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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
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第〇九一話

 オリガさん主導の下、私は魔法を使ってお手伝いして、放牧地方面に散っていたゴブリン達に対し、魔法にる無双を繰り広げ駆逐して回った。


 私の魔力量がどうなっているかなんて、数値で見る方法がないので判らないけれど、魔力切れに伴う、頭痛や眩暈めまい、気を失う気配がまったって無いのだから、まだまだ余裕があるだろう。


 時折、商隊キャラバンの面々とマスロープ村の男達が集合していた辺りに視線を送ると、彼等はキバオウの足を巻き取る縄がまだ届いていないのか、合間を持て余してこちらの状況をうかがっていた。オリガさんの振るう剣から発現している、様に見える魔法を見ては、両手で口元をおおっていたり、こちらに指を向けて叫んでいたりと、一様に驚いている仕草をしていた。


「ゴブリン共が真っ二つじゃないか!」

「あそこじゃ炎が立ち上がってるぞ!!」

「あの馬持ちの冒険者、やっぱ只者じゃなかった!」

「魔法のギフト持ちか!!」

「オリガさんスゲー! 最高にいい女だ!!」

「いいぞ、もっとやれーっ!!!!」


 等等。中には拳を振りかざし、オリガさんを持ち上げる歓声が、かすかにだけれど、こちらまで届いていた。彼等から少し離れた場所で馬を降りて休憩していたクリスさんとイーサさんが小さくガッツポーズを決めていたのも見えていたりする。


 よしよし、オリガさんを盾にして、私が目立たない作戦はおおむね予定通り。これでいらない面倒事も回避出来るだろう。と、思ったのもここまでだった。


「オーリーガーっ! お前がぁー、グレートボアのー、相手をしろーーーっ!!!」


 シガート氏は遠くでもはっきりと聞こえる声で叫んでいた。両手を大きく振ってグレートボアを倒せと身振り手振りで激しくゼスチャーしている。如何やら現状を見ての御指名らしい。


 ……ですよねー。最初は後方支援として空気を読んでいたつもりだったけれど、ついカッと悪戯心が沸き起こってオリガさん無双の演出に力を入れす過ぎてしまった模様。だが、色々と試せたので後悔はしていない。


 特別褒賞で釣ったとは言え、あの巨体を大人数で簡単に犠牲も出さずに足止めが出来るのか? そして上手く倒せたとして激しい抵抗をするであろうキバオウに対し仲間をおもむかせられるのか? 下手をすると倒せないばかりか、余計な怒りを買って多大な被害を受ける公算が大きい。


 今以いまもっての最大火力を行使出来るであろうオリガさんをぶつけた方が倒せる可能性が高く思うのは、商隊隊長の判断として正しいのかもしれない。


「オリガ様、シガートさんの御指名です。ちゃちゃっとやっちゃって下さい」

「全部、お前の所為だ!!」

「大丈夫、オリガ様なら出来ると、私は信じていますよ!」

「あ、ああ……何故、何故この様な事になった!」


 はい、美人騎士様から如何してこうなった! 頂きました!! ……私に魔法を使わせ様と巻き込んだクセに今更何を言っているんですかねぇ。でもまぁ、ある程度ゴブリンの片も付いた事だし、ここまで来たら最後までお付き合いしますがね。


 オリガさんは馬の手綱を引いてキバオウの方へと転進する。視線の先では相変わらず森の出口付近でゴブリン達を追い掛け回していた。って、立っているゴブリンが殆どいない。……あっ、最後の一体がキバオウの牙を避け切れずに半身潰されて空高く跳ね飛ばされた、南無阿弥陀仏。


 キバオウは最後のゴブリンを蹴散らした後、緊張感が抜けたのか、己の勝った姿を誇示する為なのか、それまでの速度を落としてその場で周回を始めた。このままもう大人しく森に帰ってくれんかな。……なんて、楽しようと思うと物事は悪い方へ転がるんだよなぁ。


 視界の端に映る、商隊の面々やマスロープ村の男達の集団が居る場所がなにやらにぎやかしい。間の悪い事に集落からキバオウの足止めに使う縄を持ってきた男達が合流した様だった。


 そして緩やかに走り回っていたキバオウが動きを止めて騒がしくなった方、商隊の面々やマスロープ村の男達が居る方を興味津々にうかがい見ている。まるで嵐の前の静けさ……って、行ったーーーっ!!


 案の定、キバオウは「フゴッ、フゴォォォーーーっ!!」と雄叫びを上げるとその巨体を大きく揺らして、商隊の面々やマスロープ村の男達の集団を次の標的と定めて、泥を激しく飛ばしながら徐々に速度を上げて走り出した。


 当然、彼等も直ぐにその事に気が付いて、シガート氏も大声で指示を出している。持ってきた縄の両端を数人で抱えさせてを慌しく散開させていた。それに随行した何人かが縄で輪っかを作って手元で器用に回している。……ああ、顎から上向きに生えている牙を狙うつもりなのか。


 シガート氏は左右中央の三つに散開した集団の中央ど真ん中へ陣取っておとこらしく、上着を脱いで闘牛士っぽくキバオウを引き付ける為にあおっているのが見える。


 カウボーイにマタドールかね。でも相手は牛じゃなくてグレートボア、猪なんだよなぁ


 如何やらキバオウは、上着を振りまわして目立っているシガート氏の居る中央集団に狙いを付けた様子だった。オリガさんも懸命に馬を走らせているけれど、無双していた放牧地から距離が遠い分、先にキバオウの方がシガート氏の居る中央の集団へ接敵を果たしそうだ。


 そして間も無く、左右に展開した集団はタイミングを測っていたのか、中央に向かっていたキバオウの足元に上手く縄を引いた。同時に両方から幾つかの投げ縄が放たれ、その内の一つが下顎から突き出た牙に引っ掛かった。が、キバオウの勢いは殺せずに、むしろ足と牙に引っ掛けた縄にって左右の男達は簡単に引きずり倒されてしまった。……怪我人が居なければいいのだけれど。


 最初の登場時のゴブリンみたいに引きられた者は居なかったけれど、キバオウの勢いはそのままにシガート氏が居る中央集団に向かって突っ込んでいった。


 接敵する直前、シガート氏は目眩めくらましの為か、キバオウの顔面目掛けて振り回していた上着を投げ付けていた。キバオウの勢いはそのままだったので大した障害にならなかったようだけれど、目眩ましの効果は十分に有ったらしく、キバオウは目標を見失って中央集団の真ん中を突き抜けていった。シガート氏と男達は左右二手に分かれて上手くそれを回避していた。


 キバオウが再び彼等に襲い掛かろうと大きく旋回を始めた所で、運悪く前足に絡まった縄を後ろ足で踏んだのか、勢いそのままに不恰好な前のめり状態になって、鼻っ面から己の顔面を削る様に、牙で畑を掘り起こす様に、地響きを上げながら地面をえぐって二度三度と転がった。


 キバオウが盛大に自爆した。

読んで頂き有り難うございます。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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