第〇九〇話
―――――悲報。
如何やら私はオリガさんに残存ゴブリンの掃討要員に組み込まれた模様。つか、二人だけなのだけれど、如何してこうなった?
放牧地に散らばっているゴブリンに向けて疾走する馬上にて、オリガさんから掻い摘んで、移動法台としてゴブリンの殲滅に協力して欲しいと言われた。
それこそ「キルマ男爵邸の時みたいな魔法行使なら尚よし」と要請された。そう云った意味でさっきの言葉「腕は鈍って、ないよな?」だったらしい。
別に魔法行使するのは吝かではないのだけれど、率先して攻撃魔法を使わず、且つ、以前、魔法行使は平和利用の為と言っていた事が彼女の中で引っ掛かっていたそうで、私が攻撃魔法を忌避していると思っているらしい。
心情的に魔法を行使して目立つのが嫌。目撃者から奇異な目で見られるのが嫌。と云う精神的抵抗感が多少なりともあるので、積極的に人前で使わない様にしていただけなのだ。だがしかし、それでも出来る事ならば降掛かる面倒は避けたいのでオリガさんに押し付ける方向で、漫画やラノベ、ゲームっぽい技の再現してみようと、ちょっとした悪戯心が芽生えてしまった。ふひひ。
「オリガ様、最初に狙うゴブリンを剣で指し示して貰えませんか?」
「そうだな。まずあそこに居るゴブリンから始」
オリガさんが標的のゴブリンに向けて右手に持った剣で振り下ろす仕草で「まずあそこに居る……」と指し示したのに合わせて、私は体内に流れを感じる魔素を触媒に、真空の断裂をイメージして<ウィンドカッター>を飛ばした。名前と属性から風魔法に分類していいだろう。
一瞬の合間に、それは周辺から急激に魔素を掻き集め凝縮していき、同時に光の粒子を撒き散らしながら発現した魔法は、想像通りに真空の刃となりゴブリンへ飛翔していって縦真っ二つに断ち切った。
「める……ンなッ!?」
「流石、オリガ様です! 離れている敵も剣の一振りで一刀両断ですね!!」
私はニッコリと笑みを浮かべてオリガさんの方へ振り向く。彼女は、左手で手綱を持ち器用に馬を操りながら、自分の右手に持っている剣を様々に角度を変えて見ながらクエスチョンマークを浮かべていた。そして振り向いていた私と視線が合い、そこで漸くゴブリンを両断した原因を理解した様だ。
「ちょっ、か、カノンっ! 魔法を、魔法を使う前に、ひとこ……と、ひ、瞳が紅、いーっ!!」
「さあっ! 次はどれを狙いますか? 次の標的に剣を向けて下さい! さあっ!! さあっ!!」
如何やら私の瞳はまた紅くなっているらしい。相変わらず、見る人見る人がこの瞳の色の変化に驚いてくれる。キルマ男爵邸でも見ていると思うんだけれどなぁ。ついでに無詠唱なのも。
まぁ、今更だしー、気にしない事にして、文句ありありな顔から驚いた顔と百面そ……二面相しているオリガさんに次のターゲットを催促する。馬のスピードが衰えていないのは流石だと思う。
オリガさんは、私の勢いに任せた催促と、どんどん近付いてくるゴブリン達に、なんだかんだでも冷静に順番を付けて剣の切っ先を向ける。さっきは振り下ろすアクションだったけれど、今度は標的に向けて突く様に三匹のゴブリンを指し示す。剣のアクションを変えやがりましたよ、こやつめ。ははは。
それに合わせて、私は点による攻撃魔法、普段使いのいい<ファイアバレット>をチョイスしてイメージする。今回は鬼火の様に回りに浮かばせるのは無しで。体内に流れる魔素を触媒に、周辺の魔素を三つに分けて掻き集めて凝縮。青白い、螺旋を描いて回転する圧縮された炎を高速射出した。<ファイアバレット>は後部から光の粒子を直線に描きながら飛んでいき、いとも容易くそれぞれの三匹のゴブリンを貫抜いて、炎の柱へ変えて燃え上がらせた。
「…………」
「汚物は消毒だーっ! ヒャッハー!!」
「……なんだ、なんだ! その掛け声は!?」
「ちょっとしたお約束、みたいなモンです」
「……偶にお前の事がよく判らなくなる」
