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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇六幕 姉と募る者
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第〇五九話

 カレン姉さんが家の玄関口で応対した女性は「オリガ」と名乗ったらしい。私の知っている人間でその名に該当する人物はオリガ・ゼーフェルヴしかいない。ノーセロの街に居た女騎士だ。


 カレン姉さんの反応からして、家名を出していなかったのかもしれん。なんにしても、彼女からここに来た目的を聞く為に会ってみない事には話も何も始まらない気がした。


 私は、固まってる母さんとカレン姉さんを置いたまま調合部屋を出て、居間でつくろい作業をしていたリアン義姉ねえさんの横を通り抜け、玄関口に顔を出した。そこには外の陽の明かりを逆光に受けていて、相対して家の中が暗い所為で、シルエットしか見えない彼女の姿形を確認した。


 左手を腰に添えているのか外套が肘の角度で膨らんでいて左半身は隠れて見えなかったけれど、右側は肩に掛けて後ろに着流していて、外套の肌蹴はだけた部分からは青と白を基調とする軍装を晒して、右足を半歩下げて身体を右斜め四十五度ぐらいにしてこちら側をうかがっている。


 その狙ったような体勢から浮かびだされている見事な身体のラインから、特に強調された弾力のありそうな胸部装甲でって、彼女がオリガ・ゼーフェルヴ本人なのだろうと断定した。むしろ確定させた。


 彼女の方も私を確認したようで、背負った逆光の所為で薄っすらとしか見えないけれど、多分、その顔には笑みを浮かべ、ズカズカと我が家に入ってきて、つか、許可も得ずに豪快に他人ひとの家に我が物顔で入ってきたな。流石に準貴族の女騎士様だ。このくっころ要員がっ!! 等の有無を言わせずに、私を抱きしめた。


 丁度、鳩尾の部分に頭が当たって顔を押さえつけられる。残念ながら私の背は低く、顔面に胸部装甲の柔らかクッションの恩恵は与えられなかった。自分の低身長が憎らしい。


「っ……?!」

「……お前は今、とても失礼な事を色々と考えながら来たよな?」

「ふがっ! んがふがむが……」


 女騎士オリガ・ゼーフェルヴが私を抱きしめられた瞬間から言葉を話せないまま、背中からゆくりと両手越しに圧力が掛かってくる。なんだ、この馬鹿力。いやっ、しかし、この頭部に掛かる心地のいい荷重は、これは意識を集中して、……くっ、殺されそう。私は抵抗を止めて、そのまま身をゆだねる事にした。


「…………」

「ふっ、はははっ、そんなに私との再会が嬉しいか、そうか、そうか」

「あ、あの、済みません、騎士様、で在られますか? う、うちに何の用件で、娘が何かやらかしたんでしょうか?」

「あぁ、これはカノンさんのお母様で在られますかっ! 改めて、私、ノーセロの街、キルマ男爵家に出向中の、シスイ侯爵所属オリガ・ゼーフェルヴと申します。貴女が名高い薬剤師のカーヤさんですね?」

「ひいっ、やっぱり騎士様だった!?」

「か、母さん、私、騎士様にご無礼働いたかも……、ど、如何しよう、如何しよう?」

「お、お義母かあさん! カレンさんも! 騎士のお姉さんも! カノンさんがぐったりしてる!!」

「か、カノンっ!?」

「……ノン!」

「…………ン!!」

「………………」


 遠退とおのきそうな意識の中、私の心中を察して仕返しとばかりに悪意の篭ったオリガ・ゼーフェルヴの声と、突然の騎士様の訪問に戸惑って家族の狼狽した声が聞こえてきた。


 ……ん、天国から解放された、のか? 凶悪な胸を抱えた女騎士が現れた気がしたのは夢、だったのか? なんか暖かくてふわふわな素晴らしい夢を見た気もするんだけれど、って、ああ、一瞬だけ意識が飛んだのか。……もしかしてこれが世に名高い酸素欠乏症と言われるヤツか!?


 そんな思索をしていると、オリガ・ゼーフェルヴは私の両肩に手を乗せて少し身体から離して、目線の位置までかがみ顔を覗き込んできた。その表情は「若干遣り過ぎたなぁ」って感じの苦笑いが浮かんでいた。……思うならやるなっ!


「ま、まぁ、この状況だとアレなんで、居間に行って話そうよ。カレン姉さんはお茶の用意を、リアン義姉さんはテーブルの上の片付けをお願いします」


 私は、何とか場を取り繕う為に、自分でアレって言っててなんだけれど、この状況を一旦リセットするべく、母さんとオリガ・ゼーフェルに居間のテーブルに付く様に話を振った。そしてカレン姉さんとリアン義姉さんにはお茶の手配と片付けをお願いした。


 全員が居間のテーブルに着席している。各々にお茶も配られ、私の前にもカップに暖かい湯気を浮かべるお茶が注がれ置かれていた。心の落ち着く匂いがする。


 テーブルの対面には、右から順番に、母さんとカレン姉さん、リアン義姉さんが続いて座っていた。こちら側は私と右にオリガ・ゼーフェルヴの二人が座っている。……何故、この配置になるのか。しかも、みんな静かだ。


 正確には、椅子に座ってお茶を用意して貰って、みんながお茶に口を付け、気持ちにリセットを掛けた筈のに、オリガ・ゼーフェルヴの第一声が「お嬢さんを下さい!」だ。当然、みんなの表情は緊張と困惑した面持ちになってしまった。以降、誰も言葉を発していない。


 彼女としては、将来的にシスイ侯爵家へ召喚するに当たり、一般常識を学ばせる為にセーレム魔法学園の入学勧誘のつもりで家族に告げに来たんだろうけれど、何の説明も無く、いきなりそんな言い方じゃそうなるよ。多分、父さんが生きていたら「うちのカノンは絶対に嫁にやらんっ!!」なんて絶対反対する案件だわ。


 ……なんだよ、この茶番。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

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