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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
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第〇九四話

 オリガさんとの話も終わり、馬車の外に出るとクリスさんとイーサさんが大きなたらいと大樽を準備して待っていた。確かにノーセロの騎士団宿舎でお湯の用意をしていたけれど、まさか旅先でも所望されるとは思わなかった。


 まぁ、実際の所、服やら装備品、身体が汚れているので、女子として綺麗にしたい気持ちは判りますがね。私としてもお湯を用意するのはやぶさかでも無いので、クリスさんとイーサさんには入浴する為の洗い場の確保に動いて貰う事になった。


 決して私の後ろに立って肩を掴んで「当然お湯を準備してくれるんだよな」って念話を送ってくるオリガさんのプレッシャーに押し負けたからではない。そのオリガさんは、マスロープ村の開墾地で作業中の商隊キャラバン隊長シガート氏に連絡を入れる為、この場を離れている。


 当然、商隊を組んでの集団行動中なので私達が彼是あれこれと好き勝手する訳にもいかないし、そこはきちんと隊長であるシガート氏に了承を得ておかないとまずいだろうからね。


 そして、オリガさん、クリスさん、イーサさんが動き出す前に、幌馬車の中で汚れている装備品を外して着替えて貰った。私はそれ等を受け取って、三人が行動している間に洗濯をするのだ。


 ちなみに、ノーセロの街でお湯を作っている時にちょっとした思い付きで、水魔法の発動だけでお湯にも氷にも変えられる事を知った時の私の絶望感と言ったら、もうね。魔法で生み出した水を、単純に電子レンジの水分子の震動をイメージしたらお湯に変化してね。逆に水分子の活動を抑える様にイメージしたら冷たくなってね。最終的に氷になりましたわ。


 それまでは魔法で生み出した水を同じく魔法で生み出した炎で一所懸命にあぶってお湯を作っていた苦労が、ちょっとしたイメージであっという間に解決した事に、しばらく表情筋が仕事を忘れていたのはいい思い出。イメージ力って大事だね。


 そんな事を思い出しながら、幌馬車の陰で大きなたらいに水魔法でぬるま湯を生み出して、服は手洗い手もみで汚れを落として洗濯をする。装備品は金属部分は濡らした布で汚れを拭き取り、最後に乾拭からぶき。皮で出来た部分は専用クリームで磨き上げて手入れをする。


 装備品は幌馬車内で陰干し、服も同じく幌中に張った紐にくくり付けて干した。私は馭者ぎょしゃ台に腰掛て、風魔法で暖かく乾いた空気をイメージして後方へ流す。しばらくその体勢で洗濯物に乾かしていると、オリガさんが戻ってきた。


 彼女曰く、開墾地で作業中のシガート氏に連絡を入れたら快諾された模様。むしろお湯の準備が出来るのであれば、自分達にも少し分けて欲しいと言われたそうだ。


 開墾地ではキバオウの解体組、ゴブリンの死体回収組、それと破壊されたであろうボア用の罠を確認する為に森に入った組の三つに分かれて作業をしていたらしいのだけれど、ゴブリン戦、キバオウ戦と続けて、しまいには後始末の作業である。


 服や装備品、身体の汚れを、春のまだ少し肌寒い中、井戸端で洗濯と水浴びするのかと、億劫な気持ちと漠然とした忌避感を抱いていたとの事。水を汲むのはまだしも、お湯を沸かす燃料を用意するのも大変だし、普段よりは多少汚れているだけで、洗い場で身体を拭いたぐらいにしてあとは我慢すれば良いか。なんて考えも周りから出ていたのだとか。


 そこにオリガさんから提案である。つか、何時の間にかオリガさんの無双した力でお湯を用意する事になっていたそうだ。何故か作業中の皆さんは大喜びだったらしい。


 彼女はとても不思議がっていたけれど、前世で女性に縁の無かった私には理解出来る。見目麗しき美人のお姉さんが用意するお湯である。健全な独身男性諸氏だったら喜ばない訳が無い。下手したら自分の為にお湯を用意してくれたんだと、気が有るんだと勘違いした野郎がお付き合いの告白に出てもおかしくない、と断言出来る。


 尚、それに付随して、現場で怪我の治療に当たっていたマチルダ嬢も湯浴みをしたいとの申し出をされたそうだ。旅路では身体を拭くだけの生活だと覚悟をしていた様で、お湯が使えると聞いて速攻で食い付いてきた模様。


 やはり魔法を使えるってのは色んな所でアドバンテージを発揮するのな。お陰で私の仕事が地味に増えてしまったよ。


 そうこうしていると、クリスさんとイーサさんが入浴する場所を確保してきたのだけれど、オリガさんから参加者多数と聞いて、再び会場を探しに出た。ご苦労様である。


 結果、男達の会場はマスロープ村の村長さんの提案で、村の集会所横の共同納屋に決定。共同納屋の近くに井戸が据え付けられているのと、既にゴブリンとキバオウの話が来ていた様で、そのお礼に集会所でささやかながら宴会をもよおしたいとの申し出があった為だ。


 女子は村の民宿<峠道>の横に板で仕切られた洗い場を、普段は共用らしいけれど、今日は貸切で提供して貰ったとか。粗野な野郎達が覗きに来ても民宿の女将おかみさんが追い返してやると右腕に力瘤ちからこぶを作って豪語したのだそうだ。


 早速、私とオリガさんはクリスさんとイーサさんの案内で村の集会所に向かった。


 村長さん一家とお手伝いさんが忙しそうに宴会の準備をしていたので挨拶もそこそこに、納屋の方へ移動した。用意して貰った、一応、水洗いをしているらしい何に使ったか判らない大樽に、水魔法で生み出した少し熱めのお湯をそそいでいく。お湯に浸かるかは判らないけれど、使用時に熱かったら井戸の水で薄めるだろう。


 お湯の準備が終わり、民宿<峠道>に向かおうとしたら、入れ替わりで、宴会の連絡が行っていたのであろうドロドロに汚れたシガート氏を筆頭としたと一行が、お手伝いさんの案内でやってきた。


 見た感じ、先に身体を洗って着替えた方がいいんじゃなかろうか。オリガさんも同じ事を感じたのだろう。さっさとお湯を使って小綺麗になれと言わんばかりに、準備が終えた事と少し熱めなので注意して伝えて、最悪、お湯が足りなくなったら呼んで下さいと付け加えていた。


 それを聞いたシガート氏を始め一緒にやってきた全員が、オリガさんとすれ違う度にお礼を言っていた。彼女は投げ掛けられる感謝の言葉を微妙な顔をして受け取っていた。


 次は民宿<峠道>に行って女子用のお湯の準備だ。そしてキャッキャウフフのお風呂タイムだ。

我が妄想……続き、でした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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