第〇七三話
さて、現在の状況を確認する。
私は騎士団本部へ向かう為、ノーセロの市街地に入り口の城門で入城手続きをしようとしたら、相手の門番がチャラいロリ兄ちゃんだった。過去に一度、エンカウントした事が有るのだけれど、言動がナンパな感じでウザくて苦手なタイプなので華麗にスルーしたかった。以上。
や、一応補足。この変態さんは歴とした城門の守衛さんで、以前、出来るだけコイツを避ける為に、傍から行動観察をした事もあったけれど、仕事ぶりは一部を除いて、真面目で卒無くこなしていた。
周りの人の話を聞くに、城門を出入りする少女達を限定で、安全の為に必ず声掛けをする名物お兄さんでもあるらしい。一番危険そうな変態さんが安全の為に声を掛けていると言った戦慄的現実。
観察していた限りでは、変態紳士的に「YES,ロリータ。No,タッチ」を標榜しているらしく、少女達の身体に触れる事は無かった様だけれど、出入りする少女達に掛けていた言葉の一つ一つがキモく感じられた。
深読みで、彼は女性と接触する際の緊張感を紛らわせる為にワザとナンパでチャラい男を演じて少女達に接しているのかも? と思わえなくもない。これが素であれば、何時かヤラかす要注意な危険人物にリスト入りするだろう。
私は背負い袋に腕を突っ込んだフリをして、<ストレージ>から自分の冒険者ギルドカードを取り出しチャラいロリ兄ちゃんへ提出した。受け取った瞬間ニヤニヤしなければ、彼は普通のイケメンな門番らしく見えるんだけれどなぁ。顔を近づけて、カードの文字をじっくりねっとりと目を通して確認している。……えっ、ねっとりって、……違う、匂いを嗅いでるっぽい!? なんか最高にキモい!!
「冒険者のランクF、カノンさん、ですね。暗くなる前に早めに家へ帰るか、宿を探す事をお勧めします。ツテが無ければ我が家を宿として手配……」
はい、ギルティ!! 冒険者カードを返してきたタイミングで、暗くなるから早く帰れと促しつつ、あわよくば自分の家に連れ込もうとするその魂胆。やはりこれは騎士団へ報告案件だわ。
「……普段は気さくな好青年に見えましたが、時折、少女達に這わせる好奇な視線に危険を感じてまいした。この人は何時か必ずやると思ってました」
「ちょ、ちょっと、カノンさんっ、カノンさん! 突然何を言い始めるんですかーーー!?」
「カードを受け取った時の表情もそうですが、最後の自宅へご招待のひと言もアウトです。今の言葉は騎士団本部へ少女への略取誘拐の報告します。可及的速やかにここを通して下さい!!」
「いやいやいや、私は門番として職務を忠実に果たす為、カードを確認しただけだよ。決して匂いを嗅いだ訳じゃない! ……あっ!?」
「……うわぁ」
やはり匂いを嗅いでいたましたよ、この変態紳士の兄ちゃん。女性に不慣れじゃなく欲望に忠実なんだ。触れないだけまだマシかもしれないけれど、危険人物は今の内に刈って貰わないと。お巡りさん、もとい騎士団の治安維持の衛兵さんこの人です!! なんて心の中で叫んでしまう。
「やぁ、カノンさん久しぶり。デーブ……彼の行動と言動は酷いけれど実害は無いから、その辺で勘弁してくれないかな?」
問題の変態紳士と対峙していると横合いから声を掛けてきた者がいた。もう一人の門番である何時もの好青年だった。
「あぁ、お久しぶりです。えーっと……」
「そういえば名前は名乗ってなかったね。僕はローレンス・シルバード。ロレンでいいよ。そして彼がデービット・ブロンコ、デーブだ」
ここに来て初めて好青年の名前がローレンスさんだと明かされた。ついでにチャラいロリ兄ちゃんの方も。しかも痩せているのにデーブという愛称。……は、余計なお世話か。好青年改め、ローレンス……ロレンさんと云う仲間が出て来てデーブは安堵した顔になっている。
正直、思う事も多々有るけれど、私としても面倒事を起こしてそこまで波風を立てたくも無いので、彼の登場は渡りに船だった。
「そうだね、カノンさん。デーブは言動と行動がアレだけれど、基本的に実害は無いからみんな生暖かく見守っているんだ。上手くスルーして対応して貰えるとこちらとしても助かるー……、かな?」
ちょ、やんわりと毒が入っている感じがするし、最後も疑問系だよ! 信頼してる仲間、なんだよね、ね!? ほら、ほら、デーブも不安そうな顔をしてロレンさんの方を見ているしぃ。
「デーブの方も。何時か冗談の通じない相手が出てくるって言っておいただろう? 今後は物凄く声掛けに気を付けた方がいいね」
「いやぁ、でも、この娘は絶対に声掛けしておかないと駄目だろう。叶うなら家に持ち帰って部屋の一番いい場所に飾って置きたい部類だわ」
「……そう言った嗜好が駄目なんだって。や、他人の趣味嗜好に駄目も何も無いのだろうけれど、傍から見てると多少頭を傾げたくなる部分もあるよ」
多少の自覚があるのか、デーブはバツの悪そうな顔をしてロレンさんの小言を反論せずに聞いている。
「それでなくてもデーブの言動を好意的に取って本気にしてる娘だって居るんだから、さ」
……マジか! 数撃ちに当たった娘さんも居たのか!? 誤爆、じゃないよね? 確かに言動はチャラいロリ兄ちゃんだけれど、黙っていればそこそこイケメンだから、なのか。イケメンの補正力凄い。
「それにカノンさんは大丈夫だよ。変な男にホイホイ付いて行く様な娘じゃないし、そもそも冒険者ギルド内で女性の方が好きだって公言したらしいし」
「ファッ!!」
げっ、個人情報……って言っても、過去に冒険者ギルドで遣らかした、心の声が駄々漏れした女性の方が好き発言。もう、何処で拾ってきたんだよ、その情報。ノーセロの街自体小さいし、どっかの酒場で酒の肴にでも噂が広がっていたかも? つか、よくそう云った話を拾ってきたな、或る意味で感心する。
「……えっ、それ尊過ぎない? むしろこの娘の評価が更に上がってしまったんだが!!」
デーブ、お前はマイペースだな!!
……と言った遣り取りを経て、最終的にデーブの謝罪とロレンさんの「ようこそ、ノーセロの街へ」の言葉を聞きつつ、後ろに並んでいた人の「早くしろ、後ろが突っ支えているぞ」なんて具合の刺す様な視線を浴びながら、「すいません、すいません」と心の中で謝りつつ、さっさと城門を抜けて街の中へ入った。
冒険者ギルドにチラッと顔を出してから騎士団本部へ、オリガさんの所へ向かおう。
我が妄想。読んで頂き有り難うございます。
更新は気分的に、マイペースに、です。