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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
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第〇八九話

 商隊隊長のシガート氏は、マスロープ村の男達が言うところの、グレートボアの名前持ちであるキバオウが現れた事で、状況に合わせて態勢を整える為なのか、ゴブリン達と鬼ごっこを中断して、全員を呼び寄せていた。


 ゴブリン達も追い掛けてくる人間の鬼が居なくなった事とキバオウが仲間達を蹴散らして現れた事で、それとは逆方向の牧草地の辺りの方へ逃げ始めていた。


「……っ!?」


 私もあの場に集まればいいのかな、と思案していると、突然、フワリと身体が軽くなりちょっとした浮遊感に襲われた。足元に目をやる身体ごと地面から離れていく。って、この感じは……。そういえばあの場にオリガさん達の姿は無かったよな、と思った。


「流石はカノン。地味ながら後方支援で上手く立ち回っていた様だな」

「お、おぅ……」


 シガート氏の方に気を取られていたら、後ろから近付いてきたオリガさんが片手で私の襟首を掴んで持ち上げた模様。そして馬上の、彼女の前に再び座らせられて、そのままシガート氏の方へ馬を進め始めた。


 またイーサさんから文句でも言われるのかと精神的に身構えつつ、彼女の方へ目を向けると、イーサさんはなんとも具合の悪そうな、今にも胃の中身をリバースしそうな青い顔をしていた。一緒に並んでいたクリスさんも馬上で在るにも関わらず肩で荒く息をしている。


 二人共、ゴブリンの返り血で衣類や装備品の所々が汚れてる状態で表情も見て判るほどに強張こわばっていた。訓練ではない初めての戦闘、遊撃戦で精神的に疲弊した状態らしく見るからに辛そうだった。思わず心配になって声を掛ける。


「クリス姉様、イーサ姉様。お二人共辛そうですが、大丈夫ですか?」

「はぁ……、ふぅ……、これぐらい、大丈夫、よ」

「…………」


 クリスさんは息を切らせながら返事を返してくれたけれど、イーサさんは辛そうな表情で無言でこちらを見ている。二人共、全くって、大丈夫そうに見えないのは気のせいじゃない筈。


「二人共、初戦闘よく頑張った。シガートと合流したら、そこで少し休むといい」

「わ、私は平気です。まだまだ、やれます」

「…………」


 オリガさんも同意見だった。後ろに振り返って二人に対して休む様に声を掛けていた。


 クリスさんは、まだ平気と、言葉にはしているけれど、目に見えて肉体的にも精神的にも疲労している時点で相当にキツイのだと思われる。イーサさんに至っては、普段なら私の現状に対して嫉妬心をたぎらせ彼是あれこれ文句を言ってくるのに今は凄く大人しい。後方支援で楽をしていたクセにとか思ってそう。なんとなく、後々の事を考えると面倒臭い。


 ……話題を変えよう。


「……オリガ様から見てこの後は如何動くと思いますか?」

「んー、シガートの事だからグレートボアを狩る方向で動くだろうな」

「商隊の隊長さんって結構好戦的な人物だったりします?」

「好戦的、と言うよりは自分や仲間に降掛かる火の粉を率先して対処する人物、だな」


 あ、危険と感じたら、やられる前にやっちゃうタイプですか、仲間思いって所がとても心強いのだけれど、その仲間達も道連れに、一緒になって火の粉に突っ込んで行って振り払うんですね。……って、全然危険回避する気無いじゃん!!


