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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇七幕 士に従う者
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第〇七九話

 オリガさんから聞いた話は、この世界、植民地列島イーシンの概要であって、私の目下の目標はシスイ侯爵領都イヨムロに在るセーレム魔法学園に入る事なのだ。


 そこに至る道程で我が死の女神であるエンヤさんを派遣する程のイベントが発生する事を糸目の死神に告げられているから若干気が重い。せめて楽なイベントだったらいいのに。


 その前触れなのか、シスイ侯爵領都イヨムロからの交代要員は、道中で足止めをくらった影響で予定より半月程遅れてキルマ男爵領ノーセロへ到着した。


 交代要員の話によると、ゲーノイエ伯爵領都シューロクロスは海に面する都市で、そこから海路と水路を利用してノーセロに向かう予定だったが、二月の下旬、そのシューロクロス沖にブリタニア帝国の軍艦が姿を現した事で予定が狂ったのだそうだ。


 シューロクロスの手前の宿場町でその話を聞いた一行は、商隊キャラバンに所属する商人、或いは護衛する冒険者として随行していたそうで、そのていで情報収集を始めた。商人達の情報網は鮮度も良く確度の高い情報が直ぐに集められた。


 イーシン総督府の要請で派遣された軍艦は三隻。元々植民強行派だったゲーノイエ伯爵は軍艦を港に停泊させてこれを受け入れ、新たに派遣されてきた宮廷魔術師一人と小隊規模の<赤服>が上陸しゲーノイエ伯爵家迎賓館に招き入れられた。それに伴い領都に厳戒態勢が敷かれていた。そしてシューロクロスに出入りする人や物品等のことごとくが検査の対象となっている。


 状況的にゲーノイエ伯爵が再び殖民強硬派に転がる可能性を考慮して、交代要員達はある程度の情報収集の後、面倒事を回避する為、シューロクロスからの海路ルートを諦め時間の掛かる山側陸路ルートへ変更したのだそうだ。一応、商隊の仲間の商人が先触れ、連絡係として先にノーセロへ到着していたらしい。同様にイヨムロへも走らせていたとの事。なのだけれど私はまだ騎士団関係者じゃ無いので詳しい話は知らなかった。


 この話を語る時にオリガさんは口には出さなかったけれど、私の方を見ていたので、シューロクロスに現れたと云う軍艦の件は宮廷魔術師ルーリエ・セーブル絡みじゃないかと推測された。


 と言うのは、私達は今、騎士団本部が在る広場から少し西に歩いた職人地区の入り口に近い場所に並ぶ飲食店の一つ、ここ半月程、結構な頻度で晩御飯時にお世話になっている食事処<食卓>に居るのだ。そこでオリガさんを始めミュンさん、クリスさん、イーサさん、私と何時ものメンバーで食事を摂りながらこの話をしていたからなのだ。他におっぴろげで話せない部分も有るのよ。


 ちなみに、最初の頃は気にしていなかったけれど、食前にオリガさんとミュンさんはウチの母さん謹製のカーヤ印のポーションをクイッとあおっていた。


 二人曰く、食前に飲んでおくとお酒が美味しく飲めて二日酔いにも効くのだと言う。前世でよく聞いた飲む前に牛乳で胃に幕を張る効果でもあるのだろうか? なんとなくで胃の中に入ったら全部一緒な気もするけれど、飲まない人間からすればイマイチ効果の程が判らない。……二人が二人そう言っているのでそうなのかもしれないけれど、案外プラセボ効果だったりして、と思えなくも無い。


 で、話が逸れてしまったけれど、先の続きとして、イヨムロからの交代要員が到着した事にって、オリガさん達はようやく引継ぎを終えて、入れ替わりでイヨムロに向かう日程に目処めどが立ったのだそうだ。


 食事をしながらオリガさんの話を聞く。


 今回も商隊として行動する予定で、シスイ侯爵家御用達でシガートと言う商人が率いる商隊なのだそうだ。オリガさん達はそれを護衛する冒険者役。他にも数人交代要員として向こうへ戻るが者が居る様だけれど、彼等も冒険者の護衛役や商人役として勤めるとか。道中はそれ程危険が無いのでほぼ荷物番との事。


 私はイヨムロに向かう客の一人、お荷物になるらしい。他にもお客さんが居るそうだ。この話をした時のオリガさんはなんとなく微妙な表情をしていたのが印象的だった。護衛戦力として数えるべきか如何か迷っているのかと思ってしまったのは、私が自意識過剰なだけなのかもしれんけど。


 イヨムロからの交代要員達の情報を加味して、シューロクロスでの面倒事を避ける為、当初予定していた水路、海路ルートが変更され、こちらも全行程陸路となった。


 元々のルートはノーセロから南のアシネイを抜けて、汽水湖きすいこのロンガータ湖の渡し場ヤーロンへ。そこから汽水湖を渡り海が交わるゴミョーコーに出て、船を変えて海路を幾つかの港に寄って領都シューロクロスだった。


 それが陸路、アシネイから分岐して汽水湖を避ける山側のルート。ケド、マスロープ、オバデバイ、ザキセルオン、領都シューロクロスと地名が並べられる。通過地点として領都シューロクロスが上がっているけれど、無理して厳戒態勢の中に入る事はせず、手前のザキセルオンの東、シューロクロスの北東に位置するペンタグリムを抜けて迂回する。


 ここで糸目の死神が口にしていたペンタグリムと言う地名が出てきた。迂回ルートに何が有るのだろうか? 少しでも情報が欲しいけれど、オリガさんはみんなに対して話しているので腰を折りそうな質問は出来そうに無い。


 シューロクロス北東のペンタグリムからイヨムロまでのルート。南下してトカミツカ、メリカノ、ダーゼン、キオウシュ、シエキタク、マンホース、ワンゲトー、ダイザンキ、イヨムロへ至る。


 私としてはこの世界の、イーシンの地図をいまだに見た事が無く、地名を聞いていただけなので漠然としててよく判らなかった。他のみんなは地名もその地理を理解している様だったけれど、後で簡略的な地図を描いて貰おうと思った。


「ところでオリガ。今回もアレやるの?」


 オリガさんの話がひと段落したタイミングでミュンさんが質問した。私も聞きたかった事が有ったけれど、まぁ、後でいいか。それよりアレってなんだろう?


「一応、私が代表なのでやる事になっている。本当は誰かに代わって欲しいのだが……」

「オリガ姉様以上に見栄えのするものは居りません。騎士団の皆さんも期待していると仰ってました」

「オリガお姉様の勇姿は私だけに見せて欲しいのです! そして姿絵にして永遠に残して置きたいのです!!」


 憂鬱そうな表情でクリスさんとイーサさんの言葉に乾いた笑みを返すオリガさん。


 クリスさんは「安心してください。当日の準備は万全です」と力強く言い、イーサさんはキラキラした表情でオリガさんを見つめ「微力ながら私もお手伝いをするのです!」とやたら力が入っている様に見える。オリガさんの乾いた笑みが苦笑に変わっていた。


「いったい何があるんです?」


 そんな三人の様子を横目に見ながら隣に座るミュンさんにそっと訊ねてみた。


「交代の儀よ」

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。……続きです。

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