表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇八幕 支に踊る者
82/132

第〇八二話

 騎士団本部前の広場で馬車から降りたキルマ男爵の娘マチルダ嬢を見かけた。


 政略結婚の為とは言え、彼女の許婚いいなずけだったゲーノイエ伯爵家四男レイナードを、宮廷魔術師ルーリエ・セーブルの眷属としてナイトウォーカーと化した男を目の前で殺め、その足で彼の遺言を届け、涙ながらに私の頬に平手打ちをくれた娘。


 彼女が彼の<魅了チャーム>に掛かっていたのか、相思相愛だったのかは判らない。私はその時頬に受けたの痛みをジワリと思い出した。


 結局のところ、私は彼女の護衛に付くのであろう騎士達に挨拶をしている所を遠くから眺めただけだった。程なくして出発時間となり最終確認を終えたのであろうシガート氏の合図と共に、商隊キャラバンは動き出した。


 商隊の先頭に居たシガート氏がノーセロの街の城門で手続きをした後、十数台の荷物を載せた馬車がぞろぞろと隊列を作り街道に出ていく。


 連日の春の陽気に雪は溶けて街道は移動し易くなっていた。建物の日陰になる隙間や街道から少し離れた畑っぽい平地はまだ雪が残っている。そんな光景を幌馬車の荷台から眺めていた。


 私は隊列の中央付近を走る幌馬車に乗っている。ガタガタと揺れている荷台に身体をゆだねて、進行方向に広がる平野、周りを流れる風景から視線を後ろに移せば、キルマ男爵家騎士であろう護衛達に両脇を挟まれ、マチルダ嬢を乗せた箱型馬車が付いてくる。流石に貴族のご令嬢を商隊の幌馬車に載せる様な不敬はしないらしい。


 ちなみにオリガさん達は、建前上、冒険者ギルドから依頼受注、派遣された商隊の護衛として隊列の側面に張り付いている。ただ、まぁ、冒険者に偽装と言う割には、馬にまたがる姿からにじみ出る高潔さと凛々さの所為で隠し様も無いほどに騎士様なんだよね。キルマ男爵所属の騎士も居るのだし偽装する必要も無いと思うのだけれど、そこ等辺は偉い人達の何かしらの考えがあっての事なのだろう。


 街を出てしばらく南に進んでいると街道の東側に沿うように流れる、幅が約百五十から二百メートルぐらいある川が見えてきた。開拓村から流れる支流、東のフノヌツイから流れる本流。トトメキ村で合流していた川。名前を聞いていなかったそれはノーセロの街手前で南西方向に曲がり、やがて南に向かい汽水湖であるロンガータ湖に流れ出る。その脇に沿って走る街道を商隊の列が進んでいく。


 二時間ほど街道を進むと、アシネイ、渡し場のある村に到着した。街道を往来する人々がここから川の対岸に渡り陸路を進むか、或いはこのまま南下してロンガータ湖の船着場ヤーロンからゴミョーコーへ抜けてシューロクロスに至る水路を取るかを選択する村となっている。その為、川を挟んで西村東村の二つが存在している。


 先日の情報でシューロクロス沖にはブリタニア帝国の艦隊が停泊、宮廷魔術師一人と小隊規模の<赤服>が駐留しているので余計なトラブルを避ける為、商隊はアシネイ西村から東村に渡り陸路を進む事になる。


 そして五時間程掛けて、人馬と馬車、荷物を数回に分けて対岸へと渡河した。初日はこれにより日暮れ間近と言う事もあって、時間切れとなってしまったので、対岸にあるアシネイ東村の広場で野営する事になった。なお、貴族であるマチルダ嬢は野宿を避け、護衛の騎士に守られて村の宿泊施設で休息を取る事という。案外、貴族のご令嬢を野宿させないような余裕のある日程が組まれているのかもしれない。


 商隊の護衛の冒険者達は、キルマ男爵家の騎士達が騎乗していた馬や馬車を引いていた馬を広場の隅へ集めて身体を拭いたり餌をやったり世話をしている。商人達やその手伝いの男達は生活用品が載った幌馬車から野営道具の天幕や調理道具を引っ張り出して手馴れた感じで設営を始めている。


 みんなの作業風景を見ていると、昔の開拓村で父さん達と樹海の最奥で狩りをした時の事を思い出してしまう。私も手伝いをした方がいいのかと思案していたら、自分の馬の世話を終えたオリガさん達がやってきた。やっぱり歩いてくる三人の姿は冒険者に見えない。


「カノン、ここに居たのか」

「オリガ様、クリスさんにイーサさんも商隊の護衛任務お疲れ様でした」

「ははは、ありがとう。だが私達はたかだか初日で疲れるほどのやわな鍛え方はしていないのだよ」


 クリスさんとイーサさんが続けて話し掛けてくる。


「カノン。オリガ姉様の仰るとおり、私達を甘く見ないで欲しいわね」

「むしろ商隊の渡河待ちの間、私達三人で村や街道周辺の索敵警戒に出ていたぐらいなのです」


 ドヤァな顔をして薄い胸を張るイーサさん。


「確かに周囲警戒に出ましょうって言ったのはイーサですが、単に渡河中の待ち時間が嫌だったんですよね。顔に出ていましたよ」

「それは、そのぅ、ゴニョゴニョゴニョ……」


 クリスさんは突っ込むようにその時心情を暴露したつもりらしいけれど、多分それは勘違いだと思う。赤い顔をしてモジモジしながら尻すぼみになるイーサさんの言葉、ゴニョゴニョの部分が「馬を駆るオリガお姉様の揺れる勇姿を堪能したかったのです」だったのを私は聞き逃さなかった。揺れる勇姿。揺れる……揺れる胸、か。勇姿と書いておっぱいと読むのか! ……くっ、私も誘って欲しかった。


 そんな私のよこしまな葛藤を余所にオリガさんが言葉を掛けてきた。


「この後なんだが、私達は村の宿に泊まる事になっている。カノンも一緒だな」

「えっ、あ、あぁ、商人の皆さんと野営するんじゃないんですか?」

「村の中とは言え、一応見張り置くんだが、それぞれ時間毎に交代して宿で休息を摂る事になっている」


 私の邪な葛藤を表に出さないように気を付けながら、野営準備をしている方に視線を向けて訊ねると、オリガさんからそんな答えが返ってきた。


「何時もなら全行程野営を含めてさっさと移動するんだが、今はまだ時期的に寒いし、無理の利かないお客さんも居るからな、野宿は極力無しの方向だ。一応馬車や荷物の見張りは置くが、基本は街道沿いの宿場施設を使いながらの移動になる。それにその分の費用は出ている」


 ああ、なるほど。今回はキルマ男爵のご令嬢が同伴だから旅の行程はイージーモードになるのか。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