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散文の後/南風  作者: 新辺守久/小珠久武
第〇五幕 矢を放つ者
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第〇五八話

 私達家族が秘密基地から開拓村に帰る途中で遭遇した、グレイウルフとブラックベアに襲われていた開拓村の男達は、あの後、二手に分かれて行動していたらしい。


 怪我をした男達、提供したポーションで完治済みだったけれど、一応、大事を取らせて、滝壷を使って解体中だった獲物の作業をさっさと終わらせて、それらを持たせて、その日の内に村へと帰還させていた。


 怪我をしていなかった男達は、グレイウルフとブラックベアの解体の為、もう二日ほどその場に留まっていたそうだ。「解体するよりも窒息したブラックベアを掘り出すのが大変だった」と、後日、獲物の肉を差し入れをしてくれたマサクド小父おじさんが苦笑いしながらこっそり教えてくれた。基本的に開拓村では仲間と狩った獲物は参加者全員で分けるのだそうだ。


 問題は私に差し入れされた分のプラスアルファ。その中のグレイウルフの毛皮はまだしも、薬の材料になる希少なブラックベアの肝が含まれているのを見て、途端に母さんが何かを察したのか眉を吊り上げて「これは如何したのか?」と、マサクド小父さんを問い詰め、タジタジになりながら私の方を見て事の顛末を話すに至り、内心で覚悟していたとは言え、私はみんなの居る前で母さんから大目玉を食らった。


 ちなみにグレイウルフやブラックベアの残った素材は、村の再建費用を稼ぐ為に、行商人がやって来た際、売るのだそうだ。マサクド小父おじさんは臨時収入が出来たと喜んでいた。


 あとは比較的落ち着いた日常を過ごしていた。母さん曰く、就寝時のカレン姉さんとリアン義姉ねえさんの恐怖心や不安感が多少落ち着いたらしく、以前より落ち着いた感じで眠り付く様になったそうだ。


 私に対する村の人達の視線も少し柔らかくなった気がする。と言うか「アラントコの娘、弓の腕が凄いらしいな」「ブラックベアと対峙出来るんなら盗賊なんて雑魚ざこにすらならんのだろう」「うちの息子もあれぐらい胆力があればなぁ」「女の子なのが勿体無い」等等の言葉が出てくる有様で、彼等の前で使った魔法の事は有耶無耶になりそうな感じだった。以前に比べたらマシになったと思う。


 一泊二日のキャンプから戻ってきてから、盗賊騒ぎの一件から母さんは少し無気力になって調合部屋の掃除だけで終わらせていたけれど、再び調合部屋に入ってポーションや薬剤作りの仕事をする様になった。


 つい先日、私と母さんで甜菜てんさいを使って砂糖作りをした所為か、或いは秘密基地から私の蒐集したキノコ薬草類の材料を回収してきたからなのか、稀少品であるブラックベアの肝を手に入れたからなのか、兎に角、やる気が出てきたらしい。


 母さんが薬剤作りの作業開始で一番最初に手掛けたのが、私の持っていた残りの甜菜を使って砂糖を作り出した事だった。


 以前の作業手順を心の中で控えていた様で、滞りなく薄茶色の砂糖の塊を作り出していた。他の作業を終わらせると、出来た上がった薄茶色の砂糖の塊を片手に村長さんへ話を持って行った。母さんが戻ってきた時に「もう直ぐ冬になるから、来年から試験的に甜菜用の畑を作ってみて、開拓村でも出来るか確認しながら進める事になった」と、話してくれた。


 あとは私も母さんの薬剤作りの手伝いに従事していた。以前まではポーション造りの下拵したごしらえの手伝いだけだったけど「手に職を持っていれば何とかなるから薬剤作りを覚えなさい」なんだとさ。


