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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
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第〇八六話

 商隊キャラバンの隊長であるシガート氏が話し終えたのであろう村人を解放して、近くに居た仲間達に大声で指示を出していた。その声からゴブリン達を迎撃する事に決めたようだった。


 声を掛けられた商人達や護衛に付いていた冒険者達が慌しく自分達が担当している馬車に戻って荷台から武器を取り出している。


 こちらまで聞こえてきたシガート氏の声に反応して、隣に座って居たサツキさんも「どぉれ、一丁いっちょ、やってやるか」なんて言葉を口にして荷台から武器を取り出していた。


 彼の右手に握った、少し反り返った、鞘付きの剣。……日本刀、いやシャムシールっぽい……サーベル、かな。つか、その剣の所為で、商隊の馭者ぎょしゃから一転、思いっ切り山賊とか海賊の風体ふうていに早変わりしてしまったんですがー。


「お客さんの安全は私を始め、商隊の仲間と護衛の冒険者、騎士達が守りまっすわぁ」


 そしてこの言いざま、この上のないおとこらしいさである。これで嫁さんが居ないってのは世の女性の見る目の無さよ。もしくはひと所留まらず、彼方此方あちこち行商に出てた所為で出会いが無さ過ぎなのか、非常に残念な話である。や、もしかしたら旅先の街に一人ずつ現地妻が……あとで探ってみ様かね。


 サツキさんとそんな遣り取りをしていると馬に跨ったオリガさん達が私達の所までやってきた。


「カノン。聞こえていたと思いうがゴブリンが現れたそうだ。商隊隊長のシガートは迎撃する事を選んだ」

「オリガ様、私は如何すればよろしいですか?」

「本来カノンはお客さん扱いだからな、事が終わるまでここに居て待ってて欲しいんだが、如何やらゴブリンの数が多いらしい」

「マスロープ村の住人だけでは対処出来ない数でしょうか?」

「その様だな。なので商隊も迎撃に参加する事になった。カノンに余裕が有るのであれば後方支援をお願いしたいのだが?」


 そう言いながらも、オリガさんの後方に付いて来たクリスさんとイーサさんの方へチラリと視線を流してフォローのお願いをしてきた。二人の顔から緊張感が漂っているのが見える事から、もしかしたら初めての実戦なのだろう。


 他の商隊メンバーは常道でロードキルをしているらしいし、冒険者達や騎士達も職業柄それなりの戦闘経験は有るんだろう。そうなるとオリガさんが心配になってくるのは初戦闘のクリスさんとイーサさんになる、か。


 終わるまでなにが起こるか判らないのが戦場いくさばなのだ。ゴブリンが非力とは言え、数の暴力で押してくるのであれば危険度は数段上がるだろう。下手すれば薄い本案件になるかもしれん。私が彼女達に出来る支援が有るのであればその限りではない。怪我をしてもポーションも有るしね。


 それにこの件で黒い影、死神の存在は感じられないので、重傷者等は出るかもしれないけれど死者は出ないと思われる。であるならば―――、


「私でよければ出来る限りの支援を行います」

「カノンありがとう、後ろは任せるぞ」

「……そう言えばお客さんここに来る途中で弓を準備してましたね。気が付いてたんですかい? それにしてもオリガさんから信頼されてるんですな、遠距離支援ですかい?」

「まぁ、準備は偶々ですね。それに支援と言っても遠くから弓をピュンピュン撃つだけですがね」

「遠距離支援もいいが同士討ちだけは勘弁してくれよな」

「サツキ。彼女を外見で侮らない方がいいぞ。私より強いからな」

「はぁー。そこまで言いますか。なら期待して大丈夫ですね、お客さん!!」


 ばんばんばんっ、とサツキさんに背中を叩かれた。これで対ゴブリン戦に遠距離支援としてのエントリーが決定しましたわぁ。ついさっき、サツキさんが男前を発揮して守ってくれると言ってくれたけれど、オリガさんの余計な言動で前言撤回させる感じで申し訳ない気がした。


 私は幌馬車の荷台に向かって、そこで見付からない様に<ストレージ>から弓と矢を取り出した。面倒臭い行程を経ているが<ストレージ>の事を他人に知られない為の努力なのだ。準備を済ませて幌馬車を降りた。


 その間、サツキさんは武器を担いでシガート氏の方へと歩いていた。オリガさん達の姿を探すと、彼女達はマチルダ嬢の乗る箱馬車の付近で護衛に従事しているキルマ男爵家の騎士達と二、三の会話をしていた。多分、同じ内容かそれにともなう何かしらの指示。オリガさんが離れた後、騎士達は馬車内に居るのであろうあるじに報告している様だった。


「商隊の荷馬車と幌馬車、広場の見張りと守りは彼等に頼んできた。では、私達も村の山側へ向かうぞ……ふっ!」

「ふにゃー」

「……っ!?」


 オリガさんの言葉と共に、私は弓と矢筒を抱えた状態で、襟首を掴まれ持ち上げられて、馬上へ、彼女の前へと座らせられた。思わず「にゃー」と言ってしまうぐらいの馬鹿力である。そのオリガさんの突然の行動に吃驚びっくりしたイーサさんは続けて「あー、ずるいのです!」「そこを代わるなのです、不謹慎なのです!!」等のうらやまけしからん的な抗議の言葉を私に対して投げつけてくる。


 私は背中に当たるオリガさんの柔らかい感触に集中、楽しみながら、彼女の抗議等何処吹く風だとばかりに流すに徹する。不謹慎結構!! 残念ながらこれは私の特等席なのだ。ぬははっ。


 ……なお、オリガさんは何時もの事と割り切っているのかイーサさんの言動にそれ程反応せず、クリスさんは緊張の所為かずーっと実に大人しくしている。


 シガート氏を筆頭に武器を持った商人達、冒険者達。それに農具を武器にマスロープ村の男達が横に広がりながら畑や牧草地に続く斜面を登っている。先行していた彼等に追いつき合流する。流石に馬足は速く楽だわ。斜面の下、村の広場ではキルマ男爵所属の騎士達がその場を中心に辺りを固めていた。


 いまだ斜面の途中で現場はまだ見えないけれど、私のつたない<気配察知>に走り寄ってくる幾つもの気配が引っ掛かった。……ゴブリンか?


「オリガ様、斜面の向こう側から何か来ます。数、二十以上」

「ああ。……総員、ゴブリンが来るぞっ!! 数二十以上っ、武器を構えるんだっ!!」

「……来ます!」


 私の言葉に、オリガさんも<気配察知>していたのか、即座にこたえて指示を飛ばす。その声に反応は様々。既に武器を準備していた者。素早く武器を構えた者。何事かとこちらを振り向く者。戦う以前に腰が引けてる者。


 斜面の上から勢いよく飛び出してくる緑色の影。と言うか、全身脱毛した様な、体長一メートルから一メートル二十センチぐらいのサルっぽいのが勢いよく飛び跳ねてきた。


 まるで斜面を転がる様に駆け下りてくるゴブリン達をオリガさんの指示で武器を構えていた商人達や冒険者達が先頭に立って薙ぎ払い蹴散らしていく。そして、みんなが「ゴブリンだ」と口に出しているのでそれに間違いないのだろう。


 こうして対ゴブリンとの戦闘が始まった。

読んで頂き有り難うございます。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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