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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇七幕 士に従う者
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第〇七五話

 ミュンさんの仕事が終わるまで、私とオリガさん、クリスさんにイーサさんは冒険者ギルドのフロントロビーの片隅で久しぶりの再会したのでつもる話に花を咲かせる。……筈たった。


「……まったく、二月下旬と約束した筈なのに全然来ないカノンが悪いんだ」

「二月の終わり頃から、カノンと約束したからそろそろ来る筈だ。もう直ぐ来る筈だ。なんだ、まだ来ていないのか。明日こそは来るだろうな。今日こそ来る筈だ、クリスちょっと本部入り口まで見てきて貰えないか。昨日は迷子になっていたのかもしれん、イーサちょっと城門まで見てきて欲しい。そんな毎日で……」

「ここまで遅いとなるとカノンに何か有ったのかも、クリスとイーサ。冬季装備を準備しておけ、開拓村まで迎えに行くぞ。なんて言い出す始末で抑えるのにひと苦労だったのです。残念なのですが一応無事に到着してひと安心なのです」

「それで、ここ二、三日はオリガ姉様も諦め気味で、約束をほかされてもう来ないんじゃないかって雰囲気が漂っていた所に、先程、私がたまたま冒険者ギルドに入ってくカノンを目撃したので慌ててオリガ姉様に報告したんですよ」

「悔しいのですが、待ちに待った待ち人来訪の報。オリガお姉様の笑顔もカノンが冒険者ギルドに入って行った話を聞くや否や速攻で駆け出したのです。浮気の現場を押さえるべく冒険者ギルドに突入なのです」

「カノン! せめて、せめて先に、冒険者ギルドより先に騎士団本部へお前の顔を出して欲しかったんだ!!」


 ここに至る状況説明をするクリスさんとイーサさん。頬を膨らませ、両腕を組んで自慢の胸部装甲を無意識に強調してプンスコ怒るオリガさん。クリスさんの言葉は普通っぽいけれど、イーサさんからはほんのりとにじみ出る悪意が感じられた。私如き小市民に嫉妬するとは可愛いヤツめ、ははは。


 話の流れ的に、オリガさんからみんなに食事を奢るといった賭けに負けた事を責められると思っていたのだけれど、それと同時に街へ来る約束に遅れた事を責められていた問題。


 ……すいません、てっきり約束は三月上旬だと勘違いしていました。それはもう陳謝から謝罪を重ねて謝意を示し、最終奥義の誠心誠意のお詫びである土下座を敢行する体勢になりかけた所で止められたけれど。そんな顛末を挟みつつ、仕事を終えたミュンさんと合流して私達は今、ノーセロの街に在る食事処<食卓>に居る。何と言うか、ネーミングセンスぇ……


 そのお店は冒険者ギルド、騎士団本部が在る広場から少し西に歩いた職人地区の入り口に近い場所に並ぶ飲食店の一つだ。双方の関係者もよく使っているそうで、家庭料理や少し凝った感じの食事を振舞う庶民向けの価格設定で、職人達にも人気があるお店なのだとか。


 ちなみに、十八時以降になるとお酒も出すそうで、現在進行形で仕事上がりの騎士団やギルド職員の制服を纏った者、何組かの冒険者パーティーであろう人達、職人達の姿がチラホラと見え、店内は賑やかに喧騒に包まれている。


 なお、私としてはこの街で初めてのきちんとした食事が出来るお店に入った事になる。何時も城壁外の市場に有る露天の串焼きばかりだったので、この世界で初めて飲食店に入った事に内心で大歓喜だったりする。


 私の横にミュンさんが座り対面にはオリガさん、クリスさん、イーサさんが座り、みんなお祈りを済ませ、運ばれて来たパンや大き目の野菜が入ったスープ、焼いた肉料理等に手を付けている。実家のパンより柔らかいし、豆スープに比べて野菜が多くて食べ応えが有るけれど、若干味が薄い気がする。肉は鳥の肉、かな。ホロホロさんより味が落ちる感じだ。でも、これはこれで美味しいので誤差の範囲だと思う。


 総評は普通に美味しい。……や、普通に美味しいってなんだよ! 美味しいでいいだろう、ただのひと言、美味しいでっ!! うん、美味かった!! そしてオリガさんとミュンさんは食事もそこそこに速攻でお酒を頼んでいた。ファンタジー定番のエールと言うヤツだろう。