 別にいいけれど。ちなみに、私としてはご飯の作り方を教えて欲しかったので、晩御飯の準備の際に、姉さん達から作り方を伝授して貰っていた。


 薬剤作りの勉強、御飯作りの勉強以外の開いた時間で、ノーセロの街で対宮廷魔術師戦と、先の秘密基地でのキャンプ帰りに開拓村の男達の援護した時に、結構な本数の矢を消費したので、その補填。消耗した矢作りをしていた。


 矢の胴体部分は細い木を真っ直ぐになる様に削っては、皮手袋で時間を掛けながら根気よくなめすのを繰り返した。父さんが予備で用意していた鉄製のやじりを添えて根元を糸でぐるぐる巻きにして取り付ける。弦を番える矢筈部分から十センチほど切れ込みを入れて家で使っているがらを入れた鳥の羽を挟んで、矢筈に近い部分までぐるぐる巻きにして締める。巻いた糸の部分まで斜めに切り取って矢筈を作って完成。


 ザックリと簡単に説明しているけれど、胴体部分の造りや鏃、矢羽の取り付けバランス、糸の巻き方が悪いと飛距離や命中精度に響くと父さんに教えられた。矢羽に至っては飛翔中に矢自体が螺旋の回転、スクリュー回転が得られる様に同方向へらせる工夫もなされている。たかだか消耗品の矢だと言っても、私自身いい加減で適当な人種だけれど、結構丁寧に作業していると付け加えておく。


 そんな日々がゆっくりと過ぎていった。


 秋も深まり、冬も近いのか段々肌寒くなってきた。朝の水汲みの時間帯は吐く息も白い。井戸水の地下水の方が暖かく感じるぐらいだ。一緒に水汲み作業をした近所の小母おばさんの家では朝晩暖房に火を入れているそうだ。


 秘密基地のキャンプから帰ってきて十日程過ぎた今日はノーセロの街から月一で行商人が商隊キャラバンを組んでやって来る予定日であり、ひと月後の天候次第では今年最後の行商なるかもしれない日。


 きっと開拓村の子供達はやってくる行商人を英雄かなんかに見立て、いち早く迎え入れる為に、村の入り口で待ち構えているだろう。と、そんな事を思い馳せながら、私は今日も母さんの薬剤作りの手伝いをしていた。


 薬剤作りの作業が終わる辺り、時間的には正午前ぐらい。私は作業の助手らしく機材の後片付けをしていて、母さんも出来上がった製品を整理していた。不意に家の扉を叩く音が聞こえた。


 応対に出られるのは、居間でつくろい物をしていたカレン姉さんかリアン義姉さんのどちらかの筈。案の定、カレン姉さんが客さんの応対をしたらしく、少し間を置いて調合部屋にやってきた。


「カノンにお客さん。オリガさんって人。なんかとても高そうな服を着ている」

「……えっ? なんでオリガさんが家に? えっ、えっ、どーゆー事?」


 何故オリガさんが家に来たのか判らない。確かにノーセロの街から、面倒事から避ける様に、暫く開拓村に引き篭もるつもりで帰ってきたけれど、何で彼女が来たんだ? つか、如何してここが、私の家が判ったんだろう?


「んー、カノン。オリガさんって……もしかしてノーセロのお友達? それとも冒険者仲間かしら?」

「年齢的に冒険者仲間の方じゃないかなぁ。カノン、玄関前で待って貰ってるけど、如何するの?」

「ちょ、ちょっと待って」

「ちょっと待っても何も、カノンの知り合いなんでしょう? さ、早く私達にお友達を紹介して頂戴」

「お友達違う。……ノーセロの、騎士様です」

「……はっ?」

「えっ?」


 騎士様と聞き固まる二人。まぁ、騎士爵って準貴族に当たる身分だから当然の反応ですよねぇ。私は二人の再起動を待たずに、オリガさんから会いに来た目的を聞く為に玄関先へと向かった。

更新は気分的に、マイペースに、です。

我が妄想。読んで頂き有り難うございます。

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