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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
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第〇九六話

 私はオリガさん立会いの下、お風呂のお湯を入れ替えた。


 その間、イーサさんがクリスさんを民宿<峠道>の部屋へ運んでくれた。そして現在、オリガさんとイーサさんが、もう直ぐ陽が沈みそうな時間帯なので、暗くなる前にと急いで入浴している。


 戻ってきた時、イーサさんは畏敬の念を籠めた、や、それは私の勘違いだな。とても残念な、が正しいかもしれん、そんな目で私を見ていた。私がニヤリと微笑み返したら視線をらされたから、多分後者だろう。


 イーサさんは相方の様子を見た所為なのか、オリガさんに対する欲情は毒気が抜かれたが如く、洗い場で大人しくオリガさんの世話をしている。これから徐々に暗くなるし、若いのだからもっと冒険してもいいのだよ。


 そんな私は洗い場の外で絶賛暇を持て余している真っ最中だ。


 ふと、キバオウ戦で気になった事案、と言うか事柄を思い出して、目の前にアクリル板やポリカーボネート製の透明な盾をイメージして<アンチマジックシールド>を展開させた。元になった魔素の影響か薄く発光して見える。


 展開させた<アンチマジックシールド>はゴブリンに対して効果が有ったらしく跳ね飛ばす事が出来たけれど、キバオウに対しては四方を囲ったにもかかわらず殆ど効果は認められなかった。一応、風魔法で簡単に倒せたので通常魔法は体内に魔石の有無関係無く影響、効果が発揮されると思われる。


 魔素のみのかたまり。属性無しの魔法、この場合、<アンチマジックシールド>は魔石の有無で効果が違うのであれば、人間に対しては、その効果を発揮するのか? 多分、キバオウ同様にそれ程影響は無いとは思うのだけれど、大変気になるところ。


 私はそっと透明な盾、<アンチマジックシールド>に指先を触れさせる。確かな質感をって感触が伝わってきたので、そのまま手の平を添えてみた。


 透明だけど表面は硬く滑らかで大気温と同じぐらいか。それ程熱は感じられない。少し力を加えて押してみたけれど動く気配が無く、なんとなく空気の塊にでも触れている感覚か。実際は魔素の塊になるのだろうけれど。透明な盾から手を離して、思わず自分の手の平をまじまじと見てしまう。


 再び両手を使って透明な盾に触れる。表面をなぞる様に手の平を左右上下に動かして、そして右手で拳を作って軽く叩いてみる。音はしなかったけれど、明らかにその透明な盾に触れる事が出来ている。


 透明な盾の空間移動させるイメージすると思い通りに移動させる事が出来た。今度はそれに身体の体重を預けた状態でゆっくりと斜めに倒していって、地面スレスレまで持っていってから、再び元の立った状態へ戻してみた。うーん、最後のはアレだけれど、傍目にはパントマイムをやっている様に見えるんじゃないか。


 ……ん、ちょっと待って。ゴブリンは魔物で魔石を持っているから<アンチマジックシールド>が有効だった。そう考えると、私が現状で透明な盾に触れられるって事は、だ。自分の体内に魔石が生まれている可能性有るのか!?


「…………」


 自分の身体が魔物化した可能性を全力で否定するつもりで、今度は透明な盾を地面と水平に膝の高さに設置して上に乗っかってみた。


 ……乗れたよ。座標移動かけてみたら前後左右、そして上下にもスライドした! おおっ、なにこれ楽しい!!


 ……ふう、体内に魔石が精製されていたら如何しよう。って、結石か!? 脳内に閃くものがあった。どこだ、腎臓か? 膀胱か? 確か前世の同僚が超音波震動で破砕して、おしっこする際に茶漉ちゃこしを使って砕けた結石を回収したって話を聞いたな。


 ここは私の絶技・超震動で破砕っ! 出来ないか。いや、あれは石鹸ローション的なぬちゃぬちゃが有って始めて効果が……って、違う、そうじゃない! おしっこする際痛くないから多分大丈夫、きっと大丈夫。根本的に何も解決していないけれど多分大丈夫。俺は人間止めるぞーって石仮面を付けた記憶も無いし、大丈夫。私は人間だ。


 胡坐あぐらを掻いて座っている透明な盾を、屋根の影の辺り、他からは見えなさそうな場所まで上昇させる。オリガさんとイーサさんが入浴しているお風呂から、かすかに聞こえる会話とお湯が跳ねる音を耳にしながら西の、ロンガータ湖の対岸にある山陰やまかげにもう直ぐ隠れ沈みゆく太陽を見る。……現状で不都合がある訳でないし、どうでもいいか。


「先程は随分とお楽しみでしたねぇ。なのに黄昏たそがれるなんてカノンさんらしくないですよ?」


 ……出たよ。我が女神、もとい死神のエンヤさん。何時から見ていた? そんな彼女の表情は逆光の所為でよく見えない。ただ、僅かに残る陽の光で丸い眼鏡を反射させて、相変わらずな黒い服を赤く染めながら屋根の上に立っていた。久しぶりに合えたし、折角なので甘えてみよう。


「……エンヤさん、どうやら私は、魔物になったようです」

「あれ、少し前に言いませんでしたっけ? カノンさんに、このまま続けると成人時に魔王クラスの魔力の持ち主になりますよって」

「……それって確か私が三つか四つくらいの事じゃないですかね。少し前って、もう七、八年経ってますよ」

「えー、そんななりましたっけ? まだ一週間ぐらいかと思ってました」


 ……くっ、流石、既知外の存在である我が女神。ことわりの外にいる人外にとっては時間の流れなんて有って無い様な物なのか。つか、素で返されたけれど、魔王ってそう言った意味合いだったのか? ……まさか、嘘だろう。


「そう云えばカノンさん、ウチの上司からこくられたそうじゃないですか。確かペンタグリムが云々って……」


 ウチの上司って言うと、あの糸目の死神か。開拓村からノーセロの街に向かう途中だったか。しかし、そのコクられたって言い方よ。魔物や魔王の話はスルーですかね。まぁ、いいや。タイミング的に今回は業務連絡かなんかで来たんだろうし、甘えるのはまた今度にして話を合わせるか。


「イヨムロに向かう途中に寄るペンタグリムでちょっとした災害が発生するので注意して下さい。だったかな」

「そそ、それですよ、それ」


 推測になるけれど、災害は人的被害に及ぶものと思われる。これを上手く乗り越えられれば、対価として災害終了後にエンヤさんから転移魔法を教えて貰える事になっている……筈。きちんと連絡は受けているのかな?


「上司にはお前しか適任者が居ないんだって言われて、私としても観察官拝命は嬉しかったんですが、観察対象を確認したらまたカノンさんで、どうやらいまだに担当から外して貰えないんですよ。罰ゲームですか、これ。私上司に対する愚痴以外で何か悪い事しましたっけ? 大変に不本意で遺憾砲百二十パーセント充填完了、何時でも発射可能なんですが。上司命令は絶対なので、暴発は押さえて、観察官最初の任務として仕方無く、今回もまた下請けに当たるカノンさんへ渋々挨拶に伺いました。あ、名刺は既に渡してありましたね。今直ぐに返してくれてもいいんですよ?」


 エンヤさんの凄く不満そうで長文な言い分に、私は胡坐を掻いていた状態から体育座りに変形して膝に顔をうずめて、涙目になりながらちょっとへこんでしまった。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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