 スローフード的なまったりとした時間の流れる合間に挟まれる会話。


「ウチの前途有る冒険者をかどわかすなんて酷い話よね」

「カノンには魔法適正が有るのが判ったからな。その才能を伸ばす為にも私達の庇護下に置いて更なる高みを目指して貰うのだ」

「と、言いながらここの領主のキルマ男爵じゃなく、貴女のボスのシスイ侯爵に推薦とか、ヘッドハンティングもいいところじゃない!」

「才有る者に対しての先行投資、我が騎士団は才能ある若者を何時でも募集中なんだ」

「あー、もぅ。如何して最初のギルド登録の時に魔法が使えるって教えてくれなかったんですかー」


 恨めしそうにこちらを見るミュンさん。でもさ、その前に有った盗賊の開拓村襲撃事件の際の村の人達の私を見ていた目とかね。魔法に対して余りいい印象が無いと思っていたし、変にさらけ出すとまた奇異な目で見られるのかと思うと、簡単に魔法が使えると言えなかったのですよ。


 ただ、昨年の赤マント事件は魔法を使わない訳にはいかなかったし、その場に居た関係者に緘口令かんこうれいかれたから私の情報が漏れる事は無かった様子。事実ミュンさんも今の今まで知らなかった様だし、ここでバラしちゃったけれど、守秘義務さんはいい仕事してるねぇ。


 目撃者はキルマ男爵や家族、執事さんに騎士団の面々……あとはオリガさんか。団長は意識が無かったんだっけ。クリスさんやイーサさんの姿は無かったと記憶している。


「えっ、カノンって魔法が使えたの!? 樹海の狩りじゃ弓しか使ってなかったよね?」

「うん、遠距離の命中率が高かった。弓の扱いが上手いだけかと思ったです……」


 残念。クリスさんにイーサさんや、あの時は地味だけれど矢に風魔法を付与して、飛距離を稼いで獲物に誘導するように飛ばしていたんだよ。


「……あれ、それじゃあ、あの日の晩のお風呂沸かしたのって、もしかして魔法、で?」


 はい、正解。ニッコリと笑みを浮かべてクリスさんの方を見る。あの時は二人共席を外していたから、私がお湯を沸かしている所はオリガさんしか見ていないんだよなぁ。


「ね、ね、それじゃカノンはお湯を沸かす以外にどんな魔法が使えるの?」

「んー、火を起こす火種を作るくらいの簡単な物しか出来ませんよ」


 ……まぁ、嘘だけど。明らかにこのテーブルの周りであからさまに耳をそばだててる奴が何人か居るっぽいし、簡単に手の内は明かさないのでござるよ。はい、そこのデカイ胸の人! なに過少申告してるんだって顔は止めろぃ!!


「……クリス、場をわきまえるんだ。不特定多数が居る場所で聞く内容ではない」

「そうです。冒険者ギルドでも厳重に情報は管理していますが、他者のギフトやスキルの詮索は禁忌タブーとされています」

「そうだな。今の発言が元で、火種を起こす為に誘拐されるかもしれんだろう。そのまま死ぬまで火を起こさせられたら如何するんだ?」


 オリガさんの例えが酷い。一生火種を起こす為だけにさらわれるとか、私は多目的ライターかよ。やっすい人生だわぁ。せめて愛玩……イカン、それは断固拒否だ。ナルシストと言われても構わない。私の身体を楽しむのは私だけだ! 色欲塗れの男が私の身体にちょっとでも触ってきたら燃やしてやる!! ナニをとは言わないが絶対にだっ!!!


「……その、カノン、ごめんなさい」

「あ、謝らなくても大丈夫です。最悪、何か有った時はオリガ様が守ってくれる筈だから、ね」


 謝ってくれたクリスさんにフォローを入れたら横でイーサさんは羨ましそうに私とオリガさんを交互に見ている。


 でも、オリガさんも誘拐犯と似たような者だからね。私に有用性を見出したから騎士団や学園云々の取引を持ち出してきた訳だから、今回の一番悪い人はオリガさんだね、と責任転嫁。まぁ貴族の権威とか権力っぽいモノの庇護に置かれると考えれば多少はマシかもしれない。正直、権力の犬にはなりたくないけれどね。


 ……そう言えば去年クリスさんは私を従者にするとか言っていたような。多分、大丈夫だよな、うん。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

更新は気分的に、マイペースに、です。

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