「言ってみたかっただけなので気にしないで下さい。次行きましょ、次!!」
「……カノンの魔法の前では私の剣など添え物にすならないのか。……はぁ」
なにやら諦観した顔で溜息を付きながらも、オリガさんは律儀に次々と倒すゴブリンの順番を決めて剣を指し示していく。私も剣の振りに合わせて魔法行使していく。傍目にはオリガさんの振るう剣から魔法行使されて見えるだろう。そんな風に演出しているからね。
稀に捌き切れなかったゴブリンが目の前に飛び出してきて、馬が体当たりで突き飛ばそうとする。その前に幌馬車の中で思い出していた宮廷魔術師ルーリエ・セーブルの使っていた<アンチマジックシールド>をお試しで展開してみた。
アクリル板やポリカーボネート製って言ったっけか、前世の警察官だか機動隊が持っていた透明な盾をイメージして、魔素を媒体に発現させてみた。彼女の時みたく魔法陣は出現しなかったけれど、ゴブリンは見事に透明な魔素の盾にシールドバッシュされたが如く弾き飛ばされていた。馬にぶつかった衝撃も無かった。
対宮廷魔術師ルーリエ・セーブル戦で、彼女が魔法陣を展開させて発現させていた<アンチマジックシールド>は、私の放った魔法を相殺していたけれど、あの時は実体を持つ矢は魔法の盾を貫通して彼女はそれを回避していた。実体弾として使用した銀貨も同様に魔法の盾を貫通していた。
ゴブリンみたいに魔物と云われる生物は魔素の影響を受けている所為で弾き飛ばせたのだろうか? そう言えば魔石が取れるって話だし、それって魔素の結晶みたいなもんだろうか。そして、それが取れる生物には案外<アンチマジックシールド>の効果があるのかもしれない。
逆に、魔素の伴わない物質や生物には効果が薄いと考えた方が無難か。或いは<アンチマジックシールド>に実体化もしくは物質化出来る土や水魔法を併用して補強するのもアリかもしれない。まぁ、使う必要が無ければそれに越した事は無いのだけれど、お試しとしての結果は上々だと思われる。
私は背中のおっぱいに揺られ、じゃなく、オリガさんの操る馬上で揺られながら、二人で残り少ないゴブリンを排除して回り、時に魔法の試行錯誤しながら、何時の間にか放牧地の方まで駆けて来ていた。
柵内にある作業小屋の一つで、建物が陰になってキバオウに気付いていなかったのか、ゴブリン数匹に対して、柄の長い草刈鎌を一所懸命に振り回している村の男が居た。「チャンコーッ!」と牛か豚の名前を連呼していたあの男だった。
如何やら作業小屋に見えた建物は畜舎だったらしい。中から「ンモー」って鳴き声が聞こえる事から「チャンコ」が牛に確定した瞬間でもあった。他にも家畜の鳴き声が聞こえてくる事から中は無事だった様子だ。
名付けた家畜への愛情の賜物か、彼の周りにはゴブリンの死体が無数に転がっていた。ただ、如何せん多数のゴブリン達を相手にしていたのだ。彼は汗を振り撒き、肩で息をしながら、破れた衣類の所々には赤黒く血が滲んでいて、怪我をしているのが見て取れた。まさに疲労困憊の様相を呈していた。
当然、オリガさんの右手に持つ剣は、彼が相手しているゴブリン達にも向けられる。そして容赦無く私の行使した魔法が簡単にそれ等を駆逐していく。それを目の当たりにした男は援軍に安堵したのか、緊張感が切れたのか、膝から崩れ落ちていた。取り敢えず、お疲れ様でした。
更に残存しているゴブリン達に対し、私のキラキラ魔法のプロデュースの下、オリガさん無双の図と化していた。
「あーはっはーっ! これが、オリガ様の実力やーっ、雑種共ひれ伏すがいい!!」
「ち、違うっ、それは絶対に違うぞ!!」
ところが世間では、向こうにいる商隊の方々とマスロープ村の男達の感想はそうでもなさそうですよ、ニタリ。
読んで頂き有り難うございます。
更新は気分的に、マイペースに、です。
我が妄想。……続きです。
2021,06,25
<炎弾>→<ファイアバレット>に訂正。