第〇七一話
ノーセロの街へ続く、白い雪に覆われた街道。地吹雪で判り辛くなった道の横には、目印として先端に赤い布が括り付けらたポールが点々と並び、比較的安全に歩ける場所を示している。
私は、道中で突然現われた糸目の死神と一緒に、風で煽られながら激しくはためいた赤い布ごと持っていかれそうになっているポールの列に沿って歩いていた。
先程の言葉「ちょっとした誤差で多少の歪み在りましたが」を深読みすると、私はそこへ行くのが確定事項で、どうやら、また何かしらの余計な出来事に巻き込まれるくさい。……凄く遠慮したいのだけれど、無理なんだろうなぁ。
以前、エンヤさんと「お手伝いをする代わりに身になりそうな情報を下さい」って約束を交わしていた。糸目の死神にそれが適用されるか判らないけれど、駄目元で何か交換条件を出してみようかと思った。
「自由に、と言われても、また碌な事がなさそうなので対価報酬を要求します」
「……あぁ、そういえばカノンさんはエンヤ君とそんな約束をしていましたねぇ」
うん。糸目の死神は私とエンヤさんの約束を承知していた。これは、対価報酬を要求が通りそうな予感。
「さて、どうしたモノか……」
彼は黒い外套を風に靡かせ、遠くを見る様に思案している。なにかいい感触。ぐふふっ、糸目の死神さんはどんなのを提供してくれるかな?
前のエンヤさんからお砂糖を作る方法を聞いた時みたく、ぱっと思いつかないけれど、自分に生産技術計は無理そうなので簡単に食料関係の知識が欲しいかも。それこそ異世界チートの定番、日本食を狙ってみるとか、ね。
「カノンさんの欲しそうな食べ物は大概この世界にも存在しています。例えばそうですね。別の大陸文化圏ですが、お米にソィ……醤油と味噌はありますからねぇ」
な、なんだってーーーっ!! えっ、えっ、米や醤油、味噌もあるの、この世界!? これは現地に行ってさくっと調達したいっ! その情報プリーズっ!! やったね、はっはっはっ。
「現状だと海あり山ありで大変な危険を冒して、且つ今の交通事情を加味して一年以上の歳月が掛かる旅路の果てに、と補足文が付きますが」
うへぇ。それだと現状でそれらを手に入れるには、余程のお金を投資をしないと無理って事なんじゃない。時間的にも厳しいって感じじゃん。
こうなったら自分に似合わないけれど生産技術系を、車や鉄道、航空機みたく高速移動出来る乗り物を作る技術を教えて貰うのが現実的かな?
「ちなみに、この世界の文明発展ペースを変えたくないので、技術的な知識や情報は却下です」
げぇっ、一蹴された。確かに移動に不便を感じるけれど、私としても第二の人生、スローライフとして、この牧歌的な世界を急激な文明発展させるの忍びないし、現状維持でいいかなぁって思ってるけれど、やっぱりそっち系統は駄目なのかぁ。
……つか、さっきから糸目の上司、私の思考を読んでいるが如く、話してくるから、会話をしている気になるんだけれど、偶然だよねぇ。
「ふむ。では、不思議パワーな魔法を教えますか」
ま、魔法!? しかもこの糸目の死神、不思議パワーって言っちゃったよっ!! 理外に居る観測者の死神も魔法って不思議パワーって認識なの!?
「場所は限定されますが転移の方法なんて如何です?」
転移魔法キターーーッ!!!! 思わず食い突き気味に糸目の死神を凝視してしまった。そんな私の姿を見た彼は両の口角を上げてニコリと笑った。
そのまま糸目の死神からザックリと転移の方法を説明された。
曰く、転移可能な場所が限定されていて、魔素が発生するパワースポットからしか往来出来ないのだそうだ。では、そのパワースポットは何処に有るのか? 糸目の死神によると、どうやら私が秘密基地を造った湖にも在るそうだ。他のポイントは自分で探せとの事。投げっぱなしである。
「あれ、カノンさんは魔素が見えているんですよね?」
「魔素なんて見えてないんですけれど……」
「またまたぁー。見えたからあそこに建てたんでしょ?」
いや、マジで見えてない。と、私のそんな思いを察したのか、別に糸目の死神の説明は続けた。魔素の濃度が高い所。大地を巡る地脈は人間の血管の様に星中の至る所に巡らされている。地脈同士は地中深くで巨大な一束に結ばれており、そこから枝葉の様に地表へと至り噴出す場所。目印は魔素の濃い場所。その枝葉を伝ってを抜けて移動するそうだ。別名、龍脈。或いは世界樹。
ちなみに一定の大きさを超えた魔素の吹き出し口は迷宮が生み出され、入り口からは別の空間に繋がっているそうだ。地下にある筈なのに空が在り、海が在り、森が在り、砂漠が在り。迷宮の数だけ様々な風景を見せる事からそこは<大地が夢を視る場所>と言われている。
あと、転移時にイメージをしっかり持っていないと、地脈が混線して想定外の場所へ飛ばされる場合もあるとの事。それって、下手すると「いしのなかにいる」案件なんじゃね? そう考えると怖くて手軽に使えないじゃん!! こっちで勝手に魔法って勘違いしたけれど、や、なんとなく魔法っぽいけれど、確かに不思議パワーだわ、これ。
つか、思いっきり転移する方法を話してるよねぇ。やろうと思えばやれそうだよ。これって前払いって事にになるんじゃね?
「ああ、勝手に転移を使って事故られても当方は一切責任を負いませんので。一応、観察官としてエンヤを派遣します。イベント終了時に使い方のレクチャーを受けてくださいね」
糸目の死神さん。思いっくそ、イベントって言っちゃってるんだけど。観察って言ってるんだけれど。なにそれ、私って貴方達の玩具にされてるんじゃないんですよね!?
我が妄想。読んで頂き有り難うございます。
更新は気分的に、マイペースに、です。