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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
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第〇八五話

 太陽は中天を過ぎて、感覚的な時間にして恐らく十三時か十四時か。商隊キャラバンは魔物であるゴブリン発見に伴い警戒の為、進行スピードを抑えながら、緩やかで長い登坂道を上り、先程マスロープ村に到着した。多少の遅れが出たものの予定の範疇であるらしい。


 現在は休憩時間帯だ。移動の最中、幌馬車の中で外套と毛布に包まれ妄想にふけっていた私は、馭者ぎょしゃをしていたサツキさんに起こされて馬車から降りた。硬くなった身体を伸ばす動きをすると節々でパキパキと音がなった気がした。


 ここはマスロープ村の西側外れにる広場、馬車置き場兼展望台っぽい場所。観光名所なのか街道を通る旅人相手の串焼きの屋台も見える。


 馬の面倒を見る者、馬車の荷物を確認する者、或いは、村の住人と商品の売買をする者、もう一人のお客様であるマチルダ嬢の面倒を見ている者、村の外に索敵斥候に出る者、順次交代しながら商隊の仲間達が各々で間食や休憩、昼寝にはげんでいる様子だった。


 そして、私は展望台の風景に興味を惹かれ、広場の見晴らしの良さそうな場所に来ていた。


 眼下には大きな汽水湖、ロンガータ湖が広がっている。ここから、大気に含まれた湿気の所為か、若干白く霞んでいるものの、湖全体を望む事が出来て、湖面には帆を張った幾艘いくそうもの小船が往来しているのが見えた。


 南に目を向ければ外海へと繋がる湖口と漁村が霞んで見えた。西には薄っすらとした対岸と、その向こうに山が見え所々に集落らしきものが見える。北は大きな川が流れ込んでいて、河口に見える集落が多分ヤーロンだと思われる。


 残念ながら南の方にあるであろうゲーノイエ伯爵家の領都シューロクロスや、北のアシネイやノーセロは木々や山に隠れて見えないけれど、背の高い木々で覆われた黒の樹海に囲まれた開拓村では見られない風景が広がっていた。


「……おぉ、凄ぇいい景色」


 あかん、思わず素で感嘆の言葉を出てしまった。


「どうだいお客さん、こっからの景色中々のもんだろう。串焼き食べるかい?」

「あ、はい。ありがとうございます。幾らですか?」

「いらんいらん、そいつは俺のおごりだ。村の近くで罠に掛けて獲ったボアの肉らしいぞ」


 私が風景を望んでいる間にサツキさんは屋台から串焼きを買って来てくれたようだった。差し出された串焼きを有り難く頂戴して二人でパク付く。


 この人、場の空気を読んでるって言うか、少女愛好家的下心がなく、それでいて独身らしいけれど父性本能みたいなものを発揮しているのか、面倒見がよくて結構話し易いんだよな。……んー、元々自分がお爺ちゃんの所為で友達感覚と言うか、フィーリングが合うと言うか、そんなんだろうか?


「……んぐ、歯応はごたえがあって美味しいですね」

「うん、それに脂も乗ってて美味いよな」


 美味しいのだけれど、肉の弾力で噛み応えがあり顎を動かす回数が増えて大変疲れる。……こっちの世界ではデフォだけれど、前世で柔らかい物を好み、噛む回数が少なく早食いしていたあの頃の、それでいて人生を掛けて大改造を施した義歯では泣きが入っていただろう。ふと、そんな昔を思い浮かべて目の前に広がる風景とは別の場所を、記憶の彼方を見てしまった。


「……ほんと、遠くまで来たもんだ」

「それにいい天気だ。コーウィッド山も霞んで見えるから暫くはいい天気が続きそうだね」

「……そうなんですか?」

「ああ、逆に山がすっきり見えると近いうちに雨が降るそうだ。地元の人の経験則らしいがね」


 私が思わず漏らした言葉をサツキさんは見えている景色の事と勘違いしたのだろう。地元の生活の知恵的な話題を振ってきた。商隊で彼方此方あちこちを移動している所為か、色んな場所の最新情報だけじゃなく、ご当地情報もチェックしているんだろう。旅の楽しみ方も知っている様だ。


 休憩も終わり出発の時間になった。私とサツキさんは幌馬車の場所に戻り、出発準備を終えて運転席、馭者台に座って商隊出発を待っていると、辺りを見廻っていたオリガさん達が隊長のシガート氏の下へ近付いて、マスロープ村の山に面した方を指差してシガート氏と何かを話している。


「ん、なんだ?」


 そんな彼らの遣り取りを見ていると隣に居たサツキさんが何かを察したのか声を出した。彼の目線を追うと村の山側、斜面の向こう側から農具を持った数人の村人が慌てふためいて現れた。


「ご、ゴブリンだっ! ゴブリンが出たぞーっ!!」

「ゴブリン共が畑に侵入した!! 豚や牛も襲われるぞーっ!!」

「女子供は早く家の中に隠れるんだーっ!!」


 どうやらゴブリンが現れたらしい。ここからは見えない、一段高くなった向こう側に村の畑や牧草地が在った様だ。村中でその騒ぎを聞き付け慌しくなっていき、オリガさんとシガート氏は足をももつらせ下りて来た村人達を捕まえて話を聞いていた。商隊の仲間達もその事に気が付き騒ぎが伝播していく。


 私としては、吸血鬼ヴァンパイアだった宮廷魔術師ルーリエ・セーブルとその眷属ナイトウォーカーに堕とされたレイナード・ゲーノイエが魔物の定義に当て嵌まるのか判らないけれど、それを除くとこの世界で初めて魔物とのエンカウントになる。


「ここに来る途中に護衛の冒険者が見かけたってヤツですかねぇ」

「……ありえるな。シガートさん如何すんのかな? て言うかお客さん随分落ち着いてんな」

「そこは、ほら、私は辺境の、黒の樹海に在る開拓村の出だからー」

「あぁ、お客さん、あそこの開拓村出身か。黒の樹海じゃ野生の獣が強過ぎて魔物もあまり寄り付かないらしいな、そうか、そうか」


 と、私の落ち着きように納得の様子だ。黒の樹海を徘徊するグレイウルフやブラックベアの怖さに比べたらロールプレイングゲームなんかで序盤に出てくるゴブリン程度は、数さえ揃わなければ、まだマシなんじゃないかと思っている。


「ここに来る途中で逃げられたって話だけれど、普段は会敵したら如何するんです?」

「ん、移動中だったら問答無用で蹴散らすぞ? 普通に返り討ち、ロードキルするな。ついでに使える素材が有ったら剥ぐね」

「……もしかしたらオリガさん達はこれに気付いて隊長さんに報告しに行ったんですかね?」

「かもしれん。ただ今回は移動中じゃないからシガートさんの判断次第だな。ただなぁ、素材的にゴブリン美味うまくないんだよな」


 なんてサツキさんも簡単に言ってるけど一応魔物だよね。普通に蹴散らすって、ロードキルって、中々にワイルドでおっかない商隊だった!!


 そうこうしていると、村人と話をしていたオリガさんとシガート氏の方針が決まったらしく周りに指示を出している。如何やらゴブリンの迎撃を選んだらしい。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

地味に覗きに来ている方がいる様で感謝致します。

更新は気分的に、マイペースに、です。

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