第〇六一話
母さんから、オリガ・ゼーフェルヴ以下二名の警邏隊、計三名の接待を大役を仰せつかった。もとい面倒事を押し付けられた。
私の他に面識や適任者も居ないので、渋々ながら了承した。そして母さん達は早々に、隣にある今は殆ど使われていないアルタ兄さんとリアン義姉さんの新居へ、物を片付けに行った。
女騎士様一行は時間が有れば浅い範囲ながら樹海の探索に出るとご所望されたので、私は先日作成した矢を何時のも背負い袋に突っ込んで、弓を腰元に引っ掛け、赤い外套を羽織って準備をした。居間では、オリガ・ゼーフェルヴが母さんのブレンドしたお茶を嗜んでいる。
ふと気になって、彼女に、チラッと昼の食事を如何するのか訊ねた所、来る途中で軽く水分補給と干し肉を齧ってきたそうだ。その分、晩御飯に気合を入れるべく、樹海内行軍訓練も兼ねて、食料を確保の為に樹海へ入るとの事らしい。
そんな会話をしていると、家の扉が数度程叩かれた。玄関口に出てみると、オリガ・ゼーフェルヴの、開拓村を巡回中と言っていた部下である二人を、村の若い衆のまとめ役のロイドが本物の騎士様の前に、緊張した面持ちをしながら案内してきた。ロイドにお礼を言って、二人をオリガ・ゼーフェルヴの待つ居間まで案内する。
私が二人を居間に招き入れると彼女は直ぐに立ち上がり金髪と銀髪に労いの言葉を掛けて、開拓村に関しての状況を幾つか質問していた。二人の顔は少し弛み頬をなんとなく赤くしながら質問に答えている。
外見としては、二人共オリガ・ゼーフェルヴと同じ青と白を基調とした軍装を身に着け右半身を曝け出す様に外套を羽織っている。騎士と言うより佐官とか軍人と言った方が似合っている感じがする。歳は十三歳から十五歳の中学生ぐらい。
一人は百五十センチ半ばぐらいの金色のセミロングで髪留めを使って真ん中分け、少し細めの垂れ目がち。体型は健康優良児っぽく発育がよさそうだ。
もう一人は百四十センチ前後の銀色のボブカットに前髪を斜めに切り揃えて、ツリ目でなんとなく睨まれている印象を受ける。体型は今後に期待しましょうな具合の発展途上な感じだ。……私も人の事は言えない体型なのだけれど。
私の個人的で独断と偏見的な第一印象は、金髪が誰にでも優しそうなお姉さんの感じで、銀髪は仲のいい人間以外の対人関係に難が在りそうな感じ。なんとなく対照的な二人、みたいなイメージになってしまう。オリガ・ゼーフェルヴがこちらへ向き直り二人を紹介する。
「クリスとイーサだ。二人共、騎士見習いで従士として行軍訓練を兼ねて一緒に来た。こちらが例の娘でカノンだ。二人共挨拶を」
金髪がクリスで、銀髪がイーサと言うそうだ。紹介を受けた際、例の娘、って行で、二人からなんとなく視線が刺さる感じがした。
「最近、オリガ姉様の話題によく出ていたお嬢さんですか。想像していたより小さいですね」
「えぇ、このちっこいのがオリガお姉様のお気に入りですかぁ? まだお子様じゃないですかぁ、信じられない」
「こらっ、クリスもイーサも何を言ってる!? お姉さんらしくカノンさんにしっかり挨拶しないか!!」
「……オリガ姉様の従士をしているクリスティン・シテコネン。オリガ姉様の身の回りをお世話しています」
「えー、同じくオリガお姉様の従士でイサリア・エレアーク。主にオリガお姉様の周りに這い回る害虫駆除をしています」
あれ、これって私嫌われてる? ってよりも「私達の大事なお姉様に手を出すな、邪魔スンナ、この愚民がぁ」ってヤツ? 苗字持ちっぽいから貴族か、それに付属する身分っぽな。クリスとイーサは愛称っぽいから、クリスティン様とイサリア様と呼ぶべきだな。つか、姉様、オリガお姉様って。しかも紹介時の一瞬刺さるような視線。なんとなく察っしとくべきだね。
「クリスティン様、イサリア様、初めましてお目に掛かります。この開拓村に住むカノンと申します。以後お見知りおきを、宜しくお願いします」
下手に出れば、私達の大好きなお姉様に手を出すな、色目を使うな重圧をやり過ごせそうだし、変に揉め事や波風を立てるのも嫌なので、そう言って私は自分の胸の辺りに右手を宛て二人に頭を下げる。
「……フーン。挨拶の仕方が女の子ぽくないわ」
「でも農民の小娘にしてはそれなりの挨拶は出来るようです」
「二人共止さないか。カノンさん、済まない。何時もはこんなんじゃないんだが、私が開拓村まで警邏に出ると言ったら、こう、無理矢理付いてきてな……」
「オリガ姉様が謝られる事はないですわ。従士である私達がお供するのは当然の事なのです!」
「オリガお姉様、辺境にも沢山の変な虫がいます。私達はオリガお姉様のお手を煩わせない様にしっかり握り潰すのです!」
如何やら二人の私に対する第一印象は余り宜しくない様で。まぁ、私から君達のお姉様に何かするつもりは無いから、勝手に空回りして頑張ってくれたまえよ、二人共。
「オリガ・ゼーフェルヴ様。皆様、御揃いに為られた様ですし、そろそろ樹海の方へ参りませんか」
「カノンさんも堅苦しい言い方だな。もう少し楽に話して良いんだ。そうだな、クリスもイーサも普段から名前呼びだから、カノンさんも私の事も名前呼びで構いまわない」
「オリガ姉様、いけません! 寛大なお心使いは素晴らしいのですが、相手はただの農民の小娘です。身分的にも絶対駄目ですっ!」
「オリガお姉様が許可しても私達が許可しませんっ!!」
「……だそうです。ゼーフェルヴ様」
私が苦笑いをしながら、オリガ・ゼーフェルヴの方を見ると驚いた様な、困った様な顔をして「あー、うーん、そう、か。私は別に構わないのだが……」なんて口にしていた。なんとなく二人の扱いに苦慮している感じもする。二人の百合百合しい好意を感じていないのかもしれない。
それとは別に、オリガ・ゼーフェルヴより名前呼びの許可を得たので、今度から言葉にする時はオリガ様で、心の中ではオリガさんと呼ぶ事にしよう。さっきは貴族様だからきちんとクリスティン様とイサリア様と呼ぼうかと思ったけれどそれは口にする時だけで、心の中では同様に愛称で呼ぶ事にした。さて―――、
「では、オリガ嬢。とっとと樹海に行きましょう。案内します」
「おい、小娘、話を聞いていたのか! 農民の分際でオリガ姉様に対してなんて呼び方をしているのですかっ!」
「オリガお姉様、この身の程を弁えない娘と決闘をさせて下さい!!」
「……ぷぷっ。だ、駄目だ、きょ、許可、しない……くくくっ」
クリスさんは私の言葉遣いに噛み付いてきた。同様にイーサさんも相当頭に来たのか、決闘をさせてくれと言い放つ。当のオリガさんは「嬢」の部分がツボに嵌ったのか口元を押さえ笑いを堪えている。
私はね、心の中はお爺さんで、根が天邪鬼なのだよ。かっかっかっ。
更新は気分的に、マイペースに、です。
我が妄想。読んで頂き有り難うございます。