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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇六幕 姉と募る者
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第〇六三話

 私達はオリガさん騎士団一行の行軍訓練を兼ねて、晩御飯の食料を求めて黒の樹海を探索している。最初の獲物は彼女の指示のもと、クリスさんとイーサさんに回り込んでもらい、こちら側へ追い立てる様に実行させたのだけれど、二人が行動に移す前に獲物に感ずかれて逃げてしまった。


 その後、オリガさんがアドバイスをして、その事に気を配らせながら、<気配察知>に引っ掛かったホーンラビットに対して、訓練の名目で二度三度と繰り返させた。見た感じは樹海の大自然と戯れる少女二人と云った具合で、思った通りの方向へ逃げない獲物にイラ付いて、時々木立ちの枝や立ち草にまみれ、手惑いながらも、四度目でなんとかオリガさんの場所まで追い立てる事に成功した。


 二人に追い立てられた獲物、ホーンラビットは、眼前に塞がるオリガさんを避けて大きく迂回しようと急に方向転換を仕掛けたけれど、既に彼女の間合いだったらしく、足元の不安定な場所にも関わらず、目にも留まらぬ速さで一気に獲物との距離を詰めて、何時の間にか抜いていた長剣を一閃の元、ホーンラビットを意図も容易く仕留めていた。


 なるほど。確かに自分の間合いに入れば小動物は余裕なんですね。流石、オリガさんです。ちなみに二度目三度目の逃げた獲物も私がしっかりと矢の餌食にしておきました。クリスさんもイーサさんも何か不機嫌そうな顔をしていたけれど、その成果のお陰で何も言ってはこなかった。


 これでホーンラビットを四羽仕留めた事になった。晩御飯を彩る分量としては、クリスさんとイーサさんの年齢からすると食べ盛りっぽいし、充分だと思われた。今、仕留めたホーンラビットの処理をして戻れば、晩御飯の準備を始めるには丁度良さそうな時間っぽいので撤収を提案した。


 オリガさんは地元の案内人の指示に従うと言って了承してくれた。ただ、クリスさんとイーサさんは、自分達が獲物の調達に手間取った事に納得出来なかったのか、上司、お姉様にいい所を見せられなかった事に不満があったのか、私が近くの小川のへりで獲物の血抜きと内臓の処理をしていると、その作業を覗き込む感じで軽く絡んできた。


「カノンは農民の、狩人としての技量はそこそこ有りそうですね」

「確かにオリガお姉様が言っていた通り、樹海内での行動は斥候狩人として素晴らしいものが有りました」

「けれどそれは離れた所から獲物を見つけられる索敵能力と弓を射るだけです」

「オリガお姉様が固執する程の能力があるとは思えない。精々腕のいい斥候止まりだね」


 村に撤収するという事で、多少の気が抜けたクリスさんとイーサさんの言葉は、負け惜しみっぽい感じで言ってきたけれど、私を呼ぶ名称が小娘や貴女あなたから名前呼びに変わったので、最初に挨拶した時よりも、ホンの少し実力を認めてくれた感じがうかがえた……気がする。


 オリガさんは、気の緩んだ二人とは対照的に、近場で周りを警戒しているていで私達の会話に耳を傾けていたので、率直に訊ねてみた。


「オリガ様はどの様にお考えで?」

「ははは。カノンは斥候よりも強力な移動法台として後衛が合うんじゃないかな。恐らくカノンが本気になれば私には近付く事さえ出来ないと思うよ」

「んー、私は一介の農民風情の小娘なんです。変に持ち上げなくても良いですよ」


 やはり彼女は聞いていた様で、私の言葉に直ぐに反応して苦笑い見せながらそんな事を言った。過剰な評価は有り難いのだけれど、そうなるとクリスさんとイーサさんから目に見えて要らない嫉妬を買う事になるんだけれど、何処かにその嫉妬を横流し出来ないもんか、或いは換金、払い戻しをお願いしたいわぁ。


「カノン。オリガ姉様の有り難いお言葉です。素直に感謝しなさい」

「オリガお姉様に限って、カノン程度におくれを取る筈が無い」

「オリガ姉様は先日の暴漢騒ぎでもグンジョー隊長と共にキルマ男爵を守護したと聞いています」

「そうです。オリガお姉様は、騎士団の、私達従士の誇りなのです!!」

「……流石オリガ様。領主様を守るなんて、とても素晴らしいご活躍をされているんですね」


 ……ほらぁ、オリガさんが私を変に持ち上げるから、こちらでフォローしないといけなくなるんだよ。折角風当たりが少し柔かくなったと思ったのに、ようやく下火になって消え始めた火種に風を吹き込むのは勘弁願いたいっスわぁ。


「私達のオリガお姉様なのですから」

「当然、なのです」

「ああ、クリスにイーサありがとう」


 そうですねー。二人がオリガさんを一所懸命に持ち上げて、尚且つ、顔を赤くしながら身体にすがり付いているのを見ると、私を出汁だしにして、イチャラブな展開に持って行こうとする意図が見える隠れする。つか、オリガさんは如何思ってるか判らないけれど、これが三人の何時もの予定調和的な流れに感じるわぁ。とても仲が宜しいこって。まったって羨ましくなんか無いんだからね。


 等等。遣り取りをした後、私達は樹海内を流れる小川に沿って、狩りの獲物を回収しながら、陽が暮れる前に開拓村へ戻った。


 家の玄関前で何処かに出掛けていたのか、母さんとばったりと鉢合わせをした。アルタ兄さんとリアン義姉ねえさんの家の片付けは済んだ様で、オリガさん一行の宿泊場所の提供に関して、村長さん宅へ話を付けてきたそうだ。向こうは向こうで商隊キャラバンの行商人相手に忙しくしてたそうで、渡りに船とばかりに感謝していたらしい。


 母さんが、オリガさん達の目を盗んで、私にだけこっそりと「騎士様の相手となると、身に余り過ぎて恐縮しまくりだっただろう、感謝する」と村長さん漏らしていたと教えてくれた。思わず苦笑いしてしまった。


 家の中では姉さん達は晩御飯の準備、下拵したごしらえを始めていた。オリガさんは自分達で調理すると言っていたけれど、母さんが、一緒に調理した方が手間も省けるし、食事の準備中に差し支えがないのであれば、先にお風呂に入浴して貰って汚れを落とした方がいいと申し出でていた。


 その話を聞いてオリガさん達は辺境の田舎である開拓村に入浴施設が有ると思ってなかったらしく、とても驚いていたけれど、興味がまさったのか、今日獲ってきた獲物を姉さん達に渡していた。


 私は彼女達を家の裏にある例の丸太を半分に割った浴槽の在るお風呂場へと案内した。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

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