第〇六六話
少女の瞳は虚ろで、既に抵抗すら無く、赤く火照った身体を弛緩させて、為されるがままに、それでいて手で優しく触れながら、時折身体をピクンと跳ねさせる反応を楽しみつつ、纏わり付いた泡をゆっくりと丁寧にお湯を掛けて洗い流す。
「……んっ、きゅっ!」
「ふぅ」
「…………」
私は額に浮かんだ汗を袖で拭う。こういった行為が初めての経験なので加減も判らず一心不乱にご奉仕してしまった。目の前にはクリスさんが、全身を隅々まで石鹸に因る擬似ローションプレイで汚れを擦り取った後、最後に優しく手を触れながらお湯で泡を洗い流したのが止めとなった模様。言葉も無く、脱力したのか、私に背を預ける形で身体をビクつかせている。
横では耳まで真っ赤に染めているイーサさん。その顔は信じられないものを見たと言わんばかりに相方を凝視している。そんな彼女に私はやりきった感を出した視線を向けると、直ぐにそれに気が付いたのかチラリとこちらを見て、歯をガチガチ鳴らし始め震えだした。次はイーサさんだね。と、ニコリと笑みを返したら後ろから叩かれた。オリガさんだった。
「た、確かに二人に対して掛け湯の手伝いをしてくれと頼んだがここまでやれとは言ってない!!」
「これがお湯に浸かる前の正しい掛け湯の形式です! オリガ様は手を抜き過ぎなんですよ!!」
「絶ーっ対に違うから! 掛け湯は多少の汚れを落とすだけで良いんだ!!」
「いや、せめてお湯に浸かる前は石鹸で身体を清めましょうよ!!」
「……くしゅんっ」
「さいっ」
「あっ」
身体が冷えてしまったであろうイーサさんからくしゃみが発せられた。そこで一旦、掛け湯論争を横に置いて、イーサさんに改めて掛け湯をしようとしたけれど、彼女は私を避ける様に手を出す隙を与えず、自分でサラッとお湯を浴びて石鹸で身体を磨いてお湯で洗い流していた。そして、そのまま、そそくさと湯船に入ってしまった。お湯に浸かった彼女はもの凄く安堵している感じだった。
ちなみに、私とイーサさんが掛け湯の攻防をしている横で、オリガさんはクリスさんを湯船に入れて介抱しており、そんな彼女も直ぐに正気に戻ったようで、なんとなくお肌がツヤツヤした感じで気持ち良さそうに湯船に浸かっていた。
私は現在、洗い場に正座をした状態でオリガさんから憤懣遣る方無い怒りをぶつけられている。目の前の、お風呂の掛け湯と言う序章、導入部の筈が、いきなりの艶っぽい声の濡れ場となって最高潮を迎えた所為で、思考が追いつかず、それでいて、なんだかんだと私の手管に魅入っていたらしく、止めるのが事後になったのだそうだ。
言葉尻に、直ぐに止めなかった自分に対する憤りが感じられた。私としてはご奉仕し過ぎると大事故に繋がる。といったそんな教訓を得た接待だった。何事も程ほどに、なんだね。反省。
私が怒られている最中に、オリガさんはお湯に浸かっているクリスさんとイーサさんに対し、のぼせる前に先に湯船から上がる様に、お風呂から出てウチの家族と晩御飯の準備を手伝う様に指示を出していた。
多少の変化があったとすれば、着替えの手伝いをしている際に、クリスさんが「カノン、貴女を私の妹にしてあげる」と言った事か。思わず「……ファッ!?」って叫んでしまったわ。尚、着替えは下着のみで、行軍訓練中は余程汚れない限り、上に羽織っていた物はそのまま着るのだそうだ。
クリスさんとイーサさんが出て行った。簡易の衝立に囲まれた浴室にはオリガさんと私の二人が取り残される。
流石に裸のままで私を怒っていた所為もあり、冷えた身体を温める為、オリガさんは改めてお湯に浸かっていた。私は身の回りの世話をする侍女役として、衝立の近くに立っていたのだけれど、それはクリスさんとイーサさんの指示であり、自分は必要無いし、先程のアレ以外は他意も無いので、一緒にお湯に入る様に進められた。
ならばと、さっさとすっぽんぽんになり、掛け湯を浴びて身体を清め、オリガさんの居る湯船に足を踏み入れる。その際、思わず引き寄せられる様に、お湯に浮かぶ彼女の二つの肉の塊に目を遣ってしまった。ホント、デカイのって浮かぶのな。
その邪な視線を感じたのか、入れ替わりでオリガさんは湯船から出て洗い場の木の椅子に座り、石鹸を使って身体を洗い始めた。私は湯船の淵に肘を掛けながらその姿を見ている。
「まさか出先でお風呂に入れるとは思わなかった。カノンには感謝しかないな」
「ウチも最近やっと家族に魔法を使えると話せたので、お風呂を使い始めたんですがね。そう云った意味でオリガ様は丁度いい時期に来たんですよ」
「そうなのか。貴族でもお風呂は労力的に贅沢品の部類に入るからな。やはり魔法と言うのは使い道に依っては重宝するんだな」
「そういえば、母さん達に対して魔法学園の話をするとは思ってもみませんでしたよ。お陰様で逃げ道はなくなりました」
「優秀な人材は逃がすつもりは無いよ。それに来年の四月には交換出張の任期が終わる。そうなったらシスイ侯爵領に戻らなければならないからな」
時間が限られているから、身柄を確保する為の理由を付けて、少し強引に家族の了承を得る方法を取った、との事。「人質を解放しろーっ、田舎のお母さんが泣いてるぞーっ、大人しく投降しろーっ」ってシチュエーションが浮かんだ。何処の犯罪者やねん。
さておき、来年の三月頃に向こうから交代要員が来たのと入れ替わりで、オリガさんに帰還の辞令が下りるらしく、それからシスイ侯爵領へ向かう予定となっているそうだ。
日程的にはシスイ侯爵家ご用達の商隊に同行しつつ、約一週間程の馬車の旅で、私はそれに便乗する形になる。その為、前以て二月下旬にはノーセロの街に出て準備を始め、出発までの間はオリガさんの暮らす宿舎で過ごす事になる。
今回の行軍訓練は、旅の同行者としてクリスさんとイーサさんの二人と顔合わせも兼ねていたのと、不発に終わってしまったのだけれど、私の魔法を、結局実演してる所は見せなかったけれど、二人に見せる為だったらしい。つか、魔法学園に押し込むって話から二人共察してるんじゃね? って気もする。
身体を洗い終えたオリガさんは再び湯船に浸かって、まったりとしながらも、そんな事を語ってくれた。
我が妄想。読んで頂き有り難うございます。
更新は気分的に、マイペースに、です。