど……、ははは、まさかね。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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