「シスイ侯爵家御用達武装商隊だからな、見得や酔狂だけじゃやっていけないだろう」


 なんスかその追加情報。確かにチラっとサツキさんも話していた気がする。なんかイーシン西南州の貴族達は武闘派が多いって聞いていたけれど、穏健派と云われるシスイ侯爵の関係者も負けず劣らず武闘派っぽいのですが。


 結局はブリタニア帝国が各地で仕掛けた植民地戦争に於いて、戦い抜いき武功を上げてイーシンに飛ば……栄転させられた貴族達の末裔って事なんですね。シスイ侯爵が穏当な人物である事を祈りたい。


 少し遅れてシガート氏の所に合流すると、こちらに気付いていた様子だったけれど、彼等の方針が決まったのか詰めの話をしていた。


「……なら俺達商隊の面々と冒険者でボアの、キバオウとやらの気を引く」

「アンタ等、危険だ。キバオウは簡単に止めらんねぇ」

「村の男達は足に引っ掛ける丈夫な縄を用意してくれ」

「はぁ……、どーしてもやるんか……」


 漏れ聞こえる会話の内容から、オリガさんが言っていた通り、如何やら商隊の面々主導の下、マスロープ村の男達は渋々と、グレートボアのキバオウに手を出す事にしたようだ。集団の隅に居たサツキさんが声を掛けてきた。


「オリガさんと連れの嬢さん方、それにお客さんもご苦労さんです」


 サツキさんはみんなで話し合っていた内容を簡単に教えてくれた。普段は落とし穴や縄を使った罠に掛けるか、大人数の勢子を使って追い立て、足元を狙って縄を絡めて倒した所をフルボッコにする。のだそうだ。


 狙う獲物の種類が違うだけで、やり方は開拓村と変わりは無さそうだ。ただ、今回は落とし穴を作るにも縄の罠を張る余裕も無いので、危険が伴うけれど後者を選んだらしい。話を聞いている間に、何人かの村の男達が縄を取りに駆けて行った。


 各々が倒したゴブリンに関しては、あとでかっぱいで魔石を回収、冒険者ギルドの相場で買取を行い、それを臨時報酬とする。その死体はマスロープ村に譲渡、畑の肥やしとして引き取って貰う話になった様だ。……って、魔石!? 魔石有るんですか、この世界!! あっ、そういえばノーセロの街に魔道具屋が有った気がする。値段が高過ぎて買えないからって記憶からすっぽり抜けていたわ。


 倒したゴブリンの扱いに続けてシガート氏が「商隊関係の諸君。グレートボアのキバオウを狩れたら素材の状態次第で特別褒賞を出す!!」と気合を入れる為なのか、討伐報酬を提示する。それに呼応して商隊の面々は高揚した雄叫びを上げた。


 知識内にける、比較対象として思い起こせるのは大型バスや大型トラック、或いは作業用重機である。前世の経験からそんな物にケンカを売るなんて想像も出来ない。アレを見てよくやる気になると思う。事実、マスロープ村の男達はドン引きしている。


「クリスとイーサはここで休憩を取らせて貰うといい」


 休めと言われた二人は青い顔をしながらも「……オリガ姉様、私達も、お供します」「……オリガお姉様を、一人に、させられまないのです」等とひと呼吸置いて食い付いたのだけれど、オリガさんの表情から取り合う気が無い様子でもう一度、二人の今の状態が心配なのだと優しく言い聞かせて渋々了承させていた。


「カノンにはもう少し付き合って貰うぞ。腕は鈍って、ないよな?」


 えっ、なに言ってんのこの人? そも、腕が鈍るってどーゆー事? その言葉に思わずオリガさんの方を見てしまう。彼女は私の視線を軽く受け流して、対キバオウ戦の話し合いをしているシガート氏に話し掛けていた。


「シガート。クリスとイーサをここで休ませてやってくれ。私達はまだ残存しているゴブリンを掃討してくる」

「ああ、小物はそっちに任せた。こっちも準備が整い次第グレートボアの確保に動く。が、まぁ作戦なんて上品なモノは無いし向こうが先に動くかもだけどな」

「その時はその時で駆け付ける。ではカノン参ろうか」


 ……参ろうか、って。私の心情なんか置いてけぼりにしたまま話を決めて、オリガさんは少数のゴブリン達が残っている放牧地の方に向けて馬を走らせ始めた。……お、おー、いやー!!

読んで頂き有り難うございます。